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 深景と共に店を出て帰路を歩いていると、「おい」と言う声が背中から聞こえた。

 振り返れば笹木が立っていた。
 背筋が凍るような思いがした。

 こいつ、ずっと後をつけてきたのか?で、俺たちが出てくるのを待っていたのか?
 なんなんだ?

 深景が竦み上がるのがわかった。その肩を抱く。やっぱり肩が震えていた。

「目の前でイチャイチャしやがって。
深景ちゃん、騙されちゃダメだよ。そいつ、ゲイだからね」

 空気が凍った。

「お前、|浦賀《うらが》のこと好きなんだろ?」
「…は?」
「笹木くんいい加減にして」
「深景ちゃん、そんなのやめて俺にしなよ」
「嫌だ」
「なんで?」

 ゆっくりとこちらに近付いてくる笹木に、深景は後ずさる。

「逃げるよ」

 そう言うと深景と漸く目を見合せることが出来た。頷いて二人で走り出す。
 ただ、どこに逃げようか考えていない。一番近いのは深景の家だが、この状況で行くのはどうかと思う。

 後ろを見れば笹木は走って追いかけてきていて。

「…取り敢えず、一回俺ん家!」
「うん」

 そのまま途中で巻いてから俺の家まで走った。玄関で二人、息切れしてしまった。

「あらどうしたの!?」

 母親が慌てて奥から出てきてくれる。「お、おじゃま…します」と、息も切れ切れに深景が言うと、「と、取り敢えず、水でも持ってくる?」と母親が言うので頷いた。

 母親の持ってきた水を飲ませ、俺も飲んで、一息吐いて互いに落ち着いたのを見ると、「…取り敢えず、夕飯でもどう?深景ちゃん家に電話しといてあげるから」
 と言って母親はすぐに、エプロンのポケットからケータイを出し、電話を始めた。

「あ、もしもし、岸本です。
 急にすみませんー。深景ちゃんなんですけど家に遊びにきてて…夕飯どう?って話になったんです。ちょっと、代わりますね」

 そう言って深景は母親からケータイを受け取った。

「もしもし…うん。そう、りゅうちゃん家。
 え、別に…うん…うん…泣いてないよぅ…うん。はい」

 途中で泣き出してしまい、母親にまたケータイを返した。

「すみません急で。いま二人で息切れしながら帰ってきたもので…はい。どうしましょう?
 わかりました、お待ちしております。ゆっくりで構いませんよ。はい。あ、家ですか?今日はね、トンカツです。ええ。では」

 ケータイを切ると母親は、「よし!」と言い、深景に微笑みかけた。

「今日はトンカツです。お腹すいてる?食べにくかったらカツ丼にするけど」
「いえ…ありがとうございます」

 俺と目が合い母親は頷いてリビングに引っ込んだ。

 夕飯を作っている最中だったようだ。またキッチンから音がし始めた。
 深景に手を貸して、リビングに案内する。

「深景」
「うん…りゅうちゃん、ごめんね」
「俺こそ…多分、計画は終わったし俺じゃ守れないね」
「何があったの?」

 母親がキッチンから優しく聞いてくる。言って良いものか迷っていたが、深景が、「私、ちょっと、ストーカーに悩まされてまして…」と言った。

「えっ」
「りゅうちゃんがそいつから守ってくれようとしたんですが…」
「隆平が?」
「うん。
 その…彼氏のフリをしようとしてたら、彼氏じゃないのバレてさ」
「ありゃぁ、一番やっちゃいけないやつだね。次を考えた方がいいよ。どうやって信じこませるか」
「え?」
「だってそれだと二人とも今危ないもん。だったらいっそ、いや、もう付き合ってるからって方が安全だよ。
 ただね隆平。彼氏のフリしたからにはもう覚悟は生半可じゃだめだよ。相手が危ない人なら殺しに来るかもしれないんだから。
 警察に知り合いいるんだし、今日のうちに連絡しておく」
「うん」
「深景ちゃんもね。気をつけて。親にも相談しなさいね」
「はい…」
「よし、わかったらご飯ご飯!お母さんお腹すいたよー」

 少し安心した。

 それからは少しずつ楽しい話をして夕飯を過ごした。
 夕飯を食べ終えて、部屋で休む。アルバムを見ながら、昔の話をした。

「あの日のこと、覚えてるよね」
「あの日?」
「事件の…前日」
「あぁ…」

 忘れもしない。

 みんなで小学校の頃に撮った写真を見て深景は切なそうな顔をして言った。

「…なにが悪かったんだろうね。いつから…わかり合えなくなっちゃったのかな」

 そもそも、どこから始まったのか。
 多分もうかなり前から、ダメだったのではないか。

 あの日集まったとき、どこか一人一人が思っていたはずだ。「そろそろかな」と。
 きっかけは、本当に小さな変化だったんだ。

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