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数日翡翠は朱里に付き、ほうじ茶を覚えて「どうです?忘八」と漸く藤島をもてなしたのだが。
小姓が言った「忘八」に、ほうじ茶を飲んだ藤島は突然と茶を詰まらせ、苦しそうに咳をした。
「大事ないですか」と背を擦る翡翠に「てめぇ…何様だこらぁ…」と咳をする。
吐き出すほど不味かったのかと考えたが「良い度胸じゃねぇか」と吐き捨てられたことに疑問な顔の翡翠に、藤島はまさかと思い当たった。
「…この手は朱里か」
「あい、不味かったですか?」
「あぁ味がわかんねぇよ詰まっちまって」
「言われた通りやったんやけど」
「言われた通りねぇ、お前忘八とは何様だおいとあの野郎に言伝てしてこい」
「いやぁでも朱里兄さんは夜はお仕事や言うてましたえ」
「わかっとるわ、お前な、俺は楼主だぞおい」
「ろうしゅ」
「ここの!主!」
「はぁ…」
「学び直してこい、丁度線香番くれぇなら青鵐を捕まえて教わってこいよ、二階で!」
「えーあはぁい」
クソガキの吸収率たるやなんなのか。学もない、あっさり飲みこんじまいやがってと「はよ行け!」と藤島は翡翠を部屋から追い出してしまう。
「ついでに忘八たるやを教わってこい!」と言うも聞こえたかはいざ知らず。
あん人なんなんやろうかと翡翠が疑問のまま二階へ上がろうとすれば、廊下で朝の、千鳥に後ろからぶつかられてしまい転けそうになった。
千鳥はどうやら坊主の腕を絡めとり「あらあんた」と、大したこともなさそうに翡翠をみる。
「そんなとこいたら邪魔でっしゃろ」と自分を置いて先を行く坊主と千鳥に「なんや、」とイラついてしまう頃にはもう二階。頭に来るぅ、上がれば階段あたりに青鵐が座っていた。
「どないしたん?」
「朱里兄さんにご用事が出来ました」
「…まだ線香、多分残ってるけど、切れる頃かもしれへんな」
「線香番と忘八を教わってきなさいって、ろーしゅが」
「はぃい?」
青鵐としては「ようわからん」と、隣に座るように促してきて。
「二階廻りの交代やろか?」
「交代?」
「ちゃうの?」
「言伝てしてこいと」
「…なんやようわからんけどなら、油」
そう言われ、青鵐に行灯の油を渡されれば「これ?」と疑問。
「言伝てですか?」
「いや、部屋の行灯の回ってきてや。線香が終わったところから、「お時間ですえ」と声を掛けながら」
「なんやわからんけどやってきますわ」
「頼んだでー」
青鵐はこれはこれで下男の仕事を教えたことになるが、翡翠は二階に来てそれぞれ、部屋から「あぁん」だの「ふへへ」だの、そんな声を聞いてみて「なんだかなぁ」と思っていた。
あのヤクザ親子を思い出すのだ。
耳元に掛かる湿った、生の魚のような息とか、身体をそれが這って行くのとか、しかし不思議な熱い、痺れて解れそうで癖になる身体の良さ、いや、あれは痛かった、熱かっただとか、そんな事が。
墨を入れたその日に魘された屈辱は置いておきたいが、なんとなく肩や首筋を撫でてしまう。妙な感覚に陥る。まぁ、流石に14である、その正体は知っていて「おもてなし」という言葉を考えた。
なんだ、茶屋と聞いたがここはそんなものではなかったのか。線香が切れた部屋を発見し襖を開ければ「なんや!」。
抱き合う男二人がいるのだから溜め息を吐いてしまった。
「おい一言、」
「お時間ですぅ」
構わずずかずか入っては「こんのアホんだら!」と、振り袖を着た方、つまりはここの従業員に怒られてしまった。
「なんなん、なんなん!」
「行灯の」
「アホぉぉ!」
あろうことか何かを投げつけられては「出てけこのうつけ!」とまで言われてしまった。
櫛を投げられたようだった。
あれ?と、階段あたりにいる青鵐を眺めれば「失礼しますや!」と言っているのだが、夜目が利く方である翡翠すら読唇出来ず、声も喘ぎ声に消されてしまった。
仕事は失敗したようだというのが翡翠にもわかったが、そこから2つ先の部屋の線香時計の線香が短くなっている。
まぁ行くしかないのかと油を手にしたままだった。
急に、その部屋の襖が空いた。
慌てた様子の、髷が乱れた武士階級だろう男が着物なぞ肩に掛けただけの状態。
「ありゃぁ」と言った翡翠と目が合った武士が裸も気にせず「お前二階番か!」と尋常じゃない様子で言うのだった。
「血、血を吐いた!おい!」
「はい?」
「朱里が…!」
その言葉に「え、」と狼狽える中で武士は部屋を指す。
翡翠が覗くか覗かないかはもう武士のなかでは「交代」だったようだった。帯を絞めながら「か、帰るわ、」と出て行ってしまう。
何事かと覗く前から、乾いた咳の音がした。
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