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「うわぁ、酷い」
「思ってないだろ」
「テレパシーですか、嫌ですねぇ」
「まぁ明日でも今日でもいいや、多分星河隊のデータは出てこねぇかもな。
 本気で食えねえ野郎で協力的なら、却って手間は省けるだろうが、最終的な真相は靄に投入されそうだな」
「つまり?」
「予想では、今回の黒幕は星川匠だ。ヤツの出世のために仕組まれたシナリオかもしれんということだ。
 星河隊と言うのは多分だが、ヤツが昔仕切ってた関東の陸軍なんだよ」
「なるほどね」
「んで?赤十字が来てんだろ?
 ヤツは明日俺がここに直談判しにくることを予想しているはずだ。何故このタイミングで、んな支援団体の支援を潰すような真似をするか。そりゃぁここが、ヤツが潰したがっている防衛大臣の息が掛かった軍施設だからだろう」
「一言で言えば、確かに食えない野郎ですね」
「まぁだが…ゴールへは確かに導いてくれたな、ムカつくことに。
 君、案外悪運強ぇな」
「どうでしょうかね」

 あと一歩で艦隊を僕は逃した。
 今回はどうだろう。

「さてどうする。多分俺の予想は外れてないよ」

 つまりは資料やら諸々は、タイミングによっては消去されてしまっている。

 確かに、誰がいつ現れるかでどの資料が得られるかが見ものだ。恐らくその様子だと、赤十字より星川匠の方が早ければ、自分の資料を消去し、秋津艦隊のデータは取っといてくれるだろうが、星川匠の方が遅ければ、どちらも失うことになるだろう。

 しかし彼は補佐官だ。そこは微妙な駆け引きになる。普通ならそんな状況だと、防衛大臣と赤十字が支援の話を結ぶ前にここに訪れそうなものだ。

 少しの焦りと迷いで判断が遅れたタイミングを見計らったかのように、一斉に廊下の明かりが、煽るようにつく。

 いきなりの光に、目が眩む。目を細め、まわりを見渡してみると、目指していた前方から、「誰だ君たちは」という声が掛かった。

 はっと、彼が出てきたであろう部屋を見てみれば、第三軍用研究室。そうか、バレましたね。

「…行くしかなくなりましたね」
「ですな」
「誰だ、君た」
「すみません、迷ってしまったのですが、貴方方はこちらの施設の方ですか?」

 ここは一番胡散臭く無さそうな僕が行きますよ、樹実さん。そう目で訴え、一歩前に出た。

「はぁ、そうですが…貴方は…?」
「日本赤十字社のあた…雨宮《あめみや》と申します。すみません、資料室を探していたのですがどちらでしょうか」
「いや、あのー…木崎准将はどうされたんですか」
「あー、なんか貧血みたいでして、萱島《かやしま》さん、運んであげて」
「いや、その人なんでタバ…てか、なんで銃をお持ちなんですか」

 閉まっとけよアホ。

「護身用です。ほら、僕も持ってます」

 と言ってジーパンのポケットから出ていた拳銃を見せる。我ながらキツい嘘。

「護身用にしてはゴツいですねぇ」

 明らかにどんどん不信な目で見られていく。そりゃそうだ。僕だったらそうする。

 だって赤十字の人は間違いなく海外じゃない限り銃なんて、しかもブローニングのハイパワーなんて持ち歩かないもん。

「てめぇ…よくもやりやがったな」

 後ろから唸るような声ともぞもぞとした音が聞こえる。

「うわ、あぶなっ、」

 ちらっと振り向けば樹実は、どうやら右手を引っ張られてしまい体勢を崩したようで、僕の背中にすがりつく。

「あぶなーいこの人何!?人の親切なんだと思ってんの!?」

 こいつ人としてはわりと最低な分類だが、なかなかいいキャラクターだな。

「ホントですねぇ。大丈夫ですか?怪我は?」
「腕が痛いなぁ脱臼《だっきゅう》したかな」
「それは大変ですねぇ」
「はぁ!?ふざけんなよお前ら」
「…貴方どう思います?」
「いや、え〜…」

 相手困惑。

 まぁ確かにどう見ても、樹実なんて真っ黒ストライプスーツに紺色のシャツに真っ白ネクタイとか、センスがヤクザかよみたいな格好してるし、人のこと心の中で言ってる僕なんてジーパンにカーキ色?よくわかんない色のシャツとかいうラフさだしどう頑張ったってまぁ、赤十字の人間ではない。

 だけど木崎准将だって口悪いしなんか軍服腰に巻いちゃってる系のいい歳こいた金髪軍人なんだしなんかどっちもどっちじゃないか。多分この人素行悪いでしょ。勝手な偏見だけど。

「まぁいいや、こんな素行の悪い軍人はどうでもいいからさ、あんた、資料室案内してよ、ね?」
「いや待てや、お前らなぁ」
「うるさいなぁ慰謝料取るよ?ガチだよ?こっち急いでんだよ」
「ちなみに何故資料室にご用で」

 あ、突っ込まれてしまった。

「献血の資料っす」

 テキトーすぎんだろ。

「あぁ。でしたらそこの研究室にも」

 あぁぁ、ほらー。

「いや、そっちじゃないんだよ」
「は?」
「うーん、君にはわかんないよーな重大な」
「研究責任者なんですが」

 行き場なし。

「やっぱりほら萱島さん、体調優れないんじゃないかな」
「ちなみにここ献血量インチキしてる疑惑出てるけど見てもいいかい、データ」

 よくもまぁこんな嘘がポンポンと…。

「誰かー!侵入者が現れたー!」

 と言い、そいつは一番近くの非常ボタンを押しに走って行った。

 あ、ガチだったのね、そのネタ。

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