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「|柏原《かしわばら》さんって、本気でタチの悪い変わり者ですよね」
職場で、上司と喧嘩した新人にそう言われたとき、内心相当ヒヤッとした。
入って一週間で厨房の古株と喧嘩して、だがまぁ、そいつと和解し仲良くなったはいいが、まだ1ヶ月しか経ってないのに上司と喧嘩して、バイトの癖に始末書を突きつけられ、それを拒否したら辞めろと言われたやつだ。
まったくどっちがタチが悪いんだか。
だがまぁ話を聞くとどうやらその上司が、一人気に入らないやつに思いっきり当たり散らしていたらしい。なんとなくそんな状況は今までもあったので見なくてもわかる。
確かに当たられてる人は仕事が遅い。だが実は、その人は歳も歳で、朝しか入らないような人で、腰があまりよくないのだ。
そんな彼が重い物を運んでいたから、なんとなくその新人は手も空いていたし、手伝おうと、運んであげたり扉を開けてあげたりしていたのだそうだ。
元々その人はホールの人なのだが、普段も誰かしらホールの人間が然り気無く手伝ったりしている。だがその日は新人ばっかで、多分、上司の機嫌もあってみんな手を差し出すのを躊躇ったのだろう。新人もそれをわかった上で、
「遠慮しないで仕事はやれよー」
とか新人たちに軽く言いながら手伝ったらしい。一人だけ大変そうに働くその人を見て居たたまれなくなったそうだ。
しかし、それが上司は気に入らなかったようだ。なぜ厨房の人間がやっている、仕事が遅れるだろうと叱られたそうで、それに思いっきり抗議したらしい。
「そもそもなんで一人にこんだけやらせてんのかわからん。あんたが不機嫌さを出してるせいで他の新人もこの人を見て見ないふりをしなきゃならない。あんた空気くらい読めよ。あんたいる日、めちゃくちゃ空気悪いかんな!」
この辺で俺が出勤してきて一度止めたが、
「お前もういい、帰れ!」
とか上司に言われてしまい、
「あぁ帰りますよ。ただ俺の仕事、てめぇがちゃんとやれよな!」
とか言って、そいつは扉を蹴って出ていってしまった。
同じく出勤した、俺と同じ時期くらいに入った、ホールも厨房も任せられるバイトに少し仕事を頼んでそいつの後を追おうすれば、その上司に始末書を渡されたので仕方なく受け取り、一応話を聞いてみたらそんな感じだった。
「タチが悪いのはお前だよ。なんで喧嘩するかなぁ」
「だってムカついたんだもん」
「ムカつく奴といちいち喧嘩してたら身が持たねぇだろ。お前、こんなんもらってきたからな」
と言ってそいつに始末書を見せれば無言で突き返されて。
「なんで?俺間違ったこと言った?|長谷川《はせがわ》さんにばっか仕事押し付けてさ、周りのやつらも見ないふりして。まぁそこは仕方ないと思うことにしたよ。
あんたも、もういいよ。俺が勝手に手伝って勝手にこうなっただけだよ」
「あっそう」
俺も気は長くはない。少々イラついたので冷たく言って嘲笑ってやった。するとその新人は先程の挑戦的な目とは一変して少し驚いたような目で俺を見る。
「人がいつまでも優しくしてやると思ってんじゃねぇよクソガキ。
お前のその若さは好きだがお前がそんなんやってたらこっちも身が持たないね。
あー辞めちまえ辞めちまえ。まさかその覚悟であそこまで喧嘩吹っ掛けたんだろうな?
だがな、これで辞めたら、今この時間も当の長谷川さんはどんな気持ちだと思ってんだよ。てめぇのせいでさぞ居心地が悪いだろうな。
てめぇが勝手に何?カッコつけてこんなんなったせいでな。お前そんなことまでまさかちゃんと考えてやったんだろうなだとしたら!長谷川さんに対する嫌味もあるよなぁ。お前、だとしたらかなり嫌な奴だな」
そこまで捲し立てると新人は黙りこんで俯いた。まぁ10代後半のやつにしては少々苛めすぎたかな。
「お前はまずこれ書けや。これはじゃぁいいよ、俺に対して書け。俺はお前の代わりにあのバカ野郎に頭を下げることになるんでな。そしてお前は長谷川さんに謝れ。まぁ多分、ありがとうって言われるとは思うがこれはこれであの人も、キツかったら助けを呼ぶ、そうやって新人を育てるという良い教えにはなっただろう。
あ、お前が辞めないならね?辞めるなら別にいいよそんな紙切れ書かなくても」
そう言い終わったときちょうど、長谷川さんが上がってきた。それを見て新人は、すっと立ち上がり、「長谷川さん、なんか余計なことしてホント、すみませんでした」と、深々と頭を下げた。
長谷川さんはやはり気にした風でもなく、にっこりと笑って、「君は優しいね。ありがとう。君くらいだよ、あんなに言ってくれるの」と優しく言葉をかけていた。
「俺からも、ウチのクソガキがすみません。あれから大丈夫でした?」
「あぁ…まぁ|志摩《しま》くんがわりとやってくれたから」
「いや、まぁあいつは後でタバコでもやればなんとか…」
「それより柏原さん、新人君を詰めたね?ちょっと泣きそうだよ。俺は大丈夫だから。
|神崎《かんざき》くんだっけ?本当にありがとう。そして、なんか、悪かったね」
「いえ、俺が勝手に…やったことだから」
「でも助かったし、俺もちょっとしっかりしないとね」
「…長谷川さんが優しい人でよかったな。俺だったら逆にお前のこと殴ってたわ」
「確かにやりそうだね!」
その場は和やかに終わった。
「さて、タバコ吸って戻ろうか」
「えっ」
「えっ、じゃねぇよ。お前今日14時まで入ってんだろ。ランチピーク抜けようとか甘いこと言ってんじゃねぇよ」
「…はい」
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