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それは、学校の“裏サイト”と呼ばれる掲示板だった。要するに、噂話や誹謗中傷などが書かれている掲示板だ。
見る気もしなかった。
だが、小夜は歩のケータイを覗きこんでいた。
「こんなのあるんですね」
「まぁ、大体の学校はあるでしょ。こーゆーの好きなやつは好きだから」
「うわ、クラス毎にあるんですね」
「俺もここ最近初めて知ったよ。あんま読んでないけどね。情報にもならないようなことばっかりだから」
そんなことまでしてんのか歩は。
そしてそれは、隆平の『私用』に関わるのか?
「確かにしょうもないって言うか…最早なんでもいいんですね、書いてあることは」
「まぁそうだろうね。がっつり君のことも一喜のことも俺のこともあいつのことも書かれてるね。てか君、そんなに恨まれてるの?」
「いや…」
「でも一躍有名人になったわけだね、学年中で」
「何の話?」
大体の検討はついたがここまで来るとちょっと気になる。
「ビラ配られたってね」
「あぁ、それか」
そんなことすら書いてあるのか。
「なるほど、二人のそのリアクションだと、あながちインチキばかりが書いてあるわけでもないわけだな」
「え?」
「うん、ごめん。ちょっとカマかけたと言うか、真偽が知りたくてね」
…流石と言うかなんと言うか。
「お前わりと不愉快だな」
「それで結構。今は友情に構ってる間もないんだよ」
だが思ったより歩は、切羽詰まっているらしい。
「珍しいな。いつももう少し余裕こいてるのにな」
「そう?」
「何?そんなに目障りなの?」
試しに、ケータイを取り上げて覗いてやった。
「あ、一喜先輩!」
少し読んだだけで確かに、俺たちはわりと有名人だった。
他の情報にどれだけ信憑性があるかはわからないが、少なくとも俺たちのは、小出しでマジなネタも織り混ぜてあって。
それに尾鰭がついてさらに盛り上がってるようで。
「…もうこのなかじゃ、小夜は尻軽女になり下がってんな」
「そうですね」
「これさ、どんくらいの生徒が見てるもんなの?」
「わからない。まぁ…わりと見てるんじゃない?話題を真に受けてるやつはあんまりいなかったとしても」
たまに、洒落にならないようなネタもあるのが気に触るところではある。
「あ、歩が言ってんのこれか」
ズバリ書かれているのは、隆平がゲイで歩と付き合ってると言うネタだ。
スレッドはどんどん更新されていく。
てことはこれはリアルタイムか。
「でもこれ知ってんのか?隆平は」
「サイト事態は知ってるよ。なんせ、元生徒会長の俺が知ってんだよ?
てかうざったいね。ちょっといたずらしちゃおっか。生徒会長いねぇし」
「は?」
歩は楽しそうに何かを書き込み始めた。覗いていると…。
『裏サイトをご覧の暇な生徒諸君、こんにちは。話題急上昇ワードにあげていただき光栄です。元へっぽこ生徒会長の浦賀歩です。
ただいま同じく急上昇ワード仲間の椎名一喜と小日向小夜と共に屋上にいます。どうやら皆様言いたいことがたくさんあるようで、暇な昼休み、授業が潰れそうで嬉しいなぁ。いつでも話し相手になるので来てくださいね。リアルタイムなう』
「お前…」
「あ、書き忘れた。実名あげてるやつのIDと名前一覧表を作っておいてやろうか」
ここまでくると怖い。
二人でただただ歩に圧倒されて、少し狂気じみた歩を眺めることしか出来なかった。
歩はダルそうにタバコに火をつけた。ゆったりとした動作。手慣れたその動作が今は不自然に見える。
「小日向さん」
「はい」
「あれから笹木はどうだい?」
「いや、特には…」
「お店に来たりしてない?」
「え?」
「…でも君には、守ってくれる人がいるからね。
困ったことがあったら、一喜や岸本やまわりにも、ちゃんと言いなよ?みんな、君に何かあったら、悲しむから」
「浦賀先輩?」
「な、一喜」
ホント…。
「それはもちろんそうだけど…。お前、どうしちゃったんだよ…」
「どうもしないよ」
いつも通り、歩は爽やかに笑ったのだが、なんだか翳があるように見えてしまった。
ふと、そんな歩を見て思う。
やっぱり元には戻れないんだな、お前は。
わかってたんだけど。
だいぶ前から、お前がぶっ壊れちまったんだとわかってたんだけど。
目の当たりにすると、ひしひしと心に刺さるものがある。
ただ。
俺はお前に、果たしてなんて声を掛けてやったらいいのかわからないんだ、ホントに。
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