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 軽くわかっていたがまさかねぇさんがここまでバ…面倒な女だとは思わなかった。あれから説明に、多分通常の人の三倍くらい時間をかけて誤解を解きました。

『つまり、光也はホモじゃないんやな?』
「はい、そーです。なんの心配してんすか」
『いやぁ、そいつがいつまでもぼさっとしとるのが悪いんよ!私ちょっとな、マリちゃんと光也がなんかデキてました!って告白される夢丁度この前見たんよ!』
「真里、そいつに言っとけ。バカじゃないのかクソアラサーって」
「いやそれ自分で言って」
『聞こえとるわバカタレ!』

 やれやれと言わんばかりに光也さんは仕方なさそうにケータイを受け取った。

「おいババア」
『まだぎりぎり20代だわボケ!あんたも人のこと言え』
「うるせぇ。就職決まりました 」

 ちんもく。

『はぇ{emj_ip_0793}』
「はい。就職。
 店やります。真里と料理長と」
『え、えぇぇぇ!おまっ…このノリでさらっと言うかそれ!』
「じゃぁどのノリで言うんだよ」
『もうちょっと前!』
「うん確かに。
 開店日決まったら取り敢えずまた言うから」
『あ、うん。光也!』
「んー?」
『よかったやないか!』
「まぁね。それいま言う?」
『いつ言ったらええんや!』
「もうちょっと前」
『うん、確かに。
 まぁ一歩全身やね。次は結婚かな』
「うーん、そやねー」
『こりゃしばらく無理やな。まぁええけど!頑張れ頑張れ。ほな、じゃぁな』

 電話は一方的に切れた。なんだかんだでやっぱこの姉弟仲良いな。

「喜んでくれたみたいじゃん」
「まぁね」
「じゃぁ次は身をかためよっか。海外行く?」
「行きません。真里さん一人で旅行してきてください」
「冗談じゃんか…」
「まぁ旅行なら連れてけや。傷心&就職祝で」

 とか笑って冗談ぶちかましてきたよ。
 さっきまでピリピリしてたのにな。

「いーよ」
「お前そーゆーの俺が弱いって知っててその返事だな」
「なかなか良い勘してんじゃん」

 こりゃぁ旅行はなくなるな。なんせこの人はねぇさんと血が繋がってるだけあってクソめんどくさいからな。なんだろ、|志摩《しま》家の血筋かな?

「あんたってホントに面倒な奴だよね」
「それ言っちゃった?薄々自分でも気付いてたけど言っちゃった?」
「あ、気付いてた?
 まぁね、でもそこわりとチャーミングポイントだよ」
「うわっ、なんか言葉古っ。
 うん、元気出たわ。元カノやその前の彼女に散々言われてきた言葉にさ、いやいやお前らの方がクソ面倒だからとか思ってたけど、そうでもないんだな…」
「いやそれは極端だけどさ。女の面倒さって結構洒落にならんからな。
俺はあんたの面倒さ好きだよ」
「然り気無いなお前」

 いやぁ本音なんだけどな。あんたと一緒で俺もわりと面倒だからさ。

「面倒な者同士やってこーよ」
「ま、そうだね」

 これからきっと、長い付き合いになるんだろうなと、俺はその時ぼんやりと思った。

 何も今と変わらなくたっていい。わりとこれは心地がいいものだ。

 それから一ヶ月半で開店。開店少し前には有給消化で休みを取って開店準備をした。店一つが出来るまでは本当にあっという間で、みるみるうちに形になっていくのは面白かった。
 空いた時間には大体光也さんは勉強、俺は卒論ネタに新装開店についてを書いた。

 ドタバタと忙しいながらもすごく充実した日々が過ぎて行く。
 一応俺は学生と言うことで、3月まではバイト扱いということになった。

「ただ時給はね、面倒だから1円下げくらいにしとこうか。一応その間にバイト入ってきたらお前時給の話すんなよ?」
「そこは常識っしょ」
「そう思ってくれてるなら大丈夫だな」

 いよいよ明日が開店と言う日。店のカウンターで3人で酒を飲んだ。

「一応マスターしました」

 ということで光也さんがカクテルを一つ作ってくれた。

「お前いつも思うけどこーゆーとこ洒落てるよね」
「…うっさいなぁ」
「何が?」
「カクテルにも意味があるんだよ、真里氏」
「え、なんかその呼び方やめてください。軽く引きこもりなのバレるよ?」
「うっさいな軽くじゃねーよ大いにだよ」
「…すんませんなんか。
で、どーゆー?」

 少し照れ臭そうに光也さんはカクテル大事典を棚から引っ張りだし、ページを開いてとんとん、と叩いた。

「え、わかりにくいどれ?」
「オールド・パルってやつ」

 どれどれ。

ライ・ウィスキー、ドライ・ベルモット、カンパリ・ビターを20mlずつ。あまり日本では飲まれない。

 まぁ確かに全部ベースになりそうな酒ばっかだもんなこれ。

由来は、古くからの友人、懐かしき仲間という意味で、名前がいいと言うことで世界中で有名な、昔からあるカクテルだそうだ。

 …なるほどねぇ。

 思わずにやけてしまう。こっちもちょっと意味深なカクテル探してやろうかな。
 三人で乾杯。

「最初から飛ばすねぇ…流石若者」
「おっさんには緑茶とかがよかったかな?」
「あらまぁ胃に優しいってお前ね、減給」
「なんでだよ」

 そんな冗談を言い合って酒を飲み交わした。どうせならと、ちょっと遊んでみて、グラスを横に流してみてりした。俺が柏原さんに飲ませたのはハイランドクーラー。尊敬の意味を込めて。それで返ってきたのはイエロー・パレット。すかさず調べたら『騙されないわ』という意味だった。

 それをにやにやして作る光也さん。当の本人はカクテルに飽きていつもの白州を飲んでいた。その涼しさにイラっとしたのでテキーラサンライズを頼んだら当の本人、意味を調べ始めたのでバツが悪くなって一気飲み。意味がわかるとすっごくじろじろ見ながら「普通にテキーラ飲んだ方が美味いよ」とバッサリ切られてカクテル大会終了。くそぅ。

 いや待て、隠語か?とか考えていたら柏原さんが隣でなんか「くっくっ…!」と堪えるようにすげぇ爆笑してカウンター下で軽く肘打ちしてきた。

「つかあんま飲みすぎると明日オープンで酒がないパターンとか俺嫌だからな?俺あんま発注してないからね」
「えっ」
「え、じゃなくて」
「うちの姉ちゃんザルなんだけど」
「なんだよ兄弟揃って。肝臓で死ねや」
「みんな家系ね、肝臓癌《かんぞうがん》か|肝硬変《かんこうへん》とかだわ」
「ごめん洒落にならなかった」
「まぁ嘘だけどさ」
「うん、一瞬ぴくってしたね目元」

 こんなちょっとの嘘も吐けないんだなぁこの人。

「はぁ{emj_ip_0793}なにそれ{emj_ip_0793}」
「真里厄介だわ」
「なんだお前らもしや本気でデキてんのかクソが」
「まぁね」
「えぇ!?」
「あ、まただ」
「は{emj_ip_0793}もういい!うるせぇ!おっさんをからかうな!」

 一つ追加は、嘘吐くと目を極端に合わせるかも、ということかな。

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