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「CM?」
「あ、それはねぇ、多分違う方のヤツなんだよ」

 一度それをあまちゃんに言ったことがある。
 「あれ、もしかしてさ、スポドリの」と言った時点でボーカル|天崎《あまざき》さん、風呂上がりに丁度何か飲み物を冷蔵庫から取ろうとして、

「それ違う方だよ、」

 と非常に嘲笑っぽい、顔見てなかったけどだからこその不機嫌感を感じ取りボクは思わず振り向きましたね。
 タバコをくわえながら冷蔵庫からスポドリを出そうとしたその手を引っ込めてコーヒー入れ始めたあの不機嫌な空気をボクは忘れませんよ。

 誰だよ違う方と思うときに限ってCMって流れるんですよね。

 聴いたら似てるだけの違うバンドだったときの俺の全力フォロー的な、スポドリバンドを批判にシフト変更、我ながらあれは凄い順応能力。
 胃に穴開くかと思ったんだからね。

「あ、ホントだ、こいつへったくそだ」
「でも間違ったよね」
「い、いや、一瞬だよ」
「最初の一音からちゃうやろが」
「いやうんホント、ぜーんぜん。あまちゃんのが断然良いわぁ〜。俺激務かな疲れてたのかな」
「くつろいでたじゃん砂糖入れたろか?3杯くらい。牛乳も入れたるよ、あ、スポドリあったな」
「ごめんてぇぇ!」

 そっから復旧まで地味に時間を要したんだからなマジで。あの地雷を思い出すといまでも吐き気がするわ。

「これ3ピースやろ?」
「映像あるよ」

 確かめたくなって、マイ保存Youtubeを開ける。一瞬見で「やっぱり、ん?」となっていた。

「あやっぱり。へぇ、スポドリのは違うんだ。
 ボーカル以外変わっ…ん?てないあれ、4?」
「あぁ、ギターはね、今週入った」
「えぇ?」
「んーいやサポートだった」
「え詳しくねぇ?コアやなぁ…。
 多分な。こんベース、ちょーやんちゃで有名なやつじゃなか?高校ん頃、あい?こいつもしやっち思ったんばってん」

 確かにそういえば番張ってた云々かんぬん言ってた気がする。

「…そうかも」
「ハコ行った時、あい?どっかで見覚えあっけんなっち思ったから覚えとう。高校生にしちゃ上手いんよな。多分同い年くらいのバンドやろ?」
「うん、絶賛同い年」
「なんだっけなぁ…名前が出てこない」
「通称でんにじ。エレクトリック・レインボー」
「ださっ」
「な。だっせぇよな」
「ベースが確か…凄い文豪みたいな名前の」
「|文杜《ふみと》…|栗村《くりむら》!」
「あ、栗村!
 そそ。なんか有名な族の鉄砲玉なんよ」
「えぇぇぇぇ!」

 そうだったのぉぉぉ!?あれがぁ!?

「俺もライブハウスで観たときビビったわ。え、あん人こんなん出来たのって。そしてロックを感じたね」
「そりゃ確かに…」
「昴、こんなん聴くんか。コアやなぁ、して、んな地元愛あったか?」
「いやいやいやいや」

 知らんかったばい。
 インディーズ時代だろうなそれ。

 マジか奴ら。てか太一なぜヤンキー事情を知っている。お前わりとまともなところに行ったよな。

「太一、わりとまともなとこ行ったよな確か」
「んー、まぁ」
「グレたの?」
「んー」

 マジか。
 ちょっと久しぶりに出会って薄々そんな気はしたけどマジか。

「いやだから、昴は?」
「うん、そうね、グレた」
「んなんはよかったい、よか子は?」
「そう、この子」
「はぁ?」

 最大限の嘘を話してるうちに考え付いていた。

「いやボクぅ、この子とぉ、付き合っててぇ」
「栗村と?」
「違わいぃ!何故そうなった!」
「え俺が聞きたいよ。俺は今衝撃がたくさんあってどうしようという混乱に立ち向かっとるよ」
「あ、ですよね腑に落ちないけど。太一言語が標準語じみてるもんおかしいね。
 ボーカル。今家にいる」
「はぁ!?」

 そして俺はその他は修飾なしで今週の話題を洗いざらい話した。

 太一は聞き終わると大爆笑。からの、「おめぇ、ボンクラにも、ほ、ほどっちゅーもんがっ…」と爆笑混じりになじられた。

 わかってますが、本家に帰る、親戚に会うとはこーゆーことです。

「ばってんそい、ジゴロやん」
「かもね」
「アホ〜、ばってんまぁ、にしゃげなわ。かっこよかわ。昴げな。なんかちゃかったわ」
「…褒めてる?それ」
「当たり前だわ。
 長くにしゃっちおったからな。にしゃん小さか頃やけど、まぁしっとーつもりばい。素直に優しかんだにしゃは。なかなかわかっちもらえなくても、根気強くやっちくんばいにしゃっちしゃ」
「…まぁ、はい」
「頑張れファイトだ」

 そう言ってくれるところが太一のいいところ。

「ありがと…。
 なぁ、そういやぁ…幸一は…」

 聞いていいのかわからなかったが、この際だから聞いておこうと思った。
 太一は「あぁ…」と俯いて、けど少し優しい兄の顔をしていた。

「あいつはまだ、覚悟のなか。
 やっぱまだな、許せやないちゃうだ、ばあちゃんば」
「あぁ…」
「俺も知らんたい、にしゃは特に知らんたい。あいつは末っ子だからな、やっぱ、ちゃり酷かったみたいだ」

 何が、とは俺には語らないが、わかる。
 とにかく俺はそんな太一に、何を言っていいかわからないが、考えて、「すまないな」としか言えなかった。

 本当は、俺が言ってはならない気もするけど、どうしたらいいかわからない、こんなとき、何て言えばいいかすら。

「なぁに、昴の謝るこつじゃなかちゃ。
 だから、決着ば着けてこちゃう。俺、こうゆうん抜きにして、にしゃっちはまた会いたい。
 …本当は幸一にな、今日はやめっちけっち言われた。
 だから内緒にしてあっけん、実はな。
 そいだけん事ばするからにな、弟に胸ば張っち笑い話にしたばいい。そいぎ幸一っちもまた会っちくれんけんか?話すから、俺が」
「…太一、ごめん」

 今度こそはっきりと言っていいと思ったが、「ボンクラ!」と怒られた。

「だからにしゃんせいじゃなかっちぃ!」
「うぅ…」

 眼鏡が霞む。そして外して涙を拭った。

 ダメだって、この歳の良い話系は。
 「あぁぁぁ…」と太一が動揺する横でしばらく泣いていた。BGMはでんにじで、風景は地元。なんて排他的な日常なんだか。

 俺ってこんな風に生きてんのね、普通にただ、ただ。

 つまらない一介の印刷会社勤務だけど、悪くもなくよくもない人生で、俺ってそれでも一人じゃなく生きてんだなと、こんな時の地元は刺さる。

 嫌になるけど捨てられない、嫌いじゃないけど好きになれない、そんな場所なんだ。

 受け入れられてるわけじゃないが拒否られてるわけでもない。

 あいつらもこんな心境なのかもね、もしかすると。
 やはり巡らせる思いは近い本家なんかより、遠い場所に今位置的にはいる友人であるのも、排他的な気がしてならない。

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