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 なんだかんだでそれから忙しくて、その合間に三人で店のクリスマス準備を進めてはいるが少しづつしか進まない。よくよく考えれば忘年会シーズンだし、少し出遅れたようだった。

 そんなんでも柏原さんはわりと余裕そうにどんな忙しそうでも、カウンターと厨房を行き来しては、「さっきのお客さんさぁ」とか、「光也が女にまた口説かれてるよ」とか無駄話ばかり絶えない。そのうち邪魔そうに光也さんに追い出されたりして。

「そう言えばお前決まったの?クリスマス」
「え?」

 珍しく仕事の話をしてるなとか思ったら、「お前らの家ワンルームだっけか」とか言ってきたので、あぁ、それか…と少し溜め息を吐いた。

「決まったも何も別に…。つか忙しいじゃないですか」
「うん。クソ忙しいよー」
「てかあんたは?」
「俺?俺はね、大丈夫、そーゆーのわりと抜かりないから。お前らと違って大人だからね」
「あーはいはい。
 これちょっと出してきてください」
「うわ、冷たっ!お前光也以上にドライだね!」

 面倒だから最早目を合わせてやらないことにした。こっちは仕事ないときはあんたの思い付きに付き合って色々考えてんのにさ。

 渋々サラダを持ってく柏原さん。
 「光也ー、あいつなんか冷たいよ!」と言うと、「また来たよ…」とか言われてるのが見える。あぁ、やっぱり一回追い出されたのね。仕方ないな…。

 もう仕方ないから指をくいっとやって戻って来いの合図。それを見て光也さんちょっと笑いを堪えてる。

 なんだかんだあんたも愛されるキャラだな。

 素直にこっちに戻ってくると決めたようだ。まぁまだマシな日かな。ただ柏原さんが背を向けたあと、男の客が光也さんに何かを渡して困惑してちょっと柏原さんを見たのが気にかかったけど。

「え、帰ってきたのに何その顔」
「ん、あぁ、いつのまに」
「え、そんな光也に見惚れる?」
「いや…」

 ただその後は普通に仕事に戻ってたからまぁいいか。

「あ、わかった|坂本《さかもと》さんか」
「は?誰それ」
「あそこの奥から三番目くらいの席座ってる中年。あの人ね…多分だけど何?バイ?最近毎日来てるんだけど帰り際に俺によく声かけてくんだけどさ、なんかね、光也のことなんだよ」
「ふーん」
「でも光也には俺のこと聞いてくるらしいからなんだろね」
「んん?それは最早こっち系じゃないの?」

 自分を指差して言うとあからさまに嫌そうな顔して指を払われた。自虐に使うとこのネタ怒るんだよな、この人。

「やめろ、言い方が胸くそ悪いって何回言わせんだバカ。
 いや、でもね、あの人多分女のお客さん連れてきたりその場で会った人ナンパしたりしてるからそろそろぶっ飛ばしてやろうかなって思ってんだけどなんかあった?」

 かるーく怖いこと言うなぁ、この人。

「ダメだからぶっ飛ばしちゃ。出禁くらいにしときなさい。
 いや、多分なんもないんだろうけど…」
「気になるねぇ…。あっち行っちゃおうかな」
「ダメダメ。逆にじゃぁ行っちゃダ」

 ってもういねぇし。こーゆー時に俊足使うなよ。

 ちょっと見守ってると、警戒心を敢えて出したいときに使う、目だけ笑ってないような笑顔で二言くらい会話してあっさり戻ってきた。

 坂本さんを見ると少ししゃきっと背筋が伸びた気がした。確かに、柏原さんのそーゆーときの目、なんか心を刺されてるみたいに冷たくて怖いんだよな。新人時代に俺こっそり泣いたもんな。

 光也さんもちょっとビックリしてこっち見てるし。

「え、怖いけど…」
「俺?別に」
「いや、明らかに光也さんフォローしてるから!」

 そう言って漸く柏原さんは客席を振り返る。「別にいいのに」と、今度は露骨に不機嫌そうに吐き捨てた。

「何したの?」
「え?ただちょっと会話しただけだよ。いい風俗紹介しましょっかって」

 不覚にも笑ってしまった。なんだその喧嘩の売り方。

「前後の会話の内容にもよるけど!何それ!」
「ん?『いい子吊れました?ウチじゃ無理でしょー。風俗紹介しましょっか』だよ」
「うわぁ…」

 それあんな狂気的な顔で言われたの?想像しただけで鳥肌モンだ。

「顧客一人逃したね」
「いらねぇよあんなやつ」

 まぁわからなくもないけどさ。

 それから閉店まではセールスも落ち着き、なんとかあのピリピリした空気もなくなっていた。最後のお客さんが帰ったのが22時半くらいで、早めに店を閉めることにした。

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