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 そして。

「君たちわりとセンスが大根だね」

 西東のスタジオ(一之江マンションから車で10分ほど、まぁまぁ高校からでも行ける距離)にメンバーごっそり全員で行き、西東が真樹のギターを何故か所持していたため、ドラムセットを借りるのみであっさりスタートした。

 一曲なんでもいいからやれ、という西東の要請に、半ば三人とも不貞腐れた状態で演奏したのだけどそしたら、その一言だった。

 なんだ大根って。
 よくわからん。しかしわかっている。どう頑張っても悪口だ。
 なんせ、久しぶりすぎて全員まごついてバラバラだった。

「大根て」
「よくわからん例えだけど反論が出来ねぇ」
「つか思うにハゲどうして最初叩いた」
「ごめんマジミスったわ」
「うんいいけど。俺なんでズレた」
「それな。俺が早かったな」
「いや傷の舐め合いとかいいんで。やる気あるか君たち」
「多分」
「わりかし」
「ない」
「だよねぇ。辞める?」

 笑顔で言う西東が怖い。

 座って見ていた西東、ポケットからマルボロのソフトパックを出し、一本ひょいッと取り出して火をつけ煙を吐く。

 次に3人を見る目に、スパルタの鬼教官のような底冷えするものを感じた。

 灰皿がないか確認。ない。
 てゆうか、灰皿ないじゃないか。

「まぁやりたくないならやらなくていいけどね。僕もやる気ない大人代表だし面倒だし。
 別にさぁ、上手くなれだとか、んなことも言わないしぃ?辞めちゃえば?なんでやろうと思ったの、思ってんの?よくわかんないんだけど、ねえ」

 全員総出で閉口した。
 確かにボロックソ、というかそれ以下である。
 何せ合っていない。ていうか合うって、なんだっけ。

「仮にも一回くらいは合わせられたんと違うの?ん?
 あまちゃんお前どうした。何故僕とやったの出来ないの?
 栗村くんだっけ、君、課題出したよね。てゆうかこっそり僕んとこ来てやってたとき出来てたのなんでズレてんの?お前仮にもリズム担当。
 国木田くん君、軸がなってない。ちゃんと聴いてこいってCD渡したよね。ドラムもリズムだよ君がブレたら不安定二人、誰が引っぱんだよ。
 以上を持ちましてでんにじ解散しますか?さぁ君たちには何が足りませんか?
はい一言で行きましょうか自己ですよ」

 一息で言われてしまい、最早誰も口を挟む余裕すらなかった。タバコの灰も落ちる。と言うか怖い。

 あのふざけた西東、どこへ行った。というかそれぞれ、そうだったのかと思い知る。

「そして自己がないから相手を知らない。
あまちゃんも国木田くんも栗村くんがこっそり僕んとこ来てたの知らないでしょ。国木田くんも栗村くんもあまちゃんがそこに拘ってたの知らないでしょ?あまちゃんも栗村くんも僕が国木田くんにCD貸したの知らないでしょ?」

 誰も何も答えなかった。

「興味ないだぁ?まぁね、わかるよそれは。
 例えば僕なら、陽介の新薬開発とか死ぬほど興味ねぇし。けどねぇ、結局近くに住んで、出された薬飲んで、血液提供だってたまにして、たまに二人で忘れた頃に病院デートして、あそこに泊めてる患者のキャバ嬢の世話したり、誰かの引っ越しの手伝いしたり、たまに様子見たりしてやってきて。
 わかってる、僕じゃなくたって別にいい。あいつじゃなくたって別にいい。あいつなんて僕を知らない。あいつ、なんだかんだ優秀だ、僕なんかただの知り合いだ、だけどねぇ、だからねぇ…!」
「わかった、ごめんなさい」

 素直に真樹が謝り、少しヒートアップしてきた西東に歩み寄り屈んで西東の肩を掴み、西東の我を戻そうと試みた。

「わかりました。すみません」
「あぁ?何がわかったんだよ、このクソガキ」
「クソガキですクソガキです。すみません、ナメてました。
 俺は、その、上手く、言えない…。けど、わかりました」
「だからなんだって」
「それ以上真樹にだけ言うのはおかしい」

 ナトリが後ろから声を掛ける。

「…あんたの言う通り、自分がどうしたいか、俺たち誰も考えてないから」
「でもあんたほど、立派になれてないんだ。だからこうして来てるんだよ。だから真樹を苛めないでよ。
 真樹、いいよ。庇わないで。お前も俺たちも欠点は教えてもらった。
 だけどまぁ、俺、このままだとあんたのこと嫌いなる。素直に。うぜえ。だからいいよ、あんたの下で、上手くなってやるよワールドオブクソ野郎っ」

 そう文杜が睨みもせず、真っ直ぐに西東を見つめて言い返した。

「来い、真樹」と、ナトリが言う。しかし真樹は動けずにいる。それに西東は、

「君は仲間がいる。僕ではないじゃないか。
 僕だってちゃんと、悪友がいるんです」

 真樹にだけ聞こえるように言い、笑ってくれるのが少し寂しい気がしてしまった真樹は、躊躇いがちに西東と目を合わせれば、西東が合図するかのように後ろの二人を眺めた。

 漸く真樹は硬直を解いてゆったりと立ち上がり、二人の元へ歩こうとすれば、真ん中位で焦れったくなってしまったナトリが駆け寄るように、抱擁。

「辞めてもいい」

 そう耳元で聞こえたナトリの声が悲しくて。

「嫌だ」
「…じゃぁやろう。
 俺は、その…。
 お前をすっ飛ばしたことがあったな窓から。あの時のこと、忘れられない。あれがなかったら、あの時お前が俺に声を掛けなかったら、いま俺たちはないじゃんか」

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