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「光也、帰るぞ」
「お疲れ様です」

 真里に見送られ、取り敢えず事務所を後にした。こいついつも自転車で来てたっけな。

「あれ、今日チャリ?」
「いや、歩き」

 ちょうどいい。

 駐車場を素通りしようとしやがるので、「おじさん歩くの辛いっす」と言って車に乗せた。

「ダメだったら連絡寄越してこい。ただそうなる前に病院いけ。まぁ大体は寝てれば治るんだろ?」
「うん…」
「なんでそんなことしたの」

 悪いことをした子供を叱るような口調で促してみる。だが光也はなかなか言わなそうな雰囲気だ。

「昨日寝付きが悪かっただけだよ」
「寝付きが悪いと、ごく稀にしかでない副作用がでちまうくらい飲んじゃうの?下手すりゃ二度と起きれなくなるな」
「…飲み合わせも悪かったかもね。休憩中薬飲んだから 」
「抗不安薬か」
「…もうなんかそこまでわかってるならあんま言いたくない」
「ならいいよ」

 表情を見ると少し意識ははっきりしてきたようだ。ただ、あんま具合はよくないらしい。俺に合わせてタバコを吹かしている。

 仕方ないなぁ。自分がグロッキーなときくらい人に気なんて使わない方がいいのに。

 まだ吸えたが火を消した。しばらくは、何も話さずにいた。耐えられない空気を作ってやろうかな。

 だけどよくよく思い返せばこいつは史上最強のマイペースだ。どうしようかな。でもまぁいいかな面倒だし。だがこれはこれで口寂しいな。てかなんで俺こんな気使ってんの?

「てか柏原さん、休憩?」
「光也処理から休憩していいってよ」
「マジか、なんかごめん」
「ホントだよ。てかお前飯食える?何か食うか?」
「うーん柏原さん食いたかったらいいよ?俺はいいかも…」
「まぁそんなときって食えないもんか。何か食いもん買ってこうか。あとで食えよな」

 あとでちゃんと食べるように弁当とかにしようと思い、コンビニで親子丼を買い与えた。受け取ると、「ホントすんません…」とか柄にもなく感謝された。こそばゆいもんだ。

 家の前まで来て、なんか降りないなぁと思っていると、「結局ダメだったなぁ…」と光也はぼやいた。

「両親が言った通りかもしれない。結局何をやっても半端だ」
「…死にきれなかった?」
「そうかもね。衝動ってわからん。不安も不眠も結局治らん。薬くらい、くれよって思う。所詮人の話なんか聞いちゃいないくせに善人ぶりやがってって。
 死なねぇよ、だからなんとかしてくれよって医者に掴み掛かっちゃったんだよね。医者だって大変なのにな、こんなんばっか相手してんだから」
「まぁそれが仕事だろ。掴み掛かられるくらいなんてことねぇよ。だったら掴み掛かられないようにするしかないよね」
「うーん、どうかな」
「なんでそんなに死にたいわけ?」
「死にたいなんて思っちゃいない」
「まぁそれもわかるけどな。死にたいなんて思わねぇが生きたいとも思えないってのは。だけどさ、人間なんて結局さ、案外死ねないから。それって呪縛だけどある意味救いだよ」

 俺がタバコに火をつけたあたりで光也は車から降りた。いたたまれなくなったんだろう。一度振り返って軽く頭を下げてから帰っていった。

 優しく言ってやったがなぁ、俺は死にたいなんて言うやつは嫌いなんだよ。そんなのは身体の自由が利かないのに、もう誰も延命なんて望んでないのに延命させられてるやつらを見てから言えるのか?
 それでも死にたいと言えるなら。それはそれで立派な意思だよ。
 お前らはでも、何を思って医者にかかるんだろうね。俺には皆目分からないんだ。

 多分生きたいわけじゃない、死にたいわけでもない。じゃぁなんで?なんでわざわざ苦しんでんの?

 俺だったら苦しむ前に逃げるのにな。ある意味向き合う強さは持ってるんだよ、お前らはさ。なんで気付かないんだろう、自分のことに。

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