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誰もなにも答えない。
まぁいい。
「家督を継ぐのはまぁ、ババアが長男家に嫁いできているからで納得がいく。しかし、これは乱用じゃないか。
別に継いでもいいが俺で子孫は途絶える。また誰かがいずれこの借金を次ぐぞ?」
「…なぜ」
「だって俺同性愛者だもーん。バーカ。籍入れられねぇから海外かなぁ…?」
太一に話を振ると本格的に笑い始めた。
そして一言、「にしゃぁ、なるほどなぁ」と言った。漸く策略と嘘に気付いてくれたらしい。
「…んな訳ですので、現在家督があるサチ子の第一子の息子として一言言わせて貰うと、こいつに家督を継ぐのはムリだ。
それでもまぁ今となっては俺は他人だし、でもあんたらはこちらに押し付けたい。良いだろう。なら全てを継いでやる、ただし俺がな。その代わり借金だけでなく土地や財産全てを、弁護士を通して正式に継ごうか。というかまず借金があるなら全ての土地、売っ払わなきゃな」
「それは困る」
「仕方ないよな、借金なんだ。まずは土地からだろ」
「ふざけるな」
「は?」
太一が立ち上がろうとしたのを見計らい、制するフリをして手を掴み、それをバネに俺は立ち上がって酒を片手に一杯煽り、陶器を足元に捨てた。
割れはしなかった。蹴ってヨシに返す。
「どっちがふざけてんだ貴様らコラぁ。大体誰の許可あって物言ってんだ?サチ子の金勝手に使いやがって何様だ貴様らオイ!」
酒瓶も蹴っ飛ばした。中身が出る。
「さっきから聞いてりゃぁなんだオイ、てめぇら自覚ねぇのかバカ共。犯罪ですよ?人のお金くすねるの、犯罪ですよ?
そのうちもし俺が家督継いで遺産相続の話になったら勿論全員分の預金通帳調べ上げて口座ストップになりますぅ、悪しからずぅ。
嫌ならこの話は、ババアがボケていたで済ませた方がいいですよ。我々の要求はひとつ。絶縁です。どうです?穏便ですねぇ。あ、ボケてるし今から生命保険掛けまくって太一、殺しに行くかあのババア」
「あいよー。うまいことお前名義で保険金の受取人は行けそうだな、面倒見てるし唯一の三等親だからな」
「さぁ果たしていくらになるかね」
「軽く5000万くらいのにしとこう、怪しまれる」
「にしゃらぁ、正気で言っとんか」
二人ハモって「あたりまえじゃぁクソジジイ!」と反論。太一は陶器をジジイの真後ろにぶん投げてから立ち上がった。
「あーイライラ限界」
「昴、やってよし」
「ええな、もうええな」
酒瓶拾ってタバコを取りだし、火を付けた。
「貴様ら遺産遺産てなぁ、大体ババア生きとるし、面倒も見たことねえクセに調子こいたこと言ってんじゃねぇよ!大体意味わかんねぇ、てめえの借金くらいてめえで返せぇぇ!ジゴロのがマシじゃぁぁ!」
それからの我々はと言いますと。
何をどうしたかぶっちゃけ覚えていませんが、取り敢えず一升瓶は粉々に。陶器はわかりません。
恐らく襖の障子が全て穴ボコに成り下がっていたのは覚えています。最初に蹴っ飛ばしたり拳で穴開けて波動拳とか言って遊び始めたのは太一でしたから。どっか行って帰って来た何とか教室のガキもこの時は参戦してくれましたよ。
それからは最早敷地を追い出されました。
なにも語りませんでしたが恐らくこれが『絶縁』なのでしょう。去り際荒れた盆栽やらを見て痛く満足致しました。
名前を唯一知った『ヨシ』に、桜田門を閉められた瞬間、少しの賢者タイムと疲れと、なにより太一と顔を見合わせ、「やっちまったなぁ」感が堪らなく愉快で、どちらからともなく笑い合った。
「昴、」
「あい、あい」
だがひとしきり笑ったあと、太一は直角に頭を下げて一言、「すまなかったな」と、標準語訛りで言った。
「…な、」
「…腹いせやったにせんね、巻き込んで、悪かった」
「なに言ってんだよ」
俺はそんな太一に、何を言ってやろうかわからなくなってしまったが。
両肩をがっつり掴んで告げる。
「|宇都宮《うつのみや》のライブハウスで『|水戸《みと》納豆!』ってブチキレて納豆ぶん投げてライブ頓挫した清志郎って、よく意味わかんないなぁと思ったけど、今漸くわかった」
「え?」
漸く太一が顔を上げた。俺はタバコをポケットからだし、火をつける。
「清志郎、多分水戸と宇都宮間違えたんだろって、でもそれもカッコいいよな」
「…昴?」
「よくいたずらしたよなぁ、太一」
「にしゃぁ、ホンマにどげんした?」
「同じだったんだって、勝手ながら、俺いまお前に思ってな。
どこの誰かはっきりしない俺に頭を下げるお前も、あぁして存在が、どこの誰だかわかるのに、あぁなるお前も、俺、結局よくわかんなかったんだって…。
今もわかってねぇなってさ。遺産、わかってねぇよなんだよみかんババア。
最初から溺愛ばかりされたってこうなる、溺愛されなくてもこうなる。俺たちよくわかんねぇよな。わかってねぇのは、わかってくれねぇのは、蚊帳の外の人間。
噂の音漏れだけを聞いたやつも、結局ぶん投げた本人もだ」
「昴、にしゃいうやつぁ…」
視界が霞む。
それから体温が、移り行く気がして。それはつまり、力強い勢い余った抱擁だった。
「お互い様やね」
「太一ぃ…」
「ええ、ええ。あとはもうええ。帰ろう」
情けないが泣けてしまった。
太一が軽トラに俺を誘う。
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