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「お前らさ、クリスマスどうすんの?」
久しぶりに聞いた一言に、今年もそんな時期だったけな、というか今年は平日だったかな?と思ってカレンダーを一枚めくって24、25を探してみる。
バリバリの定休日。なんだ?店やってないだろと思い、おっさんの方へ振り向こうとしてはっとした。小夜《さや》が、バーカウンターの洗浄作業やら酒の在庫確認やらをしていた。
これはおっさん、個人的に聞いてきたパターンだなこれ。
「もうそんな時期か…」
9年前のオープン以来、最早この人の、一年を締め括る一大イベントになりつつあり、年々悪化…豪華になっていくイベント、それがクリスマスだ。
元々、そんなに企画なんて得意じゃないクセに、去年なんかこの行事のために都心の若者の街に買い出しに行ったら最初は、
「やべぇおっさんマジ張り切るわ、若者の街なんて、何人ナンパ出来るかな」
とか言ってテンションマックスだったくせに途中から、
「歩いてるやつら全員マジさ、青三列だったら大連鎖みてぇに消えてくんねぇかな」
と不機嫌になり、帰る頃には、
「マジ死にてえ…最早俺が消えたい」
と、げっそりしてここまで連れて帰って来た。
またあれをやるのかと思うと気が重い。店に関しては毎年ホントに思い付きでやりやがるから未知だ。
今年は小夜も加わったなら少しはまともなことやってくれるといいんだが…。
「ちっとさ、俺オープンの時に買ったサンタコスプレまだ持ってんだよね」
それってあれか?間違って買っちゃったとか言ってたやつか?
「小夜ちゃんさ、サイズ合うかな」
「おっさん、真面目に言ってたら俺さ、わかってるよね?ちょうどカシスの瓶空いたんだ。言いたいことわかる?」
「なんでお前いちいち言うことが狂気じみてんだよ!怖いよ!」
「でもいいんじゃね?たまには」
急に真里《まさと》が話に入ってきた。まさか真里もオッケーするとは思わなかった。
「え?ガチで言ってんのお前」
「小夜はー?サンタやりたくない?」
「え?何マリちゃん」
小夜は集中してメモっていた手元から顔をあげる。
「サンタってあのサンタ?」
「そう、12月24日という一年に一回の何故か決まった日にだけ人ん家に不法侵入してガキが欲しいものを靴下にぶちこんでく変態」
「光也《みつや》さんってなんでそんなに歪んでるの感性が」
「まぁ光也のやつ合ってるよね」
「いやそうなんだけど。いや違うんだよ」
「サンタがどうしたのー?」
「んとね…」
俺は昔撮ったおっさんの羞恥サンタを画像フォルダから漁って見せた。小夜がケータイを覗きこむ。
久しぶりだからデータ死んだかなとか思ったらちゃんとあった。眺めててツボに入ってしまった。
「なにこれ!」
「ふっ…あの、ここが…出来たばかりのとき…」
「みっちゃん待って落ち着いて、何言ってるかわかんないけどこれ面白いのはわかる!ちょっと私のケータイに送って!」
ケータイを小夜に託してしゃがみこむと、小夜が、笑って再起不能気味の俺の背中を優しく擦ってくれた。
真里とおっさんも、なになに?と小夜と一緒に俺のケータイを覗いた。
「まだ持ってやがったか光也!」
「これね、突然この人どっか行って帰ってきたらこれなわけ。間違って買ってきちゃったとか言ってレディースね。うわやっぱり悲惨だね。サイズ合ってないってゆーかもう着れてないじゃん」
「これ悲惨!この画像欲しい!」
「やめろって!」
「からの…これ」
「うわぁ…へこんでるよ|柏原《かしわばら》さん」
どうやらそのあとの脱力したおっさんも見せたらしい。
「意外といけるかなと思ったらさ、光也の写メ見せられてさ、死にたくなったよね。
でね、小夜ちゃん。このサンタコスまだあるんだけど今年やる?」
「えぇぇ!これ見たあとに!?」
「大丈夫。おじさん変態じゃないから洗濯しとくよ」
ヤバイヤバイ。これは理性を戻せ。
立ち上がって取り敢えずおっさんの脇腹を一発殴ったが、笑って力が抜けたせいかパシッと取られてしまった。
「お?」
「…洗濯したら色落ちするだろ!つまり洗濯は出来ないんだよ!だからダメ変態!」
「待って光也さん落ち着いて。あんた今逆に変態じみてる!」
「いやほら光也潔癖だから。俺の体液が小夜ちゃんに浸透するのが多分」
ぶん殴った。結構ガチで腹パン。「ごふっ!」とか言って踞るが知らん。
小夜がちょっとビックリして「柏原さん!」と駆け寄ってる。
「いいんだよそんなクソ」
「うん。今のは完璧に柏原さんが悪いよ」
「私サンタやるから!柏原さんの汗とかなんか塩?汗塩?みたいなやつとか気にしないようにするから二人とも許してあげて!」
「えっ」
「マジ?」
「え、待って俺ってそんな不潔?」
小夜、それは庇ったのか、えらくズタズタにしたのかわからないぞ。
小夜はそれに焦り、
「いや、柏原さんは清潔なんだけど、体液がって言うならきっと汗かくぐらい毎回着てるのかなって!生理現象だし!洗えないなら仕方ないよ!」
とか言っている。
なんか小夜が可哀想になってきた。これはどう頑張ってもおっさんが悪い。
「色々とタチが悪いとこだけ拾ってるな…」
「小夜ちゃんが良い子なのは俺もわかってたんだ…ごめん、洗濯するわ」
とてもげんなりしながらおっさんは力なく言った。
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