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 5曲終わってライトが戻る。ジーマを飲み干し、それを見守るげんちゃん。

 多分これ、MCだ。

 手首を回しながらげんちゃんとあまちゃんが目を合わせれば、げんちゃんにやっとして。

「いや、歌詞変えすぎっしょあまちゃん」

 客席が沸いた。
 やっぱりそうか。

「え?」
「なに胃癌って」
「バレた?」
「流石にバレてる。
 みなさんこんばんわ。改めまして、エレクトリック・レインボーです。
 遅くなりましたが、俺、正式メンバーになりました!」

 よっ!と拍手が出る。
 他三人も小さく拍手。

「あ、あのね、知らない人はね、すみません。俺密かに馴染んでますが、サポートだったんです、はい」
「昨日ウチの狂犬がげんちゃんの親玉をぶっ飛ば」
「あまちゃん、喋っちゃダメです。
 これからもでんにじ正式メンバーとして、ギター、|奥田《おくだ》|弦次《げんじ》をよろしくお願いしまーす」

 手を合わせたげんちゃん。

「あれ昔からあの人だけやってんすよねー」
「え、そうなの?」

 北谷が言う。

「エッレの奴らはさっさと帰っちゃうけど、あの人だけはファンサいいよねって話題だったのよ当時」
「へぇー」

 そうだったのか。
 またげんちゃん株が俺の中で上がった。ちょっとぶっ飛ばした件は気になったけど。

「じゃ、やる?」

 ちらっとげんちゃん、メンバー見合わせる。わりとみんな無言である。

 ぱっと、あまちゃんがふみとくんを見つめれば、手元を動かし、煽るように。

「じゃ、やりまーす」

 とあまちゃんが言えば、一度止まり、ふみとくん、今度は本格的な入りを見せる。

 出た。英語かなんかわからんやつ。確かふみとくんのために作ったやつ。

 いやぁしかし綺麗だなぁ、ベースやら。
あ、サイドギターもいいね。しかしやっぱ主張はベース。着いていけるように繋ぎとなる軸のメインレスポールだってなかなかなテクだ。

ーーー
「外が寒ぃから俺がいるんじゃない?
君が疲れてぇもタバコがあるからーぁ
失っていいそんなもんはいい
凭れ掛かりたい壁 落書きしたくない壁
そんな存在でぇ いい、」
ーーー

 綺麗なファルセットとダルいような力の抜けた唄い方や、なによりそうか。
 歌詞に凄く納得した。君らって、そっか。
 色々を思い出したら泣きそうになってきた。そうか真樹。ふみとくん。

ーーー
「さぁ、それもぜんぶぅ
錆び付いた 感情 綴じ込んで
ゆぅらり ひぃらり 秘めるよにぃ
新しくぅ さっき帯びぃたままでぇ
悲しいほどに夢を描い、てぇ」
ーーー

 ダメだぁ。
 切な気に俯いて唄われてしまったら歌詞が頭を掠めちゃってぇ。
 君の色々思い返しちゃってぇ。

 これ、ライブで言うセツナゾーンだよね。みんな横揺れになるやつ。俺だけ目頭抑えるやつ。

 と思いきや。

 なんかそっから曲調変わって。
 てか。

 ライブ定番ゾーンに入ってきました。
 空落っこっちゃうやつとか急に来ました。
 俺のテンションが凄く最早。

「ひ…いやぇへぇあ!あ?」

 ワケわかんない|双極性障害《そうきょくせいしょうがい》じみたことになりました。テンションは退廃しません。マジックみたいですよホント。せーの、ぽん、みたいな。けど身体って着いていかないよ。

 なのに急に静かな曲で「殺してくれぇ」とか唱っちゃうあたり君。置いていかれた子供ってぇより置いていかれた昴。

 しかし再びのMC?だかわからないけど突然天崎氏、「エレクトリッ、レイッショー!」と言えばドラムが盛り上げ、愉快な感じのメインギターとサイドがかっけぇ。ベースもあぁ、最早ウッドベースみたいなルート弾き。腕痛くないのかなぁ。

 声がCaraさんバリによくわかんない発音。取り敢えず「いーのセブンでぇ」だけわかった。けど凄くノリがいいー、好きー!へぇい、へぇい!

 しかし綺麗にドラムで終わって二本目ジーマを飲んでげんちゃんと頷き。

「この、きゃ…この曲、なんれすけどぉ、あん、げんちゃんが、書いたんすよ、あい」

 あまちゃんはそれだけ噛み噛みに言ってげんちゃんに助けを求めるように見つめた。げんちゃんはにやっとして、

「はい、あのー正式メンバーになった記念で。はい。今更ですけど。何曲かまぁ、手伝ってたり編曲ってのはあったんですけど。まぁ、あの…。
 歌えば?って今回言われたんですが、まぁ、コーラスやって皆さん、わかると思うんすけど、
初めてでんにじに会って音合わせした時…覚えてるあんたら」
「覚えてるよ」

 ナトリくんとふみとくん、うんうんと頷いてる。

「あの、ニルヴァーナのやつね。あのときさぁ、文杜さん、あんた、俺に歌下手でしょって言ったの覚えてる?」

 えっ。そうなの?
 客席ざわざわ。ふみとくん、口元押さえて笑ってうんうん。マイクないけど多分、「あ言った言った」とか言ってるっぽいのが見える。

「だから、てかでんにじにはやっぱあまちゃんのこんな歌、歌って欲しいなとか色々考えて俺書いてきました。歌詞気になったらロビーでCD買ってください」

 メンバーそこで爆笑し始めた。国木田なんか間違えて一発叩いちゃってみんなピクッとなってしまっていた。

「じゃ唄いまーふっ、はい、」

 始まる、げんちゃんのサイドリフ。

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