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「お言葉ですが部長」
「あぃぃ、はい、はい」
「なにか勘違いされていますが僕は別にコレと恋仲ではありません。そしてこいつは僕の教育通りちゃーんと、こちらの無茶ぶり計算ソフトレベルの計算に耐えて耐えて販売数だのなんだの出し、しかもこの前無茶ぶり営業にも俺と行ったじゃありませんか午前に30も。何がご不満ですか。そしてどうやったら俺とコレが付き合うんです?貴方付き合えます?」
「おいちょっと色々聞き捨てならねぇぞ陰湿眼鏡」
「ほらぁ、ね?こんなクソ生意気な色気のねぇ女、タイプじゃないんですこの子もこんな陰湿眼鏡嫌なんですよこれってどう思うよ北谷」

 隣を見れば、泣きそうなのか笑いを堪えてるのかよくわからないブス顔で俺を見上げて、しかし我慢を押し殺した低い声で北谷は、「センスやべぇ」と言って、堪えきれなくなったらしい、爆笑した。

 わからん。今の若い子わからん。部長も、「今の若いのは…」と唖然としている。

「てか、俺はお前らとコントやってるわけじゃ」
「俺もやってません。真面目にやってますよ。ふざけた理由で呼び出したのそっちでしょ?つーか朝から、ワケわからないんですけど。女三人のに巻き込まれるわてかぶん投げられたし、こんなくだらない理由で仕事中断だし電車は人轢いてるしなんやねん!俺なんも悪いことしてなくないか?した?ねぇしました?」
「わかった、悪かった。ストレス溜まってるんだなお前」
「つか眼鏡取んなよ」
「だからそれなんでなん?よくわかんねぇんだよ!」
「鏡見てこいよホント〜。朝起きて鏡見てこいよ〜。だからハム事件起きんだよ〜、ハム言ってましたよ「眼鏡も素敵だけどぉ、取ったら運命」ってよ!」
「なにそれ〜、よくわかんないよ〜、眼鏡取ったら見えねぇんだよ鏡の距離はぁ〜。俺近視〜」

 ぐだぐだやってたら「もういいよごめん戻って…」と部長に言われた。
 よっしゃ、ぐだぐだ作戦成功。二人で取り敢えずデスクに戻ると「流石だね」と、他のやつらに茶々を入れられるが無視をした。

 眼鏡を掛け直してパソコンを見るとメールが届いている。
 見ればico生のURL。送り主はもちろん北谷。

 バカバカバカ。視れねぇじゃねぇかよ会社パソ。メッセージに「予習しやした(*゜ー゜)ゞ⌒☆」とある。

 なんだ「(*゜ー゜)ゞ⌒☆」は!使い所がわからん。ホントにいまなの?なんとなく違うでしょこれ!

「会社パソだよ!」
「大丈夫だよ視れねぇから」
「わかってるよあとなにこの記号!」
「わかんないけどケータイにあった」
「あこれケータイから送ってんの?」
「そうそう」
「じゃ直接メールしろよ!」
「いやなんか部長も見るからさパソ」

なるほどな。
なんて不良になっちゃったの。俺の教育が間違ったのこれ。

「めんどくせぇからケータイに送れ」
「じゃぁ先輩もそうして」
「わかりました」

 仕方ないので俺もさっきのYouTubeを北谷のケータイに送った。
 すぐに返信でメールが返ってきた。そして、「古里、北谷!」と部長から再び怒鳴り声が聞こえる。
 見てみると部長は明らかに怒ってる。多分今度は無理だな。

「そーゆーとこがダメなんじゃないかお前らぁあ!仕事しろコラ!」
「すんませ」
「はーい」

 取り敢えずそこから昼までは二人で真面目に鬼のような量の販売計算をひたすらこなした。

 バカみたいにプログラミング、バカみたいにエクセルワード、バカみたいにもはや電卓を駆使して漸く7割をこなした。なかなかいいペース。

 昼飯を下の食堂で食いがてら、さて、と、俺は今朝の話を北谷にする。

 北谷は、定食B(チキン南蛮と味噌汁と小鉢とサラダとご飯)の味噌汁を「ごふっ、」と詰まらせたのか吹き出したのかわかんない状態で話を聞いてくれた。

ほらほら。こんな色気ないヤツやっぱ無理だわ。

「あんだっぇっ、うぉ、ごほっ、」
「あーあ大丈夫か下品だなぁ」

 定食ランチA(唐揚げと海老フライ、味噌汁、サラダ、小鉢)の小鉢を食いつつ一応心配。

あぁきんぴらだ。あの子食ったかしら。

「なんのノロケだよそれ!」
「ノロケ?」
「てか待ってあんたらさ、どーゆーこと?」
「いやぁなんかさ、こう、一人暮らしじゃないってなんか、素晴らしいなっていうかさ」
「なんだお前…。
 待って、整理してい?
 つまり古里さんさ。うーん、そっち系だった?目覚めた?」
「えぇ?」

なんだそれは。

「そっち系ってどっち系?」
「あの、その…げ、ゲイ?」
「はぁ?」

何故そうなった。

「いやだってそれどう頑張って聞いても恋人?てか色々その人住み初めてからなぁんかさ、眼鏡ビフォーアフターとかぁ、早帰りとかぁ、合鍵とかぁ、なぁんかさ、あんたさぁ」
「いやいやちょっと、それワードが悪いワードが悪い。だから、相手は男なんだって」
「だからゲイかって」
「なぜそうなるの?え?頭の中メルヘン症候群なの?二次元なの?待て、俺を見ろ、二次元にいる面か?」
「眼鏡取ったらありえる」
「え?は?」
「その設定もありえる。」
「はぁ?大丈夫?」
「つーかあんたよく言えるよ、んなだらしない面してねぇ、「朝飯作ったんだよ〜」ってはぁ?「夢日記だってさ」はぁ?いやいやそれ疑わずして何を疑うのさ」
「己の欲求不満度」
「バカじゃねぇの?」

あれこれ昨日も言われたよね俺。

「いやあの…別にそーゆうんじゃないよ?だって俺お前ともなんもないじゃん」
「まぁ、確かに」
「あいつはまして男」
「うん、はい」
「はい、ね?
えてかさ、おかしいの?俺」
「うん。普通は。普・通・は!
 まぁ確かにでもそっか、あんた頭のネジない系男子だったなそういえば。歳甲斐もなく失神する系だったよね」
「あそれは」
「納得したようなしてないような。なんか訳ありかもね、うん。でもまだちょっと晴れないなあ」

なにそれ。
うーんどうしようかなぁ。てか正直なに言ってるか心底わかんねぇなぁ。

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