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浮気をしても結局、そんな女は一晩で。明け方家に帰ると大体リビングで静は一人で俺を待っていて、コーヒーを淹れてくれる。何をしても許してくれる。
ホント、都合がいい女で。俺がどれだけ浮気だって分かるようにしたって何も言ってこないんだ。
だからやっぱりつまんなくなった時期もあって。家に帰らずふらふらしていたこともあったけど。
そんなある日発見した。手首切って風呂場に沈めてる姿を。
「静!」
慌てて手首を浴槽から出して失血して。
「おい大丈夫か!」
なんて声かけたら弱々しく、「おかえり」って掠れた声で言われてさ。そこから無我夢中で出来る限りのことをやった。三日程度の入院で済むような怪我でほっとして、ほっとした自分にも驚いたんだ。
なんでこんなバカな真似したのかと聞けば、「朝が来るのが怖いから」とか、意味わかんない答えが返ってきて。一発ぶっ叩いてやろうかなと思ってたのが途端に冷えて、少し体温が下がってしまった静の体をただ抱き締めて体温を感じることでしか安心なんて出来なくて。
それから面倒臭いから浮気はやめて、セフレとか、そーゆーのも静意外、一切手を切って職場も変えた。
誰も俺を知らないような職場に行って、仲間と出会って、忙しくて楽しくて。だからこそ、家にいる時間の方がなんだか現実味がなくて。
人間に触れている感覚とは別の感覚を静からは貰っていた気がする。だからこそ職場が色濃くて仕方なかった。クソ生意気な新人も、どこか闇を抱えた奴も。
「最近楽しそうだね」
「ん?そうかもね」
だからこそ、より静の自傷癖が目について。
「なぁ、お前はなんで死にたいの?」
「…別に死にたいわけじゃない」
「じゃぁなんでそんなことすんの?」
「生きてるって感じるから。私にも血が流れてるって。じゃないと、血も涙もないんじゃないかって怖くなるから」
「なにそれ、全然わかんねぇ」
「…私、ね。昔、人を三人殺したの。
一人目は双子の兄だか姉だかだった。私が吸収してしまったの。二人目は母親。私を産む代わりに死んだ。三人目は友達。かくれんぼしてたら足を滑らせて川へ落ちたの。けど本当はね、私が彼女を落としたんだ」
「え?」
「かくれんぼって残酷だから。私はいつも見つからない。見つかっても結局意味がない。だから通りがかった鬼の女の子に、私はここだよって掴みかかったの。そしたら足場が崩れた。危ないと思って手を離したらそのまま」
何かの例え話なんだろうか。そう思った。
「誰に何を聞かれても何も言わなかった、悲しいふりしたけど本当はどこかで、ざまぁみろって思ったの」
そう言って泣いているのを見たとき、俺は初めてこいつが泣いているところを見たなと思った。そんな姿を綺麗だなと思ったりして。
「お前が思ってるほど世の中お前中心じゃねぇよ。だから、そんなに悩むこともないだろ?」
そう言って抱き締めれば胸の中で小さく「うん」と言って。
俺はこんなにも冷たい人間なんだよ、静。
「|要《かなめ》さんの優しさは、生きていくの大変そうだね」
だけどそんな風に言うから。やっぱりこいつのことは理解出来ないなって思って。
「俺は人を殺したところでなんとも思わないよ、多分」
後悔なんてしたところで、反省なんてしたところで、行き着く先は事実しかないのだから。
「大抵人がやることは間違ってるし。だけど生きなきゃいけないでしょ?」
「私より貴方の方が、生きてるの辛そうだね」
辛いと思ったことはない。そんなに感性豊かじゃない。ただ漠然と目の前の空気やら何やらと対峙しているだけだ、そうやって堕落的に生きていた。
解るのは、お前はわりと純粋で、俺はわりとひねくれていると言うことだ。ひねくれているから、訳わかんない女と何年も一緒に居られるんだし、生意気だろうがなんだろうが変わった後輩がついてくるんだろうし。
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