線
彼女が裸足で海の向こうを眺めていた幼い頃、「あの線は空と海なの?」と僕に聞いた。
僕には確証すら覚束無いまま「そうだよ」と答えることがごく自然な現象だった。
空と海はそれなら、混じり合うことはないのだろうとすら遠くに置いてきてしまって。
君が大人になり世界が丸いもので宇宙が広いものだと知った時には、海を眺めて泣くことすらもなくなっていたけれど。
夜の海にはどこからともなくいつの間にか星が光って吸い込まれそうなのだから、ただただ途方に暮れただけなのかもしれないけれど。
もしも、の話をしたときに僕は確証のないまま「きっと海の向こう側や空と同じところだよ」と答えてしまったことが、君を自然に泣かせるようなことだったのかも知れなくて。
覚えているかい、それは1999年の出来事だった。
本当はなんだってよかったのだけど、と、僕は一人ベットの上で窓の外を眺めゆっくり、水滴が落ちるように眠ったんだよ。
いつか君が大人になったときに。
足元から崩れるようなその漣に膝をついたときに。
纏いつく塩の音に。
果てしない星の沈む場所で。
思い出して笑ってくれたらと僕は願っている。
いつか君と聴いた音楽のように。
世界の終わりで、待っているから。あの星はオリオン座で、今はないペテルギウスに線を結んだ最後の記憶。
また明日、繰り返して。
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