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口数も少なく素直についてくる翡翠に、「変な子やな」と、朱里は朱里でまぁ、例えばあの調子に乗った溝鼠のような男娼に預けるよりかはいいだろうと勝手解釈をする。
藤島に啖呵を切ったが、まぁ切ったからこそ少し、この子供の純粋さに対する怖さや気持ちは、わからなくもない。
忘八に恥じぬも雇い主だ。なんとなく、その心中にも疑問は、なくはない。何を汚したがるか、相変わらず薄情な下衆野郎だと少しは翡翠が不憫である。
まぁ、生きるなどそんなものかと、次は面を殴られるかも知れない、そりゃぁ客を取らずといいもんだなと、朱里は楼主部屋へ翡翠を連れていく。
藤島が不機嫌に縁側で煙管をふかしていた。来客に振り向けばあの朱里と翡翠。はぁ、随分早いな、じっとりと朱里を眺めた。
「どうしたお前、早くも根ぇあげたか」
「こん童、茶ぁも軟膏も知らんとな楼主。わてがあんさんに返しに来ましたえ」
朱里はにやける。
つられてしまったのか「ふっ……!」と、まるで耐えられなかったかのように藤島は一口を吹き出し、「てめえ一口返せよ阿呆鳥」と笑って朱里に言い返す。
「なんやねんその笑いは」
「いやはや、物事は空気を読んだもん勝ちだなと思ってな」
「許しまへんけどねこの外道。荷物返しに来た言うんに」
「そんなに怒ってるの?まぁ座って手ぇだせよ」
あらら。
仲が悪い訳ではないらしいなと、「当たり前やろ」と言いつつ縁側の隣に座った朱里、翡翠は二人の後ろに座って二人を眺める。
煙管を薬箱の上に置いた藤島は引き出しを開け「はいはい」と仕方ない、と言わんばかりに朱里に手を出す。朱里はその手に怪我をした手を乗せ「あんなぁ、」と口を開いた。
「こん子なぁ、」と続ける朱里へ、藤島は薬箱から取り出した塗り薬を指一本一本、傷にゆったり塗る様を翡翠は見る。なんだか変な感じ。その薬を塗った手に包帯まで、巻いている。
「わてのこれ見て舐めたんよ」
「はぁ?」
「あんさん教育おかしいんちゃうの?」
「内儀だなんだ言ったてめえが何言ってんだか」
「で、実際はなしてこんな子供を」
「品がねぇな立ち入るなよ」
「どうせ知れることやろ」
「お前の裏表の無さは嫌いじゃねぇが、ここに灰を落としてやりたいね」
藤島は朱里の、その塗った手を引き寄せ髪を掴み、甘く口吸いをするものだから翡翠は目をぱちくりするしかないのだが「なんや?」と、口を離して驚くのは朱里の方だった。
「こん子、なんや開通しとらんのか楼主」
「藤宮んとこの捨て駒にそんな通りがあるわけねぇだろ」
「…藤宮ぁ!?」
「あぁそうだよ」
二人は口吸いなぞ何事もなく会話をするのだから翡翠には奇怪でならない。殴ったり口吸いしたりとどういったものなのか。
「おぉ怖、人が悪い」
「俺に常識がないのはわかるだろ、お前が一番」
「…なしてそんな子を」
「面白ぇんだよこいつ。和泉の刑場で拾ってきた」
「…はぁそう」
朱里が翡翠を見て「一筋縄ではいかへんね」と言った。
「縄なんざ必要ねぇよ。そんなもん犬にしか要らないだろ?」
「はぁ、最低やな。あんたもう、小姓なんて端からわてに付ける気やったんか」
漸く意味が、わかったようだ。
「空気が読めるやつは違うねぇ、やっぱり」
「酷い人。ホンマに忘八や」
「まぁな」
朱里は溜め息を着いた。
「茶汲みからやるしかないねんこん子」
「優しいねぇ。よろしく頼むよ朱里ちゃん」
「気色悪っ。いっぱい食わされたな」
「貰て行くで」と手を出した朱里に「ふへへ、」と笑った忘八がわざわざその手ではなく翡翠に茶筒を渡す。
何がなんだかわからぬままに「さぁ行くで翡翠」と朱里は立ち上がった。
「今日からわてがあんたの教育係や」
「あ、はい」
「あはいらんねん」
「はは、翡翠も苦労するな。こいつは口が悪いからな」
「うるさいねん忘八」
「優しいねぇ朱里は」
手を取られ「こんな嫌なやつとっとと離れるで、ったく!」と、慌ただしく藤島の部屋からまた、出ていくことになった。
「がんばれ翡翠〜」とダルく言う藤島を置いて朱里と翡翠は部屋を去った。
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