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 山道は比較的緩やかだった。山のてっぺんの広場のようなところで車を停め、仮眠を取った。

 アラームが鳴って起き、二人がぼーっとしてる中、こっそりトランクに積んでおいた天体望遠鏡を組み立てる。二人ともそこで漸く車から出てきた。

「え、これ凄いね!」
「まだ持ってたんだ…」
「あれ、気付かなかった?」

 組み立て終わってふと夜空が目に入った。東京でもこんなに見れるのかというくらい、星がたくさん並んでいた。

「綺麗だねぇ…」
「なんかそのまま見ても良い気がするけどな」
「すごいな、星ってこんなにあるんだな」

 いつもよりはたくさん見える星の中で、三人でふたご座を探す。探している間に、「あれ、いまの…」と真里が言ったそのすぐ後に、「あ!落ちた!あれきっとそうだよ!」と小夜も言う。

 ふたご座|γ《ガンマ》流星群はわりと素人でも見易い、と言うかその日が流星群だって知らないやつだって空を見てればたくさん星が落ちてくるのがわかる流星群だ。一時間に多くて100個は落ちてくるものだから。

「あ、また…あ、こっちも!」
「すげぇ、マジでいっぱい落ちてくる…」
「小夜、頑張って三回願い事しなきゃ」
「いやこれは無理だね!早いしわからない!」

 眺めていると流星にも輝き方や大きさが様々で。ホント、シャワーみたいに流れている。

 一通り流星群を楽しみ、一回休憩してベンチに座った。
 小夜が寒そうに手袋の上から息を吹き掛けていたので、さっきの毛布を肩に掛けてやった。
 これ、毛布と言うかブランケットっていうのかな、とかぼんやり考える。

「ありがとー」
「確かさっき来る途中に自販機見かけた気がするから何か買ってくるわ」

 真里はそう言って道の方へ歩いて行く。

「ねぇねぇ」
「ん?」
「流星群ってさ、ちょっと花火みたいだよね」
「…そうかなあ?」
「でも散ってくのはさ、何か本当に燃え尽きる感じというかさ、力強さがあるというかさ」
「…そうかも」
「落ちていくのが綺麗だよねー」

 暫くは小夜と二人で並んで星空を眺めた。

「あのお客さんも見てるかなぁ」
「どうかな?」
「カノープスってどれ?」
「多分…ここじゃ見えないよ」
「南のうお座は?」
「今頃オリオンの反対側にあるだろうな」
「カノープスってどこにあるはずなの?」
「そうだなぁ…ここにオリオン座があるだろ?で、オリオン座の右肩、ベテルギウスがあって、下行くとほら、これがリゲルで、本来ならベテルギウスの一直線上に…」

 あれ?

「あれ?」
「もしかしてあれ?」

 信じられなくて思わず早見版が欲しくなったが、生憎車の中に置いてきた。

「え、すげぇ…!」
「何がすげえの?」

 首筋に何か熱い物が当たって思わず「うぁっ!」と変な声をあげてしまった。
 真里が後ろで笑いながらホットココアの缶を持っていたずらっ子のような笑みを浮かべていた。

「ホント首弱いね」
「うるせぇな」

 真里からココアを受け取り、一発ぶっ叩く。「ひゃー怖い怖い」とか言って小夜にもココアを渡していた。

「で、何がすげぇの?」
「カノープス…」
「あれそう?」

 小夜は、ブランケットを俺に預けて立ち上がった。

「うん。多分…。
 あまりにも見られないから、見れたら長生き出来るって、日本では言われてるんだよ」
「凄い!お願い事はこっちにしてみよう!」

 小夜は手を合わせて暫くしてから、天体望遠鏡へ一目散に駆け寄り、覗き始めた。俺も行こうかなと思ったら、真里が背もたれ越しに緩く抱きついて来たのでそれも叶わず。
 「そのまま方角決めて見れるからなー」と、取り敢えず小夜に後ろから助言。

「いつもの事だが急にどうした」
「いや、やっぱ雰囲気的に?俺には俺で感化されてさ、無性に抱き締めたくなるときがあるの」
「あぁ、そう」
「別にいいでしょ?暖かいし。あー、やっぱ好きだなーとか、一人で思ってるだけ」

 ホント、こいつは俺に対して飽きないなぁ。

「長生き出来るかな」
「まぁ見れたのは奇跡だよね。これあと10分後には見れないかもしれないぜ?」
「あんたなんか楽しそうじゃん」
「まぁそりゃぁ…」
「じゃぁ俺もあやかってこようかな」

 と言って真里が離れて望遠鏡の方へ行くので、なんなら俺もあやかろう。

 そこから三人で、カノープスを見て、ついでに超新星爆発を起こして今はないというオリオン座のベテルギウスや、オリオンズベルトの斜め上にある、M78星雲を見てみたりした。

「ウルトラマンはじゃぁ、あそこに住めないんだね」
「そうだよ。星雲だからな」
「ベテルギウスは超新星爆発ってことはさ、ホントはないのに見えてるの?」
「ここに届いて見える光なんて、何年前のだかわかんないからね。超新星爆発は日本で見るとしたら昼間になるんじゃないかとか色々言われてる」
「本当はないものを見てるんだね」
「そうだね」
「さて、そろそろ風邪引くし、星も見えなくなってくるから帰ろうか」

 少しずつ空も明るくなり始めた。東に太陽の頭も見えてきたし。
 俺が運転席に乗ると、小夜は欠伸をぴたっと止めた。

「…みっちゃん…」
「ん?」
「大丈夫?」
「ダメだったら真里にバトンタッチするから」

 真里は助手席に座って苦笑いをしていた。

「まぁいっか!」

 そして発進。ちょっと道反れたけどまぁまだいつもよりはまともだ。

「なんかさぁ」
「ん?」
「人って死んだら星になるって言うよね」

 小夜はあのお客さんを思い浮かべてるのかな。

「でも見えなかったら、どうなんだろうね。本当はなかったら、どうなんだろうね」

 その質問に答えないでいると、そのうち後部座席から小さな寝息が気聞こえた。

「真里も寝たら?」
「ん?怖くて寝れないよ」
「大丈夫だよ」
「まぁテキトーになんとかしますわ」

 それから車を少し山の岩に擦ってしまったので結構早めに交代。途中でファストフードに寄って朝飯を摂り、その日は帰宅した。帰ってから三人して夕方くらいまでぐっすり寝た。

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