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家に帰ると、分かってはいたがやはり誰もいなかった。何故だか妙にスッキリとしたような広さを感じた。

6年前の今日、俺の姉貴である赤塚瑠璃は失踪してしまった。

瑠璃を変えたのはあの交通事故だ。瑠璃がピアノコンクールの会場に向かっているとき、車が信号無視で突っ込んできて頭を強打し、右の脳を損傷。左の指を動かすという細かい動作と視力を永遠に失ったのだ。

もう二度とピアノが弾けないと言われてからも瑠璃は、腕を布で吊っていた。だが、それも一週間の足掻きだった。

退院したその足でピアノ教室に向かい、そのままピアノを捨てた。

それから半年後、瑠璃は行方をくらました。半年間毎日手首を切った末の失踪だった。

『母さん、あたしね、もう死んじゃったの』

瑠璃の最後の言葉を思い出す。

『いままで、ピアノに縛り付けた母さんを、憎いと思うの』

瑠璃には、ピアノしかなかったんだと思う。

母は今きっと、6年経ってしまった今日を法律により実感し、死亡届を出しに行ってるんだ。

瑠璃はピアノを愛していた。むしろ、瑠璃は現実にいなかった。

どこか空虚なのも、決して無気力だったのだとか、そういうわけじゃないだろう。俺はずっとそういう解釈をしている。

もう、瑠璃は見つからないのだ。窓の外で降り続く灰色の雨を眺め、しみじみとそう思った。

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