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手は読みにくい相手だと感じてはいたが、山南は「試衛館に身を置きたい」などと言うのだから、本格的にわからぬものだと土方は感じた。
「近藤様、私は貴殿の腕、なによりこのように突然にも関わらず機会を与えてくれたその人柄に感服いたしました、暫し貴方の元で共に学びたい」
として、頭を下げるのに腹積もりかどうか定かでないとも、感じてしまう。
「しかしなぁ…」
と近藤は考えるふりもするようで、しかしそれは次期に次ぐものに委ねるしかない。
「…食客も4人いるし、見てわかる通り道場に余裕もなく…」
「この試衛館、天然理心流《てんねんりしんりゅう》を広めていけば如何でしょう」
痛いところは突かれている。
「道場とは時に赴いて手合わせするのが一番かと思いますよ近藤様」
しかしそれで相手が受けてくれるのならそうも行くが、この男の理争論は確かに大きな難もない道場の物だといってやりたいのは土方のみである。
沖田なぞは「私も貴方と手合わせをしてみたいものだ」と交戦体勢で前向き、それはいいことだが上手くいくのかと言いたいところ。
「私でよければその手伝い、是非快く引き受けたい」
やはり腹の読めぬ。
食客の永倉も原田も斎藤も、やってはみたいがどうだろうかと言うのが空気でわかる。確かにまんねりとしているのも、事実ではあるし実践的なものは場数が必要だとはわかるが、何故か土方には山南の意見に逆接ばかりが浮かんでしまう。
もやもやしているがわかっている。沖田が言ったようにただ、この山南敬介と言う男は土方と馬が、多分合わないのだ。
「この道場は確かに、金もない」
そう言ったのは現道場主の近藤周助だった。
「それが上手く行けば心配もないがな」
お前らにそれが出来るのか。
言われなくてもそればかりは伝わってくる。
「…あとは手合わせたお前が一番わかるのではないか、勇」
「…はい」
「私としてはこのように手強い方がそういっていただけるのは有難いこと」
「…山南様、」
近藤勇は言う。
「…今日は泊まってくれてもいい。しかし一晩返事に時間をくれないだろうか」
拍子抜けした。
この男頭を使うのに少々時間がかかるのだ。
「…畏まりました。
一食一鈑、恐れ多くもお世話になります」
確かに人柄はどうやら、ここの誰よりも寛容ではあるらしいなと、土方と近藤はそれからまた中庭で思いに耽る。
それはアレならでは、出合い一つも二つもいくつか分からぬが取って貰えると思っているのか。
大層な自信だと皮肉もあるが、確かにやる気は誰よりもあるのかもしれないと土方は考えた。
「なぁ、トシぃ」
「そうだねぇ…」
だが正直そんなものは手合わせてみなければわからぬものだ。それだけはあの手合わせを見て感じた。
「俺はこの道場を潰してしまうかもしれないな」
「あんたの中では決まってるんだろ」
「どうかなぁ…」
しかし土方にはその先にしか興味はない。
「…道場が潰れたとしてそれはあんたの力量だが、俺はもう少し先を見ているよ」
「と、言うと?」
「潰したところで武士になれるかなれないかと言うところだよ。俺はそれしか考えていないけどね」
「…参ったなぁ」
この男はいつでも、脛を蹴飛ばすような手合いだ。近藤が敵ったことなど少なかった話で。
「…総司もやる気満々だったよなぁ…」
「アレは強けりゃなんでもいいんだろ」
「強かったよ、確かに」
「そうだねぇ」
自分が手合わせたわけでもないけれど。
「敵わんなぁ…」
この土方歳三の淡白さは、いつでもこうで一手も二手も違うのだ。しかし拘りのある男。そして思うよりはおおらかではある。
「トシの淡白さは筋金入りだよ」
どうやら決めたらしいなと土方は読んだ。山南、沖田、永倉、斎藤よりもこの男は背負う。それは出来る男なのだ。
「…酒でも飲むか」
「この薬効かねぇけどな」
「それを言っちゃぁいけねぇよ」
二人はそれから、暫し二人で焼酎を飲むのだった。
山南敬介は、それから共に京に登る男となった。
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