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「あまちゃん」
「…まぁ、そうね。げんちゃんにとっちゃ、そっちのが、やっぱ前のエッレとかもあるし、そっちのが売れてるし、まぁ、いいんじゃねぇかな」
「何言ってんのあまちゃん」
「俺お前のね、エフェクターの使い方とか、あとコードアレンジは確かに、ちょっとグリーンハイツに、言われてみれば近いよなって、なんか、そんな気も」
「違う、いや違わないんだけど」
「うっさいなぁ、バーカ!」
漸く顔を上げた。見つめ合って互いに言葉を呑んでいる。
何も言えないんだろうなぁげんちゃん。あぁ、バカみてぇだけど。
「おい頑張れよでんにじ!」
つい、ヤジを飛ばしてしまった。
一斉にみんな俺を見た。もう足とか構わない。変な芝居とかやめよう。
立ち上がって見ても足の痺れとかなくなっていた。みんな「あれ?」って感じのリアクション。まぁいい誤魔化せる今なら。
「センスねぇやり取りしてんじゃねぇぞしゃべぇな!ギターのお前!多分そいつバカだからもっと言ったれよこの際!
してあまちゃん!ギターのそいつちょっとふにゃちん野郎なんだから得意の我が儘かましたれよ根性なし!早くしねぇとそこのクソセンスのバカバンドに取られちまうぞ!おい!」
ベースがぽかんとしてから笑った。ドラムも口開いて「予想外だろあのキャラ…」と呟いてる。
あまちゃんは硬直、ギターはベースと指差し合って爆笑。
俺そんなおかしいこと言ったかな。
「ふ、はははは!
やべぇ、やべぇよあんた何者?え?
そうだな、うん。
あまちゃん、俺さぁ…。
ちょっと怒ってた。けどもういいや。
だって俺ここ大好きなんだ。
残念ながらサポートギターで、ナトリさんや文杜さんよかあんたを知らない。けどねぇ、楽しいよ、楽しいんだよ。だからあんたが活動休止って言った時、殺してやるとか思って首締めちゃったし、でもあんたそん時もそんな顔してたね、俺嫌なんだよそれ、そのなんかよくわかんねぇ哀愁。うぜぇのマジ。
けどそれはさ、あんたいねぇとダメなんだよイライラするけど、うぜぇけどマジで」
なにそれ首締めたとかさらっと怖いこと言ってるけどこの兄ちゃん。
「…げんちゃん…」
「あんたが言ったんでしょ?弦次っていいね、げんちゃんだねってバカみてぇに。あれだって強引じゃんか。げんちゃんには、んな神バンドよりハコでアレンジさしたるわって何それ?
今更言わないでよ。てかね、ねぇ、あの人は…げんちゃんなんて言ってくんなかった。我が儘ならね、あんたよりあの人の方が神ってるから。あんたそれ以外なんも我が儘言わねぇだろ。だから俺が今日こそ言ってやろう、言ってやろうって、俺毎日思ってたんだよ」
あまちゃんはまた硬直しているようだった。
「なぁんか、お前らってバカだねぇ」
けっけとドラムが笑って揺れる。その同意を求める視線の先には、優しいベースがにっこりと笑っていた。
「取り越し苦労だったんじゃないの?でも、俺はいいと思うよ」
こいつが2行以上話したのを初めて聞いたなぁとぼんやり思った。ベースの名に恥じない、優しい、腹に来る低い声だった。
何これ俺泣きそう。良い話系超弱いんですよこの歳になると。
「つかあのうー」
一致団結しそんな和やかな雰囲気なところ、置いていかれてしまった山田が、興醒めしたように死んだ目で嘲笑った。
「あの感動中もーしわけねぇんだけど、あんたら勘違いしてね?」
「は?」
「え?」
「いやだからさ、よかったねーげんちゃーん居場所出来てー。
はい、じゃぁ天崎さん、ウチにサポートよろしくね」
「は?」
「え?」
「なんで?」
山田に思わず俺の涙引っ込む。代わりに「なんで?」とゲロっちまった。
「だからさ、最初から言ってんじゃん。俺別に奥田くん要らねぇし。俺が欲しいのは天崎さん、あんたなの」
「いやだから、それ今解決しましたよね」
「してねぇよ。え?カオスだねあんたら」
「え、てかそもそもなんで欲しいの?」
それな、確かに。
確かに、音楽性はちょっとアナーキーだし似てないこともない。しかしお前山田。
お前ギタボ、その他確かもう一人ギターいる、最早あまちゃん要らなくない?サポートなら持ってのほか。それを何踏み間違ってあまちゃんが来てくれると思ってんだろうか。
「要る要る。だってあまちゃん可愛いじゃん」
「は?」
「え?」
「いやさぁ、俺って言うなら可愛くないじゃん?でもさぁ、あまちゃんは可愛くてラリってんじゃん?それってヤバくない?」
「はぁ?」
「ほらそれそれ」
「え?何言ってっかわかんない」
「うーんと、バンド的な表現をするとさ。
わかる?サポートって、サポート行くってなんか抱かれに行く感じじゃんそれ奥田くんならわかるっしょ?つまりそーゆーことだよね、まぁ、お宅のあまちゃん抱かせてよって」
「えっ」
「げっ」
「何っ」
「あーもー焦れってぇなぁ」
かと思えば山田世界、突如目の前にいたあまちゃんに抱きつき、背を少し屈めて髪の毛ぐしゃぐしゃにしながらあっついチューをかましてしまった。
「うぉぉぉあぇ!?」
テンパったのはドラム。そりゃそうだ、真隣で状況が一番見やすい。
あまちゃんはどうやらそのドラムの声で硬直が溶けたらしい。バシバシ山田をぶん殴る。
山田の凄く興奮しきった顔だけはこちらにも見て取れる。なんか俺唖然。
「うぅっ、はっ、」
調子に乗ってそのまま山田はあまちゃんの耳あたりを舐めたらしい、逆にあまちゃんの力が抜けたのが見える。「ちょっ、なっ、」と、あの甘い掠れた濡れた声がする。どうしよう不謹慎ながら俺も興奮しそうで歩けない。助けるべきじゃね?
しかし次の瞬間。
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