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次の日、出勤して早々に提案してみた。
「いいねそれ」
「あくまでも解説はふたご座と流星群について。あとは星なんてさ、お客さんが自由に空けるんだからいいんじゃないかな」
「俺も考えたの。
店はやっぱ暗くなるから、基本ベースはプラネタリウムなんだろ市販のやつ?とかで照らしてて、例えば時間とかを決めて、その解説とお客さんが作ったやつを照らす。これどうかな?」
「ああ、いいんじゃん?」
「わずか15分くらいで済むでしょ」
ほぼ案はそれで成立。今年はあっさりと企画が決まってよかった。
試しに今日から実施することになり、俺はカウンターの準備は小夜に任せて、ライトでふたご座を映すのに専念した。とはいえライトが小さいもんだからなかなか上手くいかない。
「おっさん、これちょっとライトが小さいな…」
「なかなか難しい?」
「うん、正直この店の広さだとちょっとなぁ…」
「逆にいいかも。そしたらさ、手元に懐中電灯あってもさ、目立たないよな」
「まぁ確かにね」
「そのままでいこう」
「わかった」
そこから一人黙々と、14個位の点を針で打っては移してサイズを変えて…とやっていく。カストルとポルックスの光の違いを出すのは最早ライトひとつの光では無理なので、せめて光の大きさを出したい…。とかこだわっていたらいつの間にかオープンぎりぎり。なんとか形にして最後に御披露目。
三人とも納得してくれてオープン。いつの間にか店の看板も、『プラネタリウム期間!』とかいう登りを出していたようで、店内が暗くてもわりと客は入ってきてくれた。
小夜がマイクと、小さな携帯懐中電灯でたまに星座解説。意外と初日の反響はよかった。
お客さんに企画内容を説明して穴を開けてもらっているときに、とある60代くらいのおじいちゃんが、ふたご座の位置から見たら遥か南、最早見えるか見えないかの位置にひとつだけ穴を開けた。
位置的に言えばそこはカノープス。りゅうこつ座の|α《アルファ》星にあたる位置だが、なにか意味でもあるのだろうか。
「カノープス。東京じゃ見ることがなかなか困難な星ですかね…、この位置は…」
「そうです!」
試しにそのお客さんに話を振ってみる。
「この星、フォーマルハウトと似た位置にあるでしょう?」
「そうですね」
「うちの家内、いま入院中で、いまあまり容態が思わしくないんですけど…。
私ね、昔カメラマンをやってたんです。そのときに家内とオーストラリアに行ったんですよ。そこで色々な現地の人と出会い、私にとっても家内にとっても、とても良い思い出になりました。
東京から見た遥か南にある星。それは南のうお座のフォーマルハウトなんですよね。昔話してたことがあったんです。そのときに、カノープスに似た位置にあるねって話になって。
家内はでも、南のうお座を見てもカノープスって言うんです。僕がいくら教えても覚えてくれないんです」
この人の奥さんは、記憶障害かなんかなんだろうか。
「で、人の話なんて聞いてなかったかのように、オーストラリアの話をするんです」
「よほどよかったんですね、奥さんにとって」
小夜に然り気無く、その人が飲んでいた酒を渡すと、自然とそう話していた。
俺はふと、お客さんの前に立って、プラネタリウムの、いくつも星がある中、フォーマルハウトを懐中電灯で照らした。
「秋ごろ、ずっと南の方に光っている星。水瓶座の足であり、南のうお座の口。フォーマルハウトは、魚の口という意味があります」
さらに今度はカノープスを指す。
「こっちが、りゅうこつ座の恒星の一つで、オーストラリアのメルボルンでは位置的に、一年中沈まない星なんですよ」
懐中電灯を小夜に返し、俺もお客さんと同じ、ヘネシーコークを注いで乾杯した。
「でも、見事に似たような位置にあるんですよね。日本から見ると。秋には南にフォーマルハウト、冬には同じ位置にカノープス。こうやってプラネタリウムで見ると全然違う位置にあるのに。しかもカノープスは、東京じゃ見ることがなかなか困難。フォーマルハウトの方が見えますね」
「お兄さん、詳しいんですね」
「いや、人並みですよ。
奥さんにとっては南が、カノープスなんですね。オーストラリアって確かに南にあるし」
そう言うとお客さんは驚いたような顔をして、そして染々と、「お名前をお伺いしてもいいですか?」と聞いてきた。
「|志摩《しま》と申します。名前は光也です。大体は名前で呼ばれます」
「光也さん、か。
またここに来てみたいです。この店ね、今日初めて来たんです。少し立ち寄ったつもりだったけど、居心地がいいですね」
「そう言ってもらえてよかったです。ぜひ、今度は奥さんと来てください」
「…うん、そうですね」
どこか寂しそうに、でも笑ってお客さんは言ってくれた。そこに例え闇があったとしても俺は、ここで待っていることしかできないし、待っているだけにしようとこんなときに思う。
本当はこの季節と場所により、カノープスもフォーマルハウトも見えないけれど。それでも、これでいいかなと思った。
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