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 二人が一通り終えて席につき、俺がシャンパンと、小夜にリンゴジュースを注いで漸くスタート。

「わざわざ来てもらってすまんね」
「まぁこっちも急に押し掛けたから」
「いやぁ…こうやって人をもてなしたのなんて久しぶりだったからおじさんちょっと張り切っちゃったよ」

 確かに楽しそうだ。

「このカップかわいいですね」
「あそう?気に入ったなら持ってっていいよ」
「えっ!」
「うん、俺使わないから」

 なんとなく小夜も違和感には気付いたようで、あまり追求もせず、「じゃぁ家で使います!ありがとうございます!」と笑顔で答えた。

「なんだよー、光也」
「え?」
「そんな顔で見ないでよねー。おじさん困っちゃう」

 え、顔に出てたかな。俺どんな表情だったかな。

「…なんか物捨てるのもちょっとなーと思ってさ。ちょくちょく食器とかは店に持ってってるんだけどねー。なぁんかね、まだまだたくさんあってさー。ちょっと困ってるんだよね」
「…そっか。
 小夜、気に入ったの根こそぎ持ってこうぜ。あとで売っ払ってもいいし」
「うわぁ、すっげぇドライなこと言うな!」
「いやー、この人もさ、最初一緒に住もうってとき女モン結構置いてあったよ」
「あ、そうなの?なんだー、俺だけかと思ったよー。
 いやぁなんかさ、物に罪はないからわざわざ捨てるのも面倒だなって」
「…それはわかるかも」
「でしょ?だからなんかあったら持ってっていいからねー」

 まぁ俺とこの人はまたパターンが別だけど。

 それから酒や料理も楽しみ、ほろ酔いになってきた頃。クリスマスプレゼントと称して、真里が作ったチーズケーキを出し、俺はウィスキーやらバーボンやらをプレゼントとして開けた。

 そして小夜はいつの間に用意したのか、小さな天体望遠鏡をおっさんに渡した。

「おぉ!これって…光也が小さい頃遊んでたやつ…」
「うん、こんなんだったわ…小夜、いつの間に…」
「ちょっと前にお友達とホームセンター行ったんだ」
「うぉぉ、ありがとう!俺はねぇ」

 と言って渡されたのは山崎12年。マジか。

 真里には包丁、どうやらもの凄く良いやつらしい。小夜には、「ちょっとJKってわかんなかったんだよね…」とか言ってわざわざ箱に入れたのだろうか、綺麗にに包装されたフォンダンショコラを渡していた。

「いいな、俺も食いたい」
「俺にはやっぱこれしかないからな。じゃぁ小夜ちゃんが美味いって言ったら俺ちょっとデザート系も再チャレンジしようかな」
「再チャレンジ?」
「俺実は昔パティシエやってたんだよ」

 真里と俺、思わず「えぇっ!」とハモった。知らなかったぞそれ。

「うわぁ…」
「なんて嫌味な男。あんたそりゃぁモテたでしょ…」
「ん?まぁね。お前ほどじゃないよ光也くん」
「うわぁ…うぜぇ」

 ホント、どこを取ってもなんだかんだでそつなくこなしちゃうんだよなぁこの人は。

「そういえば柏原さん。
 柏原さんのプラネタリウム見たいなー」
「え?突然どうしたの?」
「ほら、なんだかんだでお客さんのはよく見るけど、それでちょっと思い出話とかになったりするんですけど、柏原さんがお家で作ったってやつ、見たことないなぁって思って」

 それはもしかすると、結構傷を抉るんじゃないかな。だってそれって、彼女を喜ばすためにやったサプライズだったんじゃなかったっけ。
 だけどおっさんはそんな俺の心配をよそに、笑顔で、「あぁ、いーよー」とか言って寝室の方へ消えた。

 手に、ライトと穴の空いた黒い紙を持って現れ、テーブルの真ん中を少し開けてライトを置いて、部屋の明かりを消した。
 ライトを点けて紙を被せる。タバコに火をつけ、酒を煽るように飲んでいた。

「あんまり俺上手く作れなかったんだ。だからこれほとんどさ、彼女が空けたんだよ」

 きっと彼女は、星座早見版とか、そーゆーのを使って正確に穴を開けたのだろう。形が綺麗だ。なのに、オリオン座だけ足りない。そう、ベテルギウスとM78がない。

「あ、あれこの前光也さんが言ってたやつだよな」
「そうだね」
「超新星爆発?」
「俺さ、天体詳しくなくてさ。彼女もそうだったんだ。だけどオリオン座のなんだっけ?右肩のやつが消えたってニュース見たみたいで…この星はもうないんだ、って次の日作り直してたよ。星にも寿命があるんだってな」
「随分ひねくれた彼女だな」

 真里は、そう言ってタバコに火をつけた。ハイライトのラム酒の匂い。こんなにこの空間にタバコの臭いが充満するなんて。普段はここでは吸わなかったのかな。

「ウルトラの星だってオリオンの肩だって、俺は見たことあるんだぜ?」
「…真里らしいな 」

 俺も素直にそう思った。行儀悪く椅子に体育座りする真里の自然さに、俺も何度か救われたから。

「小夜、確か携帯用の裁縫道具持ち歩いてたよな?」
「うん…」
「針貸して」

 そう言うと小夜は、ポシェットから裁縫道具を取りだし、針を渡してくれた。

 俺は黙って紙を外してオリオン座のベテルギウスと、オリオンズベルトの斜め上、一直線上にM78に穴を開け、また被せた。その様子をおっさんは、ただ無言で見ていた。

「俺にも見える。
 人はさ、死んだら星になるって言うけど、そのわりに宇宙って普遍的だよね。結局星も生まれては死んでるんだよね。じゃぁちょっと数はわからないから、わかるやつ見つけて夢くらい観たいよね」

 俺がそう言うとおっさんは、諦めたように笑った。

「同じこと、静も言ってた。だから空けなかったって。
 お前ら、似てるようで似てないや」
「当たり前じゃん。この人ほど俺が好きになった人なんて居ないから言うけどさ、こんな奴他にいたら、たまったもんじゃねぇよ」
「世の中鬱病まみれだわ」

 自虐ネタをぶちこんだのに、今日は怒らず笑って聞いてくれた。

「でもみっちゃんは、優しいのは確かだから、まぁちょっとブラックでもいいんじゃない?」

 なんて、フォローになっていないフォローを小夜にされるとまたみんな爆笑しやがって、人のネタで盛り上がった。

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