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 昴が叫んだのち、ふと、

「昴くん、真樹をよろしくお願いしますね」

 そう文杜に言われた瞬間。

「ぶっ殺すぞ新柴ぁあ!」

 まるで飛びかかるようにナトリを払いのけて向かった文杜と。

「くそっ…、」

 悔しそうにテーブルをぶん殴り、まずはサイトウに駆け寄ったナトリと。

「…なんも出来ねぇよ、俺だって、」

 泣きそうに見守ることしか出来ないでいる弦次を見て昴は。

「…君、は…。
 あいつらに、ちゃんと、言葉を、一番伝えてきた君は、言葉を、言って、あげて。
 俺、出来ねぇのに、真樹、頼まれちゃったよぅ…!」

 泣きながら言う昴を見て弦次は。

「昴くん…、
 確かに、あんたが行って。じゃないと俺ら、解散しちゃう。ダメだ、あんたじゃなきゃ」
「げんちゃん…、」
「ファンだからこそ、…家族的な、友達みたいな存在だから、言わなきゃいけないこと、あるんだ、多分。
 俺は、帰って来た全員をぶっ飛ばす係やるからさ」

 ホントこいつは。

「良いヤツ!」

 行こうと決めて。

「真樹ぃ!」

 走るように。

「文杜くん!ダメー!俺に一発殴らせろそいつ!」
「は?」

 廊下で。
 硬直してしまった真樹。馬乗りになって多分二発くらい殴ってしまっただろう文杜、唖然として手を止め、昴の方へ振り向いた瞬間、

「危ない!」

 新柴、文杜の胸ぐらを掴もうとするのが見え、昴が叫ぶが、その声に硬直を解いた真樹が「うやぁ!」と、抱きつくように文杜へダイブした。

「痛っ、」

 咄嗟だったのだろう、真樹を抱えようとしたが失敗し、押し倒され、左手に重心を掛け捻った様子。二人で倒れ込んでいた。

「はっ、」

 それを見た昴は。

「はぁぁ〜、」

 力が抜けてしまった。
 だが。

「うっ…ふっ、」

 真樹の泣き声が聞こえて。

「ごめんなさいすみません、もう、もう辞める、辞めるから、みんな、ごめんなさいぃ…」

 それを聞いた文杜が側で、

「なに言ってんだよ、真樹、」

 と、低く良く通る声で言う。

「だって、もうやだ!なにこっ、これ!どうして?俺、ただ、ただ、みんなと、生きたかった、それだけじゃん!」

 あぁ、そうか。

「…誰も…。
 誰も、真樹は、あまちゃんはあんなに声を、発していたのにね。
 でも、真樹だって、受け止めてないじゃん」

 ふと昴が発した。
 本音だった。

「新柴さん、あんた、一個ずっと聞いてやりたかったんすけど。
 あんた楽しいかこれ。楽しいなら何が楽しいんだこれ。なぁ。人の人生ナメやがって。
 人を愛せないやつに、こいつの唄なんて、わかるかっ!こいつらの努力がわかるかってーの!金じゃねぇ、音楽って金じゃねぇよ、違うかでんにじ、エレクトリック・レインボー!」

 各々が昴に閉口した。
 そんなときだった。

「はーい、遅くなりやしたー。
 金持ち最高、ハッピー病欠ライフ参上」

 現れた。
 なんか明らかなる書類だの、金とか入ってそうな封筒を持ってダルそうに、禁煙な廊下でタバコをくわえながら片耳ピアスが。

「あっ」
「げっ」
「最悪っ」

 でんにじ3人、揃って歓迎。

「おー久しぶりだなクソガキ共。相変わらず俺の仕事を三重にしやがってクソが。全員まとめて頭CTスキャンすっぞバカ共。
 あ、眼鏡くん。君の親戚と彼女、なかなかおもろかったわ。一杯飲んだらゲロ出るくらいテンション上がっちゃった。おかげでほれほれ、金下ろしすぎたわそこのV系野郎、金に困ってんならやるよ300な」

 書類を、ぶっ倒れている新柴の腹の上に投げて寄越す|一之江《いちのえ》。

 「いやあんたが言う!?」という文杜のツッコミを無視し、一之江はサイトウの元へ行き目の前でヤンキー座りをしてしゃがみこみ、顔を見つめた。

「どーしたよっちゃん、随分負け犬面してんなお前」
「…陽介…。
 遅くないか、君、」

 どうやらサイトウは落ち着いたらしい。

 「ほれ」と、一之江はサイトウになにやら薬を渡し、サイトウの側にいたナトリに、「国木田、お前水持ってこい2人分」と命じた。
 すぐさま弦次が楽屋の自販機で2本水を買い、一之江に渡す。

 「サンキュー。はい、一本はお前〜」とサイトウに渡せば、サイトウは不服そうにもらった薬と水を飲み、その状態でちらっと、札束の入った封筒を確認した。

「ありがとうクソ野郎」
「おうよバカ野郎。
 さてさて、えっと、」
「新柴司」
「あらしま?くん。
 いいかいここに300ある。これで手を打たないか。
 俺がこのガキ共を買い取る。足りねぇならいくらでも出すがこいつらのその程度の捻り潰せる情報じゃぁ、これが妥当だと踏んだがどうだ?」

 振り返りながら封筒を新柴に見せびらかすように言う一之江の口元はいやらしくにやけていた。

「は?」
「あちなみにそれ読んだか寝転がってる間に。
 クリーンな金持ち様がクリーンな方法でお宅を調べた結果報告だ。労働基準やらまぁ…未成年者の不純な、ここじゃ言えないような行為とか?
 ま、ウチのクソガキなら昔からあるから別に今更なんとも多分、本人も思ってねぇが、流石に他のは、メディアにバレたらヤバイんじゃねぇの?あらしまくん。
 そいつのそれは自傷癖だ。最早精神科医でもお手上げだから今更いーけど、自分を愛せねぇのは俺も一緒だ。だからいーよ?俺の金ぜーんぶてめえにやっちゃってもね。わかる?
 そんくらい、もう胃から血ぃ出るレベル4で頭来るからてめえ、300で失せてくれるとありがてぇけど。わざわざてめえの後ろ黒いやーさん事情とかリーク先考えると俺今吐いちゃうかもな」

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