5


 ふと息を吐いて笑った切ない笑顔がエキセントリック。そう、彼はそういう事情。
 どんな仕草も人を虜にしてしまう。俺は多分、飼い主から戻ることは出来ないし彼らの背中もまた、同じだ。

「バカみたいでしょ」
「何が」
「だって、こうして…みんなどっか行っちゃった。俺はただ、そう、拘って、結局音楽しかなかったのに」
「うんそうだね」
「それをでも守ってくれる人がいてそれを守ろうとしたんだよ」
「うん。真樹さん、けど君はね、あまちゃんは凄いアーティストなんだよ。けど、真樹はちゃんとした人間なんだ。あまちゃんだってそうなんだ。そこに壁は作っちゃいけないんだよ、真樹」
「…あい」
「殺されかけたのは?」
「うーん…どう言った意味で?」
「わかった質問を変えます。
その…ヤッ…うーん寝てしまったのは?」
「わかんない」
「ぶっ殺していいですかしゃちょー」
「怖ぇぇ」

ダメだ出来るだけ腹立たないような質問にしようとか色々考えたけどダメだぶち殺したい。顔も見てないそいつを殺したい。

 あまちゃんが「キチガイ眼鏡だ…」と唖然としているのすらどうでもいい。なぜ俺はあそこに爆弾を仕掛けてこなかったか。

「いやでもね、それがないと著作権もあいつらの人権も」
「どうでもよくないけどどうでもいい、いま憎しみがハンパないっす」
「いや俺が悪いのよ」
「そうです君が悪い」
「スバルくん変」
「だって君ねぇ…!」

眼鏡が曇る。思い出すと怖くなってくる。

「いきなり仕事の休憩中に電話掛かってきて知らない野郎に『ウチの真樹と関わるな』からの君がぶっ倒れたっぽい感じ?を聞かされてみろ、道徳としてだねぇ、」
「あい、すみません…」
「まったく…。
 俺実は全然いま状況も、なんとなくしかわかってないんだ。君はどうして、こんなことになってるんだ…」

少しは聞いたけど。
拾い集めてもあんまりぴんときていない。結局君は何をしたかったのか。

「…まぁ、その…。
 事務所を辞めようとしてこうなった。しゃちょーが、まぁ辞めるらなら俺の色々をマスコミにバラしてやるとか言って、まぁ、そんなのは今更いいよって。
 ただ、げんちゃんの元リーダーとかとこれから話し合いとかになったらそれもフリになっちゃったら嫌だ、と言うかまず、俺は最早干されようが正直そんなの気にしないし、てかあんま相手にされないし食いつかれないしいいんだ。
 問題はみんなは、休業中わりと有名なとことやってたりしたから、みんなのことまであいつは知っているとなると、これを何かバラされたら、それこそエッレネタとかね。嫌だなって思ったから…証拠能力がありそうなもんを全部、なんなら在籍した可能性から全部、消してきたの。いた証拠がなければいざってとき騒がれないし」

なるほど。しかし…。

「そんなに?」
「あの人の俺への綱はそこだから。俺が半年前喧嘩したときもそんなんで脅されたけどその時は音楽版権を貰うまでしか出来なかった」
「え?待って、それってさ。
 みんなやめてよかった、そう言うこと?」
「まぁ捉えようによっては」
「いまのみんなとの喧嘩は?いまの真樹の状況は?」
「うーん、まぁしゃちょーとは話し合いで解決するとは思ってなかったけど、まさか気絶してみんながその場で辞めるとは思わなかった。まだ太田さんとも話してないしちょっと狂ったね」

どゆこと?

「いずれは辞める手はずだった、みんなってこと?」
「…まぁ」
「なるほど、ちょっと早いけど、ってことね。それにしては無茶したね。無理矢理解散とかにはならなくて済みそうだね、わかんないけど」
「うん、まぁ」

まぁみんなが怒っているのは。
その無茶なんだよと言ってもなかなか伝わらないかもしれないけど。

「そもそもしゃちょーはなんで君にそんな…」
「ライブに来てた時の直感で、契約切れくらいの時期に声を掛けたとは言ってたよ。
顔合わせってかまぁ会社行って契約するじゃん?ふみととナトリが帰ったあと「君、書類不備があるねぇ」とか言って電話でしゃちょーの家に呼び出されたが最後。部屋ついた瞬間視界が天井。めっちゃ酔っぱらっててしゃちょー。
 いやぁ死ぬかと思った。でもなんか凄い気に入ったとか言って朝まで。で、それから俺の家になったあそこが」
「ぶっ殺すあの野郎」
「声もよかったんだって。あと調教する感がたまらんって」
「いやぁぁぁ!」

 あまちゃんはここに来て漸く笑った。そして「内緒ね」とか言うのが憎たらしくも可愛い。

お前そういうとこだよバカ!

「でもねぇ、嫌だった」

 笑顔ながらあまちゃんはそう言った。にかにかしている。しかし声は掠れてても甘さがあって。

「でも言うこと聞いちゃうの。昔から。殴られたりすると、そうなるでしょ?不快だと意思を消すでしょ?そんな感じ。
でも嫌なのはそこじゃない。
 あぁ、なんかこの野郎、でも凄く幸せなんだろう、多分俺は愛されてるのかもしれないと思う瞬間が悲しくて。泣いたら殺されるけど抑えられないそんなとき、あの人狂ったように涙を舐め取るんだ。それを綺麗だと、言われる虚無感や自分の感性が凄く死にたくなる」
「…真樹、」
「多分スバルくんにはわからない」

 そりゃぁわかんねぇよ。それを笑顔で言っちゃうのとか。そもそもそれが笑顔なのかとか、ただ、げんちゃんの、その哀愁が嫌だ、あの言葉はわかった気がする。俺もいま凄く心が痛い。

「でも愛情ってそんなんじゃないだろ」
「そうかもね」

でもだから。
だからあんな感性で物が出来るのか。

それは悲しいようでいて。
もの凄く幸せなような気もする。

 一見すればファンは突き放されるけど本当はそうじゃなく。
 ただ彼は素直に自分や、他人に不器用なだけなのかと感じる。自身が死にたくなるほどに。

- 26 -

*前次#


ページ: