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「あっ」

 そんななかで。

「この歌」

同じライブでやったからだろうか。自動再生された『学校』

「これ俺好きだわ地味に」
「あぁ…そりゃよかった」
「この高音上がりの辛そーなあまちゃんの声とか堪んないねぇ」
「変態臭いなあ」

 まぁこれ確かに復活の時最後に唄ったら無理だった。唄うの辛くて二番から半音下げたヤツなんだけどね。
 げんちゃんに「出た、最近の高音逃げ」とか言われたやつだよ。仕方ないじゃん?年食ったら高音キツいんだよ。

 しかしそん時もげんちゃんに称賛されたなこの歌。俺的にも思い入れはあるがそう、ちょっと引っ掛かる程度に苦しいかもしれない歌。

「これアドリブだったんだよね」
「え?そうなの?
 にしちゃぁ、ちゃんと…」
「一番最初にやったの高校の文化祭だから。俺がリフ弾いた瞬間ハゲも文杜も思い出したんだって。
 復活の時はげんちゃんいてこれぶち込んだ。げんちゃん、あいつらに聞いてたのかな。なんかちゃんと弾いてて、てか4人になったらこの曲こうなるんだって、サイドギターってすげぇって思った」
「えなにそれ観たい」
「最後に観ようか。凄いよげんちゃん。アドリブなのか、ぶち込まれた時用に音作ってたかは知らないけど凄いよマジ。感動して抱きついちゃったもんね」
「そもそもなんでそんな突然曲やっちゃうの?」
「うーん、思い付き?
 この曲はね、文化祭出演時間過ぎてたけど、最後にぶち込もうって決めてたの三人で」
「なに、思い出ソング?」
「まぁ…。
 その年に、まぁ俺たち全然知らない、誰だかわかんないヤツだけどさ、自殺したんだよ。教室から先輩が。それでなんとなく作った。苛めだったんだけど、わざわざ授業中に落ちたらしくてね。それってすげぇなぁって思ってさ。俺には出来ねぇなぁって」
「なるほどね…」
「その後プロになってから、後半歌詞書き直したりした。まぁ出回ってないけど、この動画歌詞付きだね」

 一体誰が字幕つけたんだろう。

「出回ってないの?」
「うん。人生で3回しか唄ってない、公では。そーゆー曲もあるよ。全英詞とか」
「それ見た!あれ上手いじゃん!」
「あー確かに言われた。いつものはどうしたって。だって仕方なくね?書いてもらったからにはちょっと本腰入れなきゃ」
「いつも入れろよ!てか書いて貰ったんだ」
「うん。いやぁ、その人と飲んだとき、まぁその人普段歌詞とか書く人じゃないし英語も別に出来ない人だけど、まぁ同意してくれたのは、“言葉”に関して。
 俺は自分の気持ちは表現するけど直接はしないよって、言葉を少し変える、ダイレクトに表現しないんだって話をしたらさ、その人ライターなんだけど、それいいねって。
 じゃぁこんなのどう?って一生懸命英語作ってくれた。あ、そんとき恋愛の話もしたんだけどね。
 ただ…。
 日本語訳はやっぱりなんか直接的すぎて、ちょっとあの場だけしか唄えてないねぇ」
「へぇ…」
「でも幅は広がった。なるほどってね」
「つまり、なんかその未発表なのってさ」
「まぁそーゆーことだね」

 自分の中で唄える歌と唄えない歌がある。そう言うことだ。

「でもどっちも俺好きだなぁ」
「あそう」
「なんか反抗期の息子の別の表情を見た気分」
「やっぱおかん気質だねスバルくん」

 しかしなんだか。
 隣で嬉しそうにというか楽しそうに観ているスバルくんを見ていると、なんだか自分も、好きなバンドのハコに行ったりライブ観たりしたときこんなんだなぁとか思う。いいなぁ。なんか。

 しかし照れ臭いなぁ。
 寝転がって毛布を抱き締めて観ているとやっぱ、昔の自分尖ってましたなぁ。しかし意外と安定してんなぁ。

「あそれロッキン?」
「そうそう」
「うわぁそれインフルの時のロッキンやん…いやぁぁ、やめない?ひでぇマジ。え?ラリってんじゃん多分」
「いつもじゃんいやぁ、これこん時はあれ?あまちゃんギブソンじゃないね」
「これ間違えて多分持ってきちゃってぇ、でほら、げんちゃんテレキャスなんよこんとき。ついでにチューニングしてもらった。
 けどこの英詞の歌、一回限りだしなんとなくマッチしてる感あるねえ」
「つかやべぇ興奮する」
「は?」
「なんだろこう…うはぁ、いい、いいねこのアンバランス感。してふみとくんのここここ!唄引っ張り出すようなこのベースってか指弾きってトゲがなくていいなぁ。あとエロい」
「心底気持ち悪いねスバルくん。けどわかる。文杜多分変態だよ」

 確かにこれバランスいいなぁ。俺の声さえよけりゃぁなぁ。

「タミフル効いてんなぁ。頭ボケてっから逆にすげぇ冴えてるけど前日まで咳が凄くてゲロ吐きまくっててこの後酒と安定剤飲んで吐いたもん」
「飲むなよ」

 ふと振り向いて見上げる形になったスバルくんは、腕を伸ばしてきてなんか、俺の頭を抱えてなぜた。
 伏せた眉毛が妙に長い。そして吐くように、「そんなに死にたいの?」と言った視線の先が丁度、腹辺り、腰骨が覗いていて腹の傷がパーカーから出ていた。

「別にそういうんじゃないと思うよ」

 気まずくなって然り気無く片手で傷をしまった。無意識にスバルくんは自分がそれを見てしまっていたのに気付いたらしい。

「俺だって、スバルくんが言うほど悲観してないよ。確かに、「死ねばよかった」「お前なんて生きてるから」そう父親に言われて育ったから、多分どっかにはあるかもしれないけど、もはや今は…なんとも思わない。そんなことに体力なんて」
「真樹、」
「ん?」
「ロッキン観ようか」
「…うん」
「無理に、話さなくていいんだ。ごめんよ」

 そう、悲しいような笑顔でスバルくんが言ってくれた時だった。

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