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それから一睡もせず病院で朝を迎え、一度家に帰り身支度をしてから学校に向かった。
授業中はほとんど寝ていた。ふと起きたときに教室に誰もいなかったときは本気で幻滅した。
せめて移動教室なら起こしてくれてもいいだろう。今更そんなことを思っても仕方ないし、誰が起こしてくれるか想像すると、誰も思い当たらなかったけど。
てゆーか、チャイムでも起きられないくらいに眠いらしい。ホントは誰か起こしてたかな?
多分起こしてないだろうな。
まぁいいや、昼飯買いに行こう。
早めに購買に行って昼飯を調達し、屋上の前で本を読んで待った。
屋上の鍵はどこから調達してくるのか知らないが、大体は隆平か小夜が持っている。
チャイムが鳴ってしばらくすると、小夜が鍵を開けにきた。
「あ、一喜先輩!」
「よっ」
「早いですね。お待たせ致しました」
小夜が屋上の鍵を入れると、首を傾げた。試しにドアノブを回すと、開かなかったようだ。
「あれ?もしかして岸本先輩来てました?」
「いや、来てないよ」
もう一度、鍵を入れて逆に回してみると空いたようで、二人で屋上に出た。
歩が、塀に身を預けて校庭をぼんやり眺めていた。ドアの音を聴くと、「あ、」と、やっぱりぼんやりと言った。
「もうそんな時間か」
「浦賀先輩!お久しぶりです!」
「久しぶり。元気そうだね。あれ?岸本はいないの?」
「まだ来てないな」
「そっか」
「あれ、てか一喜先輩…」
ふと、小夜が俺を見て、さらに顔を近付けてきて少し驚く。
「なんだよ」
「寝不足ですか?」
「え?」
「ふっ…!」
歩が突然吹き出した。まぁそりゃぁそうだろうけど。
「久しぶりに会っても、やっぱり君は変わらないね」
「え?」
「なんでもない。俺も一緒でもいい?」
「はい!」
「じゃぁ飯買ってくるね」
歩はそう言うと、屋上から出て行った。
「…変なやつだなぁ」
「仲直りしたんですね」
「え?」
「いや…。
私が知ってる一喜先輩と浦賀先輩は、犬猿の仲だったから」
「まあ…」
元々、それほど仲がよかったわけではない、多分。
「元々そんなに仲は多分良くないんだよ。
だって俺は、あいつに羨ましさばかり募ってってさ。でも、尊敬とは違う。最早、妬みに近いのかなって思うんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。いつもあいつはなんでも出来た。運動も勉強も。それが努力の結果だってことはわかってる。
だけど世の中には、努力の結果が実らねぇやつもいるさ。
あいつはそれをなんて言うか…それに気付いてない。やっぱりさ、すげぇやつってみんなそうなんだよな。出来て当然って感覚っていうかさ。
だけど、そう思えるほど努力もしてるのかなって思うと、羨ましい」
「一喜先輩…」
「努力出来るってことも、才能のひとつだから。俺は、人間としても…兄貴としても、あいつには敵わないんだよ」
「でもそれって結局…。仲良しですね」
「え?」
そう言うと小夜はにっこりと笑った。
「相手のことをそれだけわかってあげて、敗けを素直に認められて称賛出来るのって、良きライバルであり良き友達だと思いますけど?
私そーゆー人、いないからちょっと羨ましいな」
そう言われると違和感があるけど。
少し納得もしてしまった。
「一喜先輩って、物凄く素直な人ですよね」
「それ、小夜が言う?」
「私のお墨付きと言うことで、どうですか?」
思わず笑ってしまった。
あぁ、なんか…。
「俺さ、実は今日、ちょっと憂鬱だったんだよ、なんとなく」
「あ、そうなんですか?」
「だけどさ、なんか、」
どうでもよくなった。少なくても、今だけは。
「小夜といると楽しいわ」
そう俺が言うと、小夜はなんだか俯いてしまって。
どうしたんだろ。俺なんか言っちまったかな。え?キモかったかな。
「え?ごめん、なんか…」
「いえ、いや、あの、あまりに直に来たんでちょっと…戸惑ってます…」
「え、ごめん。なんだろ、なんか…。
妹にも…よく言われるんだ。人の気持ちを考えてから言えって…ごめん」
「いや、その…悪い意味じゃないんです!嬉しいんですよ!」
「え?」
嬉しいって?
「その…。
私も一喜先輩と話してるの楽しいんですよ?だから、なんか、なんて言うんだろ。同じ事、思ってたんだなって、直に伝わってきたと思って…」
あれ?
なんだ。
メチャクチャ恥ずかしい。
「あっそう…」
今度は俺が俯く番で。そんな時にドアが空いて、「あれ?」と言う歩のなんだかマイペースな声が聞こえて。
やりきれずに歩の顔を見ると、急にニヤニヤとし始めて、「あれ?俺もしや…」とか言ってる。
「おっせぇんだよ歩!」
「頑張って早めに来たよ。てか岸本は?」
「…知らねぇ」
「あ、メール来てました…。あら…」
「ん?」
「『私用により、本日の昼休みは欠席致します』だそうです」
私用? てか…。
「文章硬っ」
「いつもこんなんですよ、岸本先輩」
「マジか。俺らとやっぱ違うね」
「私用、ねぇ…」
歩は画面を見つめながら何か考え始める。
「これじゃないかな」
そして、いつもの飄々とした態度で自分のケータイを俺たちに見せてきた。
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