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そこで漸く光也さんは観念したらしい。黙りこんだ。そんな光也さんを見て柏原さんは怒りながらもどこか悲しそうに、「自分を安売りするマネ二度とすんじゃねぇよ」と言った。
「それじゃぁ俺がお前を選んだ理由が一つ消えちまうだろうが」
柏原さんがそう言って光也さんの頭をポンポンと撫でたとき、ちょうど光也さんのケータイに電話が掛かってきた。
俺は光也さんのケータイを覗きこんで取り上げ、電話に出た。
「あ?もしもし?どうも、同僚の|神崎《かんざき》ですー、いま光也さん立て込んでましてね」
『どうも…坂本です…』
「ちょっとね、一回店に掛けてもらっていいです?柏原さん出るかもしれませんがね、したら多分用事伝えといてくれるんで!じゃ!」
一方的に電話を切って返した。二人とも驚いてる。
「ホントに用事あったら掛かってくるっしょ。柏原さんいるってのも言ってやったし。まぁいささか雑過ぎたけどな。俺もさ、そんな優しくないからね」
「…なんだかんだで一番お前がキレてんだろ、真里」
「ん?誰が誰に?」
柏原さんと光也さん、顔を見合わせる。そのうち柏原さんは笑いだした。
「あー、怖い。ただおかげで頭が冷えたわ。久々に真里の本ギレ見たわー、やっぱ怖いなー。
大丈夫だ、お前らは黙ってついてきなさい。下手な心配はしなくてよろしい。
真里もキレたからってこの後光也と喧嘩すんなよ。
一番穏便に事を済ませましょうね、うん」
柏原さんはそう言って店の電話の受話器を取り、名刺を見て電話し始めた。
「もしもしー、ハイドランジアの柏原ですー。ウチの従業員が大変お世話になっとりまーす。話は二人から聞きましたー。
光也から聞いたけど雑誌?ちょっと話聞きたいなー、俺と飲み行きません?大体オーナー俺だし、いいですよねー?
えぇ?違うのー?あ、そうなんですねー。うーん、でもさ、あんたお店のお客さんつまみ食いしてるじゃない?それ知ってるんだー。ははー、だからねー、ダメ。うん、次ね、光也にそーゆー感じで何?ちょっかいだそうとしたらマジで出禁ねー。てかね、光也にはこわーい付き人いるから俺からまず忠告ねー。あんたもこれでわかってくれるとありがたいなー。うん、はーい。今後ともどーぞー」
こわーい付き人って俺か?
「うん、多分もう来ないよあいつ」
「あぁ…うん…」
「はー、スッキリした。さて帰ろっか」
こうしてどうやらこの騒動は柏原流穏便に解決を迎えたらしい。
「おっさん、でも…店の宣伝機会逃したよね」
「いいよ別に。てか宣伝しなくてもわりと緩く忙しいからいーや」
そしてその後しばらくして、二人で車で帰る。しばらくは静かだったがふと、光也さんが溜め息を吐いた。
「俺はわかってないのかな、あの人を」
「うん。だけどさ。俺もわかんねぇから仕方ないよ」
「…悪かったな」
「ホントだよ。気持ちはわかるがあんたがガチでその野郎にさ…うん、言いたくもないがなんかあったらね、あの人は俺がなんとか抑える。だが俺は半狂乱になって多分そいつに地獄を見せてやるくらいしてたよ」
「そっかぁ…でもなぁ、言うほど大事になんて」
「そこが甘いの。だってなんて言われたの?」
これは実は口説かれてたんじゃないかな。なんかそんな気がしてきた。
「思ってるよりは過激じゃないよ多分。なんか顔綺麗だねとかスタイルいいねとかべた褒めするくらい。最早覚えてないや。まぁちょっと褒めすぎだろうとかは思ったことあるけどさ」
「あんた自覚ないからなーそーゆーとこに」
「でもいま思うと不思議とさ、聞いてて気分がいい褒め方ではなかったかな。確かにおかしいかも」
「口説かれてた?」
「それはないと思うけど…。だって俺別にそんな…ねぇ?」
これは案外やっぱ、自覚なかったパターンじゃないかな。
まぁいいや。あんまり聞くと頭にきちゃうから。過ぎたことは忘れよう。ただその男は気を付けよう。
「気を付けてね」
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