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責任というのはいつか果たさねばならない。だが俺には何が出来るか、と考えてみたら、やれることなんて僅かしかなくて。
それを一度実現させてみようかなと、ふと思った。単なる気まぐれとも言うけど。
それには無理をしてでも前を向き続けなきゃならないなという焦りが少しあった。それが最大の成功にも最低な失敗にも繋がったんだ。
「静」
ふとした休みの日に、思い付いたから。
「何?」
「俺さ…てか、ちょっと話してもいい?」
「…そんな悲しそうに言われたら、あんまり聞きたくないけど」
と言いながらちゃんとテーブルで向かい合ってくれるから。
「うん、予想は外れてない…。ただ、選択肢はいくつかあるかなと思って相談も兼ねてね」
「わかった」
俺には何が出来るのか、考えた。何がしたいのか、考えた。
結局俺は自分を守りたいんだ。自分を守るためにはまず、まわりも守らないとならないんだと。それにはどうすればいい?
単純だった、自分の道を作ればよかった。人の道を行くのではいつか、自分の思い通りにいかない曲がり道が待っているはずだから。だから作るべきなんだと。
この歳になって、とても青臭くて、遅すぎるかもしれないことに気付いてしまったが、気付いたからにはやらないと、反れてしまう気がしたから。
それで考えたのが、まずは“hydrangea”の設立。その頃はまだ、店名はなかったけど。
「これには金もかかるし…苦労するね」
「うん」
そしてもうひとつ、話さねばならない。
「俺の親の話するけどさ。
今はもう縁切っちゃってんだけどさ、実はね、静。俺も人殺しくらいはしたことあるんだよ」
小さい頃、母親と何かをした記憶なんてほんの僅かで。多分優しかった。ほとんどの記憶は病院のベッドで点滴だけ打って寝続けている姿しかなくて。
呼んでも呼んでも返事はない、動きもしない。親父や医者は言った。脳がもう死んでいると。だけど心臓がまだ残っているから彼女は生きているのだと。
それって本当に生きてるの?それって本当に幸せなの?誰のためにやってるの?子供ながらに疑問でしかなくて寂しくて、訳がわからなくて。
「親父が死んだあと、そうだなぁ、俺が18位の頃。長男だしさ、聞かれるわけよ。どうしますか?って。なんだよな、どうしますかってさ。妹もいたよその場に。親父の死体を前にして医者に聞かれるのは母親のことで。妹は泣きながら俺にすがるわけよ。やめてくれって。
このやめてくれの意味がわかんなくてさ。一緒に母親の病室行って、母親に、聴こえてないけど取り敢えず高校は卒業したよってのと妹は入学するよってのと、父親が今日死んだよって伝えて、点滴抜いたよ。
医者にそれから、「もういいです」って言ったら妹にぶっ叩かれてさ、罵られるわけ。終いには死ねとまで言われたよ」
「要さん、もういいよ」
なんで俺、話してんだろう。
「お前、俺と一緒にいるってそーゆーこと。ダメなら終わり。ただそれだけ。親に挨拶に行くなら墓場だ。
ただ俺は一度もそこへは行ってない。場所も曖昧にしか覚えてない。妹ともそれから…会って貰えてないから聞こうに聞けない」
「やめてよ」
「俺がいつまでも優しいと思うなよ」
柄にもなく、こんなよくわかんない女とちょっと長くいて。
「俺が出ていくよ」
「そうじゃないの、違う」
「何が違うんだよ」
「誰も貴方を認めないなんて言ってないでしょ」
「俺はお前なんて認めてないよ」
「話を聞いて」
「お前なんてなぁ…」
こいつは、何なんだ?
俺にとってこいつは、何なんだ?
「一方的すぎるでしょ。そんなの、選択肢ないじゃない、なんのために自分の場所を作るのよ、そんなんで良い場所出来るわけないじゃない!」
テーブルを叩いて立ち上がる。こんなに感情的な静を見たのは初めてだ。喧嘩はいくらでもあったのにな。思わず圧倒されそうになって。
「なんでもかんでも自分で何かやろうとして、失敗してるじゃないの。いい加減…学んでよ」
「うるっせぇな」
「いくらでも言うよ、根性なし」
流石に腹が立ってきた。でも全部、静の言っていることが正しいのは分かってるから。
「その根性なしに拾われたのはどこのどいつだ」
「ここの私だよ」
「お前になんて言わなきゃよかった」
「私は聞けてよかった」
「この期に及んで何言ってんの、たかだかセフレのくせに」
多分言いすぎた。でもこれも多分本音。
静は上を向いてふぅ、と一息吐いて、泣きながら俺の顔を見た。流石にそれにはちょっと動揺する。
「どうしてそんな酷いこと言えるの」
「だって、事実だし」
「だから根性なしだって言ってんの」
「意味がわからない」
「なんでそうやって…あんたも大概自傷癖だよ。相手を傷付けるフリして自分が一番傷付いて」
「お前に何がわかるの?」
これだけ冷たくしても優しく抱き締めてくるから。
後頭部に当たる息と涙がそれでも心地よくて。
「振ってもいい。貴方がそれでダメになるのはわかってるから。私もダメになる。だから私は死ぬ。死んだふりして私も貴方のお母さんみたいにしがみつく。これでどう?私を捨てられる?自分を捨てられる?」
「…その選択肢は用意してなかった」
ホント、女はわからない。母親も妹も彼女も皆、わからない。
体を離したのその顔を見たら笑っていて。涙を拭ってやろうと手を伸ばそうとしたら自分の手が震えていた。逆に静の方から目元に手が伸ばされて。俺も泣いていたのかとこの時に気付いて。その手を、今度はしっかりと握ってやった。
「厄介なのに拾われやがったな」
「そうだね」
「お前、婚期を逃したよ」
「それは貴方も一緒」
確かにそうか。
まだまだ関係は曖昧だけど。取り敢えず、背中は擦って押してくれるらしい。そんな関係であることはわかった。
「嫌んなっても知らねーからな」
「こちらこそ」
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