2
家に帰ると、分かってはいたがやはり誰もいなかった。何故だか妙にスッキリとしたような広さを感じた。
6年前の今日、俺の姉貴である赤塚瑠璃は失踪してしまった。
瑠璃を変えたのはあの交通事故だ。瑠璃がピアノコンクールの会場に向かっているとき、車が信号無視で突っ込んできて頭を強打し、右の脳を損傷。左の指を動かすという細かい動作と視力を永遠に失ったのだ。
もう二度とピアノが弾けないと言われてからも瑠璃は、腕を布で吊っていた。だが、それも一週間の足掻きだった。
退院したその足でピアノ教室に向かい、そのままピアノを捨てた。
それから半年後、瑠璃は行方をくらました。半年間毎日手首を切った末の失踪だった。
『母さん、あたしね、もう死んじゃったの』
瑠璃の最後の言葉を思い出す。
『いままで、ピアノに縛り付けた母さんを、憎いと思うの』
瑠璃には、ピアノしかなかったんだと思う。
母は今きっと、6年経ってしまった今日を法律により実感し、死亡届を出しに行ってるんだ。
瑠璃はピアノを愛していた。むしろ、瑠璃は現実にいなかった。
どこか空虚なのも、決して無気力だったのだとか、そういうわけじゃないだろう。俺はずっとそういう解釈をしている。
もう、瑠璃は見つからないのだ。窓の外で降り続く灰色の雨を眺め、しみじみとそう思った。
- 4 -
*前次#
ページ: