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「てかそうだ…」

 僕だって。
 僕はいま殺してしまった学者から、ちょうど良いと思い、白衣を拝借した。

「…これ、血避けにいいですね」

 そう言いながら羽織ってみると、白衣に染み付いた薬品の臭いと鮮血の臭いが鼻についた。少し気を抜けば、吐きそうだ。

「はは、お前もだいぶ胡散臭いな」

 あんたに言われたくないよ。

「しかしこれいいですねぇ。銃もタバコもポケットに入る。便利だ」
「あっそう。てかはい」

 ふと樹実が何かを僕に投げて寄越してきた。動体視力で反射的に受け取ると、手に馴染みのない感触。
 掌サイズのごつごつした、嫌な軽さ。
 よく見てみなくてもわかった。手榴弾だ。

「面倒だから一気に行こうや。使い方わかる?上のピン抜いて後ろにぶん投げたらいーよ」
「あんたってやっぱクズの分類ですよね。
 はーいみなさーん、この人頭おかしいから、死にたくなかったら5秒で避難してくださいねー!」

 手榴弾を高々と敵方に見せながら一応警告。これがわりとよくなかったようで、「うわっ!」と、近くにいた軍人が動揺してタックルをかましてきたが、真っ正面から取り敢えず鳩尾に蹴りを入れた。短い唸り声とぼすっと言う音と共に彼は地面に倒れた。

 どうやらここの軍人は死にたがりが多いらしいな。

 舌打ちをして再び、足元の軍人を蹴飛ばす。「イライラしてんなぁ」と空気も読めないような、楽しそうな口調で樹実は言いやがる。

「お前さ、50m何秒代だった?」
「は?覚えてないですけどわりと僕は文化系ですよ」

 とか言う無駄話を、軍人たちはここまで来れば唖然として見ていた。中には「防御服!」とか「銃をしまえ!」だとか叫ぶような精神のヤツもいたりして。

「あぁ、ぽいね。でも頑張って。それ4秒後に30mくらいだから」
「…最早人間じゃ太刀打ち出来ねぇじゃねぇかこの外道!」

 どちらともなく廊下を走り出した。最早資料室とか言ってる場合ではない。しかしこれ、どこに走ってんだ。

「え、投げないの?」
「当たり前だろ死ぬっつーの!てめぇ公安だよな一応!軍人だけど!」
「うん、公安だよ仮にな。
 大丈夫、|催涙弾《ティアガスグレネード》だ」

 あ、なぁんだ。って。

「緊張を返せ!」
「ははー。じゃぁタバコ吸うわ」
「走れるんですかそれで!」
「無理だな。
 息吸うなよー。つってもあれか、あんた眼鏡だから大丈夫か」
「そーゆー問題じゃない…」

 もうダメだこの人。ムカつくから凄い不意打ちなタイミングで放り投げて驚かしてやろう。

 さてあと10mくらい。流石に敵方も密集してきた。そりゃぁこれ、まさか|催涙《さいるい》だとは思わないだろう。これって彼が作ったんだろうか。

 一度僕が立ち止まると、驚いて樹実も足を止めてしまった。

「10m。左の階段へどうぞ。あそこの扉堅そうなので頑張って柔らかーくしといてください」
「…かっけぇ!チューニ病!」

 素直に呟いて樹実は先に再び走り去った。
 よしよしどうせなら人生初、悪役っぽさやってみようか。

 僕もシニカルに笑い、(出来たかわからない)やっぱり使いにくいのでリボルバーに持ち直して向き直り、手榴弾を再び掲げてみた。

 敵方も一応軍人、足は止めても銃口は向けてくる。誰か一人が発砲してきたのでそれに対応するように返答発砲。誰かの左足に穴が開いたようで「あっ…!」と呻いて踞るが、最早彼を気遣える精神状態の軍人はおらず、皆僕の動作を見逃さないように見詰めていた。

 痛く、シュールレアリズム。
 少し笑いそう。我慢してピンを抜き、後方の誰もいなくなり荒んだ廊下へ放り投げた。

 そして僕も構っていられず振り向いて走る。
 2、1…。
 銃声がした。あぁ、それってやっちゃいけないことなんじゃ…。
 視界がブレる。
 は?

 足に激痛が走った後に、じわりと感覚がなくなっていくのがわかった。
見れば右足に、麻酔弾が刺さっていた。
マジかよ。

 階段を前にして跪く後頭部辺りでカシャッと音がした。振り返れば黒煙の中に佇む軍服の誰かが銃を向けている。多分こいつが撃ってきたな。しかし握っているのは音の感じ的に恐らくは重い感じの銃だ。

「雨っ、」

 扉の向こうから樹実が声を掛けてくる。そして敵を見つめ、「てめぇか…」と樹実は呟いた。

「まだやってんのか茅沼」

 呆れたような、掠れきった声。樹実は一瞬躊躇うように俯いたが、「うるせぇ」と呟き、そいつを撃った。真後ろで、人が倒れる湿った音がする。

 そして樹実は扉から降りてきて僕に手を貸してくれた。そのまま引っ張りあげられるように扉の向こう側へ行き、重い音で地下空間を遮断した。

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