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 山田の家についてからテキトーに光也をそのへんに寝かせる。山田も軽く飲んだらすぐに寝てしまって、気付いたら真里と二人で飲んでいた。
 二人して結構酔っぱらっていたが、二人になってしまうと果たしてなんの話をしたらいいのか…と思っていると。

「柏原さん、俺ちょっと…相談?てか暴露していいっすか」

 とか言うもんだから。

「え何?面倒臭そうだから聞いてやるよ」

 なんだろ。上司とうまくいってないのかな、やっぱり。でも暴露って?ヤバイなこれは凄く面倒だろうな。なんだろう。
 同期の|麻希子《まきこ》と付き合い始めましたとかそんなんかな。そんなんだったら全然いいけど。

「俺ちょっと好きな人出来たかも」

 はい来ましたビンゴ。

「そんなことだろうと思ったわ!」

 俺ってどーもそーゆーの先に当てちゃうんだよな。つまんないな。

「麻希子だろ」
「はあ?違いますよ」

 はあ?ってなんだよ。

「多分当たらないですよ」
「え?何それ」
「酔っぱらってるから言いますけどね、俺ホモなんですよ」

 …え?

「いやサラッと爆弾投下しやがって」

 え、このパターン何?どーゆー可能性を考えたらいいの?予想に反しすぎて全然分からんのだけど。

「あれ、意外と驚かない」
「いや、そうでもない」

 内心台風だよマジ。今冷静になるのに必死だよ。

「ちなみに大丈夫ですよ、あんたじゃないから」
「え、それよかったのかな悪かったのかな」
「ちょっとね、ここ最近モヤモヤしてたんですよ。あれ?これ久々の感覚かなって」
「え、待って、お前いつからその…」
「ホモかって?高校のときでーす」
「あぁ、はぁ…」

 開いた口が塞がらないとはまさしくこのこと。そんな俺を見てすごく楽しそうな真里。

「いやまぁ聞きたくないならいいんですけど。あんま受け入れてもらえないのわかってるしね」
「いや受け入れるんだけど、いや待って、そう言う隠語的な意味じゃなくてね」

 冷静さ欠いてますね。結構こいつ人の心読むというか痛いとこ突いてくるなぁ。

「あ、やっぱ意外と驚いてる」
「うん、ごめんカッコつけるのやめます。
 えぇぇ!マジか!色々聞きたいがそれはまぁ気が向いたら話してください、という事で。で、相談ってのは?」

 そうだよ本題こっちだよ。

「はい。俺光也さん好きだわ」
「近っ!あっさり!
 いやお前なに?気持ちいーねここまでさばさばしてると」
「いやいや。あんただから言ったんですよ。俺の古い友達ですらみんな知らないから、俺の性癖」
「性癖…そっかそんな言葉になっちまうのか」
「そうですね」
「うーん」

 厄介だ。これはかなり厄介だ。

「さっき確信しました。あぁ俺好きなんだなって」
「ちなみになんで?」
「この人多分だけど…こう見えてネクラでしょ」
「うんかなり。え、それ?」
「はい。きっかけなんてそんなもんです。
 明るいふりして優しいふりして、良い子ぶってネクラ。これ厄介者でしょ」
「…お前入って何ヵ月?」
「入学前からだから3ヶ月かな?」
「すげぇな」

 こいつの観察眼ハンパないな。怖いくらいだな。

「えー?人って3ヶ月位で分かるでしょ」
「いや普通そこまで見破れる?」
「分かりやすい方だと思うけどな」
「多分それはお前が興味持って見てるからでしょ。だって山田どんなやつよ?」
「あー、それ言われちゃうとそうかも。一言、真面目。着実にこなすタイプ。うーん、スピードより正確にタイプ?仕事しか見ない感じだとね」
「うん…。
 まぁいいや、話を戻そう。で、光也と付き合いたいわけか」
「うーん、まぁそこはまだ考えてないや。だってさっきだもん」
「あそっか」
「まぁちょっと聞いて欲しかったかなー。酔ってなくてもこれ近々言ってたと思います」
「そっか」

 なんで俺に言ったんだろう。

「あんた優しいからさ、あと、まともに聞いてくれそうだからちょっと言ってみました。いきなりすんません。俺は寝ます」

 そう言って真里は微笑み、一度光也の頭を愛しそうに撫で、山田が用意した布団に入った。

 そっか。

 まぁいずれにしても話して胸の支えが取れたならよかったと言えばよかった。俺は多分これからも聞くことしか出来ないし、話されるのを待つことしかできないけど。
 それだけで少しでも軽くなるならそれはそれでいいや。
 だけどそこからなんか眠れなくて。暫く起きていたら光也が起き出した。

 そっか薬切れか。

「大丈夫か?」

 そう声を掛けるとビックリしたようで、バツが悪そうに、「あぁ、まぁ…」と曖昧に返した。

「持ってんの?」
「え?」
「薬」
「まぁ…」
「飲んでちゃんと寝ろ。酒抜けてる?飲みすぎんなよ」

 そう言うと少し安心したのか、鞄から薬を取りだし、2錠口に入れて、その場にあったコップを濯いで水を入れて飲み干していた。

「それ2錠飲んでいいもんなの?」

 確か静も同じのを飲んでいた。

「これはね」
「そうなんだ」
「これ一錠0.125mgだけど次0.25mg処方されるからまぁ、変わらないでしょ?」
「うーん」
「てか寝れないし」
「そっか…」

 まぁわかってるなら大丈夫かな?

「まぁ自殺に使わなきゃいいけどさ」

 そう言うと光也は緩く笑った。

「しないよ。こんなんで死ねたら楽で仕方ない。
 まず人ん家で死のうとか思わないから」
「うん、そっか」

 そう言われるとこれから家にさ、帰したくなくなるじゃんか。

「大丈夫、ありがとう。
さて、利く前に寝る」

 そう言ってまた布団に入った。そっか、利いてくると奇行に走っちゃうんかな。

 なんだかなぁ、モヤモヤする。
 俺はいつだって誰にも何も出来ない。

  静にも、真里にも光也にも。何一つ出来ない。何かしようとするからだめなのか、そう思って何もしないからダメなのか。

 俺は生きてほしいんだよ、みんなまともに。でもそれは、俺がまともじゃないからという押し付けだから説得力がないんだよな。だから言わないし言えないけどさ。こうやってモヤモヤするんだぜ?笑っちゃうくらいに。

 あぁ。やんなっちまうな人付き合い。やっぱ引きこもりたい。それも出来ない。

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