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 笹木孝雄と鈴木慶悟
 鈴木慶悟はどうも、小学校が深景と一緒だ。つまり近所に住んでいるかもしれないと言うことだ。
 彼はなぜ突然、犯人が一喜ではないと正直に言い始めたのか。その時期が、歩が来なくなったのと被るのも気になる。

 考えすぎかもしれない。だが、小日向さんの件にも笹木が関わっているのが引っ掛かる。
 そもそも笹木は誰なのか。
 そして、どうして一喜はそんなつまらないカマを掛けたのだろうか。

 一度頭を整理しよう。

 そう思い、ケータイを取り出して深景の番号を呼び出した。

『もしもし、りゅうちゃん?』
「…突然ごめん」
『いいけど、どうしたの?』
「今日さ、空いてる?」
『いいよ。いつもの喫茶店で待ってるよ』
「すぐ行けるから、俺の方が早いかも」
『わかった』

 そう言って電話を切ると、「へぇ…彼女?」と、聞慣れない声が聞こえた。はっと振り返ると、渦中の笹木が立っていた。

「…何の用?」
「いや謹慎くらっちゃってさ」
「あっそう」
「知ってんだろ?|椎名《しいな》|一喜《かずき》の件だよ」
「まぁ知ってるけど」

 然り気無く俺はさっきまで見ていた資料を鞄にしまった。

「今の電話の相手、|佐々木《ささき》|深景《みかげ》だろ?」

 その名前に、背筋が凍るような思いがした。

「…図星?」
「…お前、なんで」
「気付けよ。名字」
「え?」

 あっ。

「え、まさか」
「まぁ他人っちゃぁ他人なんだけどさ。
 従兄弟って言ったら正しいのかな」
「…じゃぁ、なんで」

 なんで、こんな。

「うーん。なんでだろうね。まぁ、お前らは知らなくて当然だろうね」
「…なんだお前。どういうことだ?」
「頭の良いお前ならおおよそのことは察しがついてるんじゃねぇの?りゅうちゃん」

 言われた次の瞬間、俺は笹木に掴み掛かっていた。

「お?やる?いいよ?」

 だがやめた。放り投げるように手を離し、生徒会室を一人後にした。

 なんなんだ、どういうことなんだ。

 話が読めなくなってきた。俺はこのまま深景に会ってもいいのか?
 深景はいつも俺たちを繋いでくれていた。そう信じていた。
 だが、いま一番疑わしいやつと繋がりが出来てしまった。

 どうする?何を話す?

 喫茶店に着いたのは、やはり俺の方が早かった。
 コーヒーを飲んで一息吐いて、少し冷静に考えてみる。

 そもそもやつが言ったことは本当か嘘かわからない。

 だが深景のことは知っていた。
 いずれにしてもあいつは何を考えているのか。

「りゅうちゃん」

 少ししてから深景が来た。俺の顔を見ると笑って、「怖い顔してる」と言う。

「どうしたの、急に」
「うん…紅茶でいい?」
「うん、ありがとう」

 俺は店員に紅茶とコーヒーを頼んだ。空になったコーヒーカップをぼんやりと深景は眺めている。

 すぐにコーヒーと紅茶は来た。

「何かあったの?」
「ちょっと落ち着きたかったんだけど…。
深景、あのさ。
 うちの高校に通ってる、笹木孝雄って知ってるか?」
「…まぁ。笹木くんがどうかした?」

 笹木くん?

 俺はここ最近のことや、今日のことを深景に話した。深景は黙って聞いていた。

「なるほどね。
 うーん、笹木くんがさ、そう言ったんだよね」
「ああ」
「小学校のときにさ、告白されたの。笹木くんに」
「は?」

 予想に反した内容で、深景には申し訳ないが、拍子抜けした。

「理由がね、『名字が一緒だから』だって。もちろん断ったの。でもね、問題はそれからだった」
「というと?」
「小三のころから毎年、丁度…高校に上がる前まで。告白され続けたの。同じ時期に一年に一度」
「何それ」
「毎年理由は違うの。髪が長くて綺麗だからとか。気持ち悪いから髪の毛を切ってみたら、この前まで付き合ってた人と似てるからとか。
 最後の理由が本当に意味がわからなかったな。歩くんと付き合ってるからとか言ってた」
「え?」
「そーゆー子なの。もうまともに取り合ってすらいなかったけど…そんなことになってたんだね」

 少し繋がってきた。つまり、あいつは。

「深景、しばらくさ。俺の彼女のフリしてよ」
「え?」
「今日さ、お前と電話してたら、笹木が後にいて、『彼女?』って。その後、その相手が深景だろうってさ。深景とは従兄弟だってあいつ言ってたよ。だからさ。
 なんとなくだけど、あいつ…」
「うん」
「深景のことを信頼するならあいつはおかしいと思うんだ。深景に何かあっても俺は…」
「うん。それはいいんだけど…りゅうちゃん、そうすると、りゅうちゃんはりゅうちゃんでやりにくくないの?大丈夫?」
「うん。そこは上手くやるから」

 これは上手く、いくかもしれない。

「まずは状況を共有したい。深景が持っている情報と、俺が持っている情報」
「うん」
「俺はね、深景。
 また戻りたいんだよ。みんなで仲良くしていたあの頃に。俺も深景に教える。多分今それが出来るのは、深景と俺しかいないんだ」
「そうだね」
「多分、歩も、一喜もそれを願っている。だけど動けないでいるんだ。だから」
「わかった。りゅうちゃん」

 深景は、優しく笑った。

「…一人なら出来ないけど、二人なら出来るよね?」

 そう信じたい。

「うん」

 そのために俺は来たんだ。

「私は、そんなに大したことは話せないけど…」

 しかし、深景が話したことは凄く参考になった。

「まず一つ目。
 彼女のフリ作戦は、歩くんも私に昨日言ってきた」
「え?」
「うん。やっぱり笹木くんのこと聞かれてさ。話したら、「だったら」って。
でも、どうしていいかわからなくて返事をしていないの。だって、あの人本当に…なんかおかしいでしょ?今日りゅうちゃんの話を聞いて尚更そう思った」
「確かに。でもね深景。
 それで深景に何かあったら笑い事じゃないよ」
「…うん」
「だからね、」
「理穂はずっと、歩くんが好きだったの。それはもう、りゅうちゃんや、一喜くんや澄くんが気付くよりもずっとずっと前から。多分本当に、会ったときなんじゃないかなぁって思うんだ」
「うん」
「ずーっと相談を受けてた。でも途中で、澄くんが、理穂を好きなのをわかって、理穂は澄くんを嫌ってた」

 つまり。

「やっぱり、俺だね。深景」
「そう…だね。
 でもりゅうちゃんだって」
「歩に話してみる。色々聞いた結果俺でいくよって」
「それで大丈夫なの?」
「わからない。でもこれで深景も歩も守れるかな。俺に力があれば。
 ダメならちゃんとみんなから力を貰うから」

 心配そうな顔をしていた深景だったが、そのうちふと笑った。

「わかった。もう、りゅうちゃんに任せる」
「俺の秘密一個暴露していい?」
「うん」
「本当に個人的なことなんだけどさ。結構爆弾投下だからね?」
「もったいぶるね」
「…俺歩に告白したんだよ」

 だけど深景は微笑んで、「聞いたよ歩くんから」と言った。

「それも悩んでた。なのに私を彼女のフリさせちゃうのはどうしたらいいと思う?って。だから返事しなかったの」
「あぁ、そうなんだ」

 あいつめ。
 最早こっちも笑ってしまった。

「やっぱり、深景と話してよかったよ」

 少し疑ってたのも、晴れた。
 まだまだ謎は残るけど。だけどきっと、意味があるはずだ。

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