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「今の話の要所を引っ張れば、秋津冬次が言った「そんなことのためにベトナムに行くのか」
つまり秋津冬次は、あの潜水艦に何があったのか、知らなかった。
では何があったか。
秋津冬次は第二次世界大戦経験者だ。無駄に戦争を好まない。海外援助は確かに頻繁に行っていたが秋津艦隊はあの日初めてのベトナム援助だった。
情勢を考えればまぁ、わからなくもない。あそこは今や戦地だ。それを秋津さんはわかっていたんだろう。なぜあの日だけベトナムに行こうとした?秋津さんは。
確かに最近ベトナムの援助が無駄に増えた。しかしながら他の艦隊が行っていた」
「あれは国から要請があった。それを秋津さんが渋っていたが、と言うか企画書の段階でもうひとりの准海尉の小嶋さんが潜水艦でベトナム支援とか言い出した時点でまず喧嘩になったから、僕がテキトーにその場を宥めて取り敢えず渋々OKを出させた」
「その小嶋さん、防衛大臣、よくご存知ですよね」
「あぁ…まぁ。
自衛官学校の教え子だ」
なるほど…。
「ちなみに防衛大臣、最近なぜベトナム行きが多いのでしょうか。あんな情勢が不安定すぎる国。しかも密かに」
「支援はそーゆー国にこそ」
「なんで潜水艦なんですか?
ちなみに雨、あの日の艦内の爆発、覚えてるか?」
「ええ。はっきりとね。忘れられませんよ」
「悪いが鮮明に」
「…はい。
コックピットを佐渡さんが撃って、操縦不能のサイレンが鳴って、それから爆発して…」
「爆発の時はまだコックピットにいたのか」
「はい」
「外に出たときは?」
確か…。
「海でした」
海の中で、折れた潜水艦を見た。
ああもう、死ぬんだと思って。
海が綺麗だった。ぼやけた水の中が、絶望的に。
「つまりだ」
どうやら感傷に浸っている場合ではないらしい。
「操縦不能になって速攻で攻撃があったわけだ。
そのわりに陸軍で探してみたら死体もあまり見つからなかった。17人の隊員で、原形があったのは多分その話だとコックピット付近にいたからかな、佐渡さんとあんたと、あとは焼け焦げて正直よくわからないのが5名、あとは手とか足とかで3名分。でも大体は見つかった。見つからなかったのは秋津さんだけだった」
「待って、でも…。
僕は海の中で、半分に折れた潜水艦を見た。なのにどうして。だったらもう少し」
「…ちなみに船舶の部品は浜辺に流れ着いていたよ。その状況から察するに、結構、木っ端微塵にいったと考える」
「え?」
どーゆーこと?
「…コックピットはなんも積まないから、探せば、秋津さんは見つかるかもしれないね。
あんたが意識を失ったあと、多分、水中爆発を起こしたんだろう」
「は?え?」
「つまりだ。あんたらがベトナムに行った理由は、潜水艦なんかで行った理由はそれだ。
兵器等の密輸入。日本軍は、それを阻止するためにお宅らを爆撃した。本当だったら密礼だ。そりゃぁ、反政府的だと捉えられても仕方がない。しかしながらお宅らは、国から要請が掛かったと言う。さぁ、誰からだろうね防衛大臣」
樹実はタバコに火をつけた。防衛大臣は、冷や汗なのかなんなのか、身体中の穴という穴から汗を流して俯いている。
「ちなみに秋津艦隊を爆撃した空軍、鳴島隊の鳴島彰は先日何者かに暗殺されている。何故か鳴島隊は関西の空軍なのにも関わらず、関東屈指の秋津艦隊を爆撃した。
そう言えば空将、お宅、今、赤十字の支援受けるんだってね。赤十字のあんた。多分安泰だよ。この人出世したの最近だし防衛大臣お墨付きだから、しばらくは首飛ばないから。まぁ、輸血量だけは、気を付けなよ?|安西《あんざい》|敏成《としなり》空将」
ニヒルに樹実は言う。漸く名前が出てきた安西空将は、「何が言いたい…!」と、歯噛みした。
「言っちゃっていいの?
お宅、鳴島さんが暗殺されたとされる日、鳴島隊がある関西のなんだっけなぁ、空軍基地から確か一人|採用《とって》るよね。名前は確か…」
「いない!」
「あぁそう?まぁいいけど。
そう言えば俺が追い出された陸軍の曹長がね、あんたのこと物凄くベタ褒めしてたよ中塚さん。これを機に出世させてやってよ。
「戦争を全面否定する訳じゃないから軍が腐っていかない」ってね。
俺はそんなクソみたいな隊に戻る気はないけど、彼、結構あんたにご執心だったからさぁ」
その曹長はこの前僕が殺した人だろうよ。
「ふっ、」
そんな中、星川匠が嘲笑う。そして、中塚をちらっと見た。
「あんたがやってきたことが露見しましたね」
「何言ってる、俺はそんな、」
「知らなかった。だとしたら誰がやるんですか?書類の判子はあんたのでしょ?」
「俺はベトナム支援は確かに」
「だぁから言ったじゃないですか。書類には目を通せって。確かに、多いなぁとは思ってましたよ。何回だか知ってますかあんたが就任してから、ベトナム」
「は…?」
「8回です」
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