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 あぁなるほど。
 つまり、この人はなんにも知らないのか。

「ふざけんじゃねぇよ…」

 なんだそれ。
 なんだ、それ。

 気付けば僕は色々押し飛ばしていて、中塚の元まで行って一発ぶん殴り、倒れたところを馬乗りになっていた。

「てめぇこのっ…、」

 言葉が出ていかないがこれは多分憎しみだ。この情けないクソみてぇなアホ面、ぶん殴って超絶イケメンにしてやらぁ。

「17人の命を、てめぇ何だと思って政治家やってんだよこのクソったれが…!
 何が知らなかっただ、こっちは、こっちは下手すりゃ国を信じてやってたんだよ、僕や師匠みたいな半端モンですら何かを信じて、自分を信じて潜水艦に乗って軍人やって来てたんだよ、それを、それをてめぇ、税金使って何やってやがんだこのっ…、」

 ぶん殴る拳が取られた。
 振り向けば樹実が僕の拳を取っていて、脱力してしまった。

「こんなクソ殴ったってなんも埋まらないよ。虚しいだけだ。
 こいつらに人の命を預けなきゃならねぇ俺たちが悪いんだよ。大切なものは、自分で守るしかないのさ、雨」
「樹実…、」
「俺たちが言いてぇのはそんだけだよ。悪いな。胸くそ悪かったんで来たんだよ。テロ紛いまでしてな。
 星川さんこれでいいかい?あんたは何をしてくれるんだ」
「そうだねぇ、ご苦労さん」

 そう言うと薄ら笑いで星川匠は立ち上がった。そして僕は星川匠に手を差し延べられたが借りずに中塚から退くと、星川匠はしゃがんで、中塚の顔を見下ろした。

 中塚を見る星川匠の目は、最早汚物でも見るような目で、しかし口元だけは皮肉を込めて笑っていた。

「世代交代って言葉、知ってる?あんたが一生そうやって寝ていられるように、俺がこの国を守ってやるよ、おっさん」
「ふん、貴様が言えた口か星川」
「少なくとも俺は理解して書類に判子は押せますよ。座って議会で寝てるだけじゃ退屈すぎて吐き気がするからな」
「貴様はめやがったな」
「冗談よしてよ。全部自分でやったことでしょ。忘れちゃったの?リピートします?」

 星川匠はスーツからボイスレコーダーを取り出し、嫌らしく笑った。

「て、てめぇぇぇ!」

 起き上がろうとする体脂肪に、星川は一発蹴りをかました。

「やめてくださいよ、気色悪い。
 君達には感謝だ。一つ、政府から粗大ゴミが減ったよ」
「あんた、良い性格してんのな」
「君ほどじゃないよ、茅沼くん。
 熱海くん。君にも礼を一つ。そして、謝罪も一つ。
 これからもよろしく」
「…はぁ」

 胸クソ悪ぃ。

「君らの素直さが、いずれ日本を変えるといいな。
 あぁそうそう安西くん。君は解任だ。有給消化だけちゃんとしといてくれ。職務ご苦労様」
「なっ、」
「てわけでこの基地に赤十字の支援はいりませんので。隠蔽してるみたいだし」
「なんで、どうして…」
「はぁ、君ね。
 ゴミの日わかんない?一緒に出さないと関東の、東京は持って行ってくんないんだよ」

 さて、僕らの用は済んだ。
 樹実も同じ事を思ったらしい。目が合ったので僕たちはそのままその部屋を去ろうとした。

「帰るの?」

 しかし星川匠の声が掛かる。樹実は振り向かず、歯を食い縛ったように「あぁ」と言い、部屋を出た。
 扉を閉めた瞬間、樹実が思いっきりその扉をぶん殴ったので、拳を取る。

「そんな顔しないでください」
「うぅ、」

 多分「うん」って言いたかったんだろうな。

「大丈夫、信じて生きましょう」

 そう僕が言えば樹実は、驚いた顔で僕を見た。そして一瞬泣きそうになったかと思えば、やっぱり子供のような笑顔で笑ったのだった。

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