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夏の前の日差し。夕方近く、日が延びてきたのを感じる。
真樹は一之江の見舞いを終えたあと、久しぶりにギターを出した。これを持って学校に行き、そこから西東のスタジオに寄ることになった、さっき。
久しぶり、なわりに案外ケースやらに埃が被っていないのは、実はたまにこっそりやっていたりするからだ。ナトリも文杜も知らないけど。そんでもって一緒に住んでいた一之江すら実は知らないが。
普段、昼間は一之江と共に保健室にいた。
一之江は定時制の真樹を、二人と卒業させると豪語した為、高校3年間の授業を4年でこなすと言う定時制の微妙なギャップを埋めるために、真樹に勉強を教えているのだ。
ぶっちゃけ一之江は、2年時に真樹を定時制から編入させるつもりでいる。いまの調子ならそれも不可能ではない。
そこから先は3人で、3年生で卒業出来るか(素行やらなんやら)はまた別問題だが。
そしてナトリと文杜は、各々バイトをしている。
ナトリは居酒屋のホール、文杜はスタジオの貸し出し。わりとどちらもぎっちりと働いているため、二人は学校が終わればすぐにバイトだ。
真樹としては、定時制まで時間が少し余る。
非常勤講師の一之江は、病院の経営等もあるしここで大体帰宅する手順である。
もっとも、こんな風にカウンセリング的な生徒を持った場合、彼はどうやら保険室に残る傾向にあるらしいが、どうも最近真樹は、「眠いから一回帰る」と帰宅してしまう日がある。
「ここの使えば?」
「いいよ。早くびょーいん行けば?」
と言って。
一之江的にはなんだかそれを寂しく感じていたのだが、「あぁ、そう」と言って保健室を閉めるのだ。
そしてそのまま病院へ直行する。
実はギター練習はこの微妙な時間にしていたのだ。
真樹には、お気に入りの場所があった。
引きこもりのクセに、中学時代、家でギターが練習出来なかった。
だから公園で練習をするのだ、なんとなく。
しかしこれにも条件があり、わりと広い、人通りのない公園、これが条件で。
幸い学校と一之江宅の間くらいにその公園はあった。
夕方の微妙な時間。寒くなってくるような時間に、木々がたくさんあって、音を吸収してくれる。
最近はそこで一人、練習していた。
ぼんやりと、家にギターを取りに行ってから公園に少し寄ってみた。いつも座るベンチに座り、ふぅ、と一息吐いて。
お気に入りの理由が一つあって。
とん、と隣に少し感じたしなやかな振動。小さく鳴った鈴か何かの音。チラッと見れば、やっぱり。細くて古びた小さい鈴をつけた、茶色というかオレンジ色というか、最早何色だかわからなくなってしまったようなトラ模様のネコがいて。
今日はギターを膝に置いてないせいか、そろっと真樹の膝の上に座った。
真樹はそれを、ただ黙ってゆったり撫でる。動物、地味に好きなのだ。然り気無く動物特番、観ちゃうタイプなのだ。
地味に重いなぁ、こいつ。飼い猫じゃないかもしれないのはなんとなく、こう何週間か来てみて察していた。多分捨てネコだ。
逃げてきたのかなぁ。いずれにしても意外と痩せてる。けど温かいなぁ。
喉はわからない。首輪があるから。しかしなんとなく、ぐるぐるといった気がする。気持ちいいのかなぁ、あぁ、俺も眠いかも。
ぼんやりしていたら少し寝てしまったようだ。夏前の微妙な陽気に。
はっと起きたとき。
目の前に知らない、髪の長い女子高生がしゃがんでカメラをぶら下げていた。
ハリネズミになるかというくらい背中がぞくっとして、真樹は硬直した。
猫も、何かを察したのか、起きてどこかに行ってしまった。
「…あっ、」
動悸。こんな時こそ。
一気に真樹は覚醒した。
「あ、ごめんなさい」
「…へ?」
誰だお前。
なんだお前。
この、灰色のブレザーと赤いネクタイ、見覚えがあるような、ないような。
多分近くの女子高だ。
「いや、ごめんなさい。あまりになんか、絵になる風景だったので」
「え、え、」
しかもなんか。
めちゃめちゃ美人やんけ。
泣き黒子とか、笑った顔とかなんやねん。
だけどなんやこいつ、非常に怖いんやけど。
だって待て考えいや。
普通寝ている野郎の顔ば、こう、なん?しゃがんで覗かんよな、こんな誰もいねぇ公園で、カメラ持って。
しかも。
パンツ、チラ見えやんけ。薄水色て。
「あのぅ!」
「あ、すみません。
大丈夫、撮ってませんよ?貴方は、音楽をやってるんですか?」
「はい!え?」
「あー、じゃぁ貴方もしかして、最近ここ、来てません?」
「え?え?はい、まぁ」
「やっぱり!やっとお目見え出来ました!
いつか会いたいなぁって、思ってたんです。音が微かに聴こえる度に」
なんだとぅ!
このクッソ下手なボロックソ俺の演奏、聴かれてたの!?やべぇ、わかってたけど!
「ま、マジ?」
「マジです。会えたのも何かの縁ですね!
私、|白雪女学院《しらゆきじょがくいん》の2年、|阿久津《あくつ》|美空《みそら》です。写真部なんです!」
「え、あぁ、はぁ…」
「また来ます!では!」
そう言って彼女は去ってしまった。
「なんだ、あれ…」
変なやつ。
唖然。
真樹が唖然としてるなか、ポケットでケータイが鳴った。そのまま取り出して確認すれば、“西東”の文字。
「あ、やべ」
完璧に忘れていた。
だらだらと仕方なく、“寝過ごしました。放課後家によります”とメールを打って学校に向かった。
これは行ったら西東に怒られる。なんなら今から行こうかな。そうしよう。
真樹は閉じたケータイを開け、西東に電話した。その旨を伝えると、「いいから学校に行きなさい、どこ行ってたの。陽介に君が学校をサボったのバレたら、僕が殺されるでしょ!」と言われてしまった。
仕方ないなぁ、と立ち上がり、学校に向かった。
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