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 ぼんやり煙を眺めてタバコを吸う仕草、なんで様になるんだろうなぁ。いいなぁ、なんか大人っぽくて。

 フィルターギリギリまで吸ったところで何か飲みたいなぁ、と思って灰皿をテーブルに戻しつつ冷蔵庫を開ければ少し残っていたジャックダニエル。これでいいや。
 洗ったコップに少し注いで水を入れて飲み干した。

 酒臭いって言われたし、歯も磨こうかな。
 漸く洗面台に向かう気になってドアを開ける。湿ったシャワーの音に湯気が充満してそう。多分暖かいハズだ。

 歯を磨いている最中にスバルくんは風呂から出てきた。
 俺を見るなり「うわぁっ」と驚いていたのでなんか癪。
 口を濯いで何か言ったろうかと思ったが、よくよく考えればまぁ、風呂上がりに他人が目に入ればそりゃぁそうかと納得したので特に言うこともなくなってしまい、取り敢えずドライヤーを手に取った。

 そう言えば染色したてはあんまりなんかこう、ドライヤーって温度高いとよくないのかな。いやめんどくせぇ。しかしわりとしっとりと、乾いてきてるしまぁいいや、気にせず乾かそう。
 そう思って強にすれば、「なんかケアとかどうなの?」と、パンツだけ穿いたスバルくんが髪をわしゃわしゃ拭きながら言ってくる。

「わかんない」
「そう」

 けどなんかなんだろ、シリコン臭ぇ気がする。弱くしてみよう。

 スウェットを着終えたスバルくんが興味深そうに眺めているのが鏡に映る。一度ドライヤーを止めて「なぁに?」と聞けば、「いや」と考え、しかし遠慮がちに髪を触ってくる。

「案外傷んでないなぁと思ってさ」
「まぁ、そんなに染めたことないからねぇ」
「綺麗だねぇ。てか美容室には行かなかったの?」
「勢いだからね今回。あと俺コミュ障だし。ついでに切って貰えばよかったなぁ」
「あまちゃんのそれってさぁ、」

 スバルくんは然り気無くドライヤーを持って、なんか冷たい風邪でそやそやと俺の髪に風を当て始めた。眼鏡なくてもそれは見えるのか?

「所謂マッシュボブなの?」
「最初それにしたはずだったんだけど美容師になんか…『女の子感が全面強調されましたね。もしかして剃り込みの方でした?』とかよくわかんないこと言われたから『いやもういいっす』って。確かに見たらなんかさぁ、髪の毛がマカロニ?あのくるって捻ってあるやつ。あれ系になってて。
 でもそれも30分で終わった。あそこ二度と行かない」
「マカロニってかフリッジだね。それはそれで似合いそうだけどあまちゃんがやったら確かに完璧に女子だね」

 確かによく昔から言われますけどねー女子顔ってねー。あれムカつくんだよなー地味に。

「いや個人的にはベンジーっぽさがよかったんだけど革ジャン着てればよかった?」
「いや、多分越えられない壁」
「だよなぁ…、神だよスターだよ…」
「いや俺的にはその感じがいいけど。だってなんかね、こんな可愛らしー子がねぇ、まさかあんな頭おかしいチューニングコードで断末魔みてぇなシャウト?するとは思わないよね」

 あ、よく鏡見たら頭一個分身長さある。
ってか、んなこと言ったらさ。

「スバルくんだってそんな、なんか俳優?なに?特撮顔して眼鏡掛けたらそうでもなくて、てかまずハコにスーツで来て大号泣して失神とかあり得ないわ」
「それマジいじるな」
「メンバーであの後クソ盛り上がったからね。なんなのあいつクレイジー眼鏡でしょって。てか眼鏡詐欺でしょって」
「会社の後輩も掲示板見て次の日大爆笑してたよ。これやべぇよって」

 スバルくんがドライヤーを止めてにっこりと微笑んだ。「なんか縁側の猫みたいな顔してる」とか言って。

「ありがとう」
「いいえ。
 あのさ、でんにじのロッキンのライブ発見しちゃった。観ようよ。あと復活のやつ」
「うぇぇ、マジ?嬉しいけどあんたなんか最早コアファン入りしてね?一気に」

 すげぇな。
 てかいつのだよ。復活ライブは覚えてるけどロッキンとか出たの2回だけだよだいぶ昔に。

 スバルくんはそれから凄く嬉々としてドライヤーを強にしてものの30秒くらいで自分の髪の毛を乾かし、瞬時に歯を磨き、「さぁさぁ!」と、嬉しそうに俺を誘導。

 なにこいつやっぱり変態だよ、ここまで来ると。いや悪い気はしないけどさぁ。

 時間を見れば23時38分。スバルくん、復活ライブは見ない方がいいと思うんだ。あれ確かDVDにしたとき2時間15分くらいあったもの。ワンマンで喉死んじゃった時のやつだもの。

 しかしスバルくん、リビングに行けば嬉しそうにテーブルにノートパソコンを出して、何やらケータイを弄ったりしている。

 俺は取り敢えず明日の新曲の準備もしようと、夢日記(ネタ帳)と毛布をベットからソファーに移動して、まずは曲を書いていた。もう少しで最後の一曲、完成。少し書き足そう。

『センチメンタルに揺るぎない 緩い愛』

 しかし聞こえた曲はロッキンでも復活でもなく、だいぶ昔やつっぽかった。

 これなんだっけ。てか何の動画だろうと思って覗けばやっぱり、もう何年前かもわからないなんかBS中継のライブのやつだった。

 うわぁぁぁ。

「ちょっ、マジか」

 若ぇぇぇ。
 え?これ残ってんの?てかぁ、確かプロ行って間もない頃のやつじゃね?

「この頃からスーツなんだねぇ」
「ミッシェルもじゃん?」
「あやっぱりそれなんだね」

 うわぁぁまだ高音出てるよ少年感丸出しだよてか滲み出る童貞感なにこれぇぇ。
 でも多分この頃が一番モテてた。遊んでた、てか猿だったのにわりと純潔系の歌詞書いてやろうとか言う意味わかんないポリシーの時期。

 まぁそれは今も生きていて、ダイレクトには言葉にしない。歌ってて辛くなるから、言葉を少し変えてみる。ここに生きたわけなんだけども。

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