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それから二人でブックオフに寄り道して結局でんにじゲットならず、そのまま部署に帰った。
部長大喜び。
それから今日の分の鬼のような計算データと戦い、定時に帰ることに成功した。
あぁ、家帰って何作ろうか。今日くらいうどんとかあっさりしたの食いてぇな、だって昨日クソほど飲んだし。
とか思って家の鍵を開て驚愕した。
「なっ、」
玄関に見慣れないギターケース、てかギター本体。それとなんかちょっとお洒落な足首くらいまでの黒いブーツ。これはなんだ。何故ここにあるのか。
しかしなんか覚えがある気もするぞおい、センスの無い俺。
部屋は真っ暗。これはあれか。
「あの〜…」
てか何ビビってんだよ。
取り敢えず1LDKの玄関、K、Dを急ぎ足で歩いたあたりで確信と証拠を同時に手に入れた。
リビングのソファであまちゃんがスウェット姿で身動きひとつせず寝転がっていた。
ちょっと戻って電気をつける。漸く「うぅぅ…」と唸ってあまちゃんは目を開けた。
「…どうしたんでしょう」
「あ、おかえりぃ…スバルくん」
「すみません、俺昨日のことあまり覚えてないんです。昨日君、帰りませんでしたっけ」
「うん…」
どうやらあまちゃんは寝ぼけているらしい。
取り敢えず二日酔いとかもありそうだし、茶でもいれるかと、しかしながら客人を呼ぶ機会がない家にそんなものはない。仕方なく、大丈夫かなと思いつつコーヒーをいれ、出した。
「あぁ…ありがと…」
あまちゃんは酷く掠れた声で顔だけこちらに向けて言う。しかし起き上がらない。もしや低血圧というやつか。
仕方ない。
あまちゃんの低身長が幸いしてか、ソファのほんの少しだけ余っているスペースに座れば、律儀にも足を曲げて俺が座るスペースを確保してくれたようで。
「天崎さん」
「ん、あぃ…」
「どうしたんですか」
「え?」
「ごめんなさい、俺昨日のことあまり覚えてないんです。俺の記憶が正しければ昨日、君は俺をここに送り届けてくれて帰った気がしたんですが」
大切なことなので2回言ってみた。あまちゃんはぼんやりと、「うん、そうだよ」と返した。
「君はどうして今ここにいるのですか」
「漫喫の金が払えなくなったからだよ」
「はい?」
「スバルくん、昨日合鍵を貸してくれた」
えっ。
「…マジすか」
「うん。俺が家なき子だから今晩泊めて?って言ったら合鍵くれた」
貸してくれた、から、くれた、に昇格した。
あぁぁぁ。
やっぱりセンスねぇ俺。
「でもほら、お金溜まったら漫喫戻るって言った」
「はぁ、え?」
漸くあまちゃんは頭を押さえながら顔をしかめて起き上がった。そして俺がいれたコーヒーを飲んで「あぁ、うん」と、どうやら生き返ったらしい。少し潤んだ茶色い綺麗な目で俺を見た。
「ごめんね」
「いや…」
え、なにそれ。
ちょっとそう言われちゃうと困っちゃうけど。
「悪いんだけど、土曜日までのお金あげるから泊めてくれない?」
「え、は、」
「ダメならまぁ、いいんだけど」
「だって、それってあんた、どうすんの」
「うーん、まぁ色々」
なにそれ。
ものっそい怖いんですけど。
「ね、ねぇ、一個だけ聞いてもいい?」
「どうぞ」
「そもそもなんで君、家ないの?」
「いやぁ、今日さ、2月2日でしょ?
1月31日で家賃半年記念でさぁ、家なくなっちゃったんだよね」
「はぁ!?」
「うん。いや、払えそうだったんだけど…。
昨日あげたフェンダー、あれ高かったんだー…売ろうと思ってたけどまぁね、勢い?ストラトキャスターだったんだよねぇ。俺それからテレキャスターにしたから実はあんま使ってなくてさぁ、きれーだったから20はいったんだよねぇ…」
「うわぁ…てか、あれ、後輩がプレイしてたのって」
「YAMAHA」
「あんた優しくねぇな!いきなりハードル高いでしょーよ!」
「あ、わっかるぅ?俺使えなかったもん」
「えぇぇ…」
逆にそんな奴がよくテレキャス使えるな。無駄に拘ってるそれなんなんだよ。てかそれどっちかってぇとげんちゃんが使えばよくない?
「あーあ。せめてあと3ヶ月は住めたのに…」
「いや待て待て。まず追い出されてるし、色々突っ込みたいけどまず、今何使ってんの?」
とか聞いちゃう俺もわりと受け入れ体制?
「決めてなーい。拘るのやめた。俺ヘッタクソだもんけどテネシーローズ使いたい」
「拘ってるじゃん!」
「だぁって仕方ないじゃんチバさんも浅井さんも使ってるんだもん」
「わかるわ〜、けど謝ってこいよいろんな人に〜」
「まだ使ってないからいいでしょ。でもレスポール」
「何故ー、テネシーローズから離れてる、でもわかるー、けどあんた下手クソー」
「だから定番なんだよー」
なるほどねー。
しかしホントの定番はフェンダーじゃないのー?まぁ『レスポール』って言いやすいんだろうけどなんで逆に玄人感煽ってんのかよくわかんなーい。やっぱこいつふわふわしてるー。
「だからさー、土曜日まで泊めてー」
「ねぇてかさぁ…」
しかしここは大人だ。
バシッと言わねば。
「天崎さん」
「嫌だそれやめて」
「あまちゃん」
「それは演奏者とファンとの壁でいいね」
めんどくせぇなこいつ。
色々考えを巡らせて、これかな、という答えはひとつしかなくて。
「真樹、」
「あい」
「それでいーの?」
「なにがよ」
あまちゃんは突然不機嫌そうに真顔になった。
「…ごめんやっぱ一回妥協して。
あまちゃんがいい。たまに呼べそうなとき頑張るからさ。愛称はそんな深い意味無いから!ね!」
「えー」
「いいじゃん、お宅らだってそうでしょ」
「まぁ…うん、んー…。まぁいいや。で、なにがそれでいいって?」
「…なにがって、まぁ、だからさ」
「人生論?」
「んなのはまぁ、言えた義理じゃないからいいけど」
「じゃ、なに?」
うん確かに。
何が言いたいの俺は。
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