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「あ、熱海さん…あの…」
一曹の寺島《てらしま》くんが慌てたように僕を見た。入口の方に人だかりがある。その先には。
「あ、いた。久しぶりー」
黒いスーツに赤シャツという、何とも派手で胡散臭い格好をした長髪の優男が一人、凄く軽いニュアンスで片手挨拶をしてきた。
マジかよ。
「こんにっちわー」
「は?」
「あーそっか、もーし遅れましたー。国勢調査委員会《こくせいちょうさいいんかい》の茅沼と申しまーす」
なんだそりゃ。え?
「は、はぁぁ!?」
「元秋津艦隊隊員の熱海准海尉、貴方に素敵なお届け物でーす。3日間、俺と苦楽を共にしましょーね」
ふざけてんのかこいつ。
「あんた、マジかよ」
「まーまー話はタバコでも吸いながらねー。はーい。野次馬はどっか行ってーつーかタバコ吸える場所はどこですかー?」
「あっちですよ」
振り返れば。
羽田さんが笑いを堪えて右を指差していた。
「おー、いー部下持ったねぇ。はーい、案内よろしく」
「ぶん殴るぞ真面目に」
「嫌だなぁ、そんな狂暴だったっけ?まーまー、行こう」
しかしながら耳元で言う、「話がある」のトーンだけはわりと真面目で。
樹実の顔をまじまじと見つめてみれば目だけは笑ってないような笑顔で。
あぁ、なるほど結構ガチなネタをぶっ込んでくるつもりだなと、仕方なくも従うように喫煙所まで同行した。
然り気無く一緒に流れで来てしまった羽田さんは戸惑ってはいたが、僕が取り敢えず、「どうぞ」と促して、三人でタバコを吸う羽目になった。
「まずはお久しぶりです」
「久しぶり。元気そうで何よりだ」
ちらっと樹実が羽田さんを見たので、「彼は直属の部下です」と補足する。
「あんた方のおかげでクソほど出世いたしましたのでね。僕にも部下がつきました。こんな若手の僕に、ナメることなく、逆境の中ついてきてくれるような、そんな方です」
「良い部下をお持ちで」
「あなたはどうしました?離れたんですか?」
陸軍を。
それは飲み込んだ。流石にまだ話の全容が掴めていない。
「あぁ、俺にはついてませんなぁ。独り身ですよ。だからこんな胡散臭いことやってるんですよ」
「あぁ、自覚あるんですかそれ」
「まぁね。
君さ、あれからどうだい」
切り込んできたな。
「あれから、ですか。
まぁ少しづつですが…君が言いたかったことは、見えてきていますよ」
「ほぅ、例えばどんな」
「そうですね。
政権交代という言葉、あるじゃないですか。あれって便利ですよね」
樹実はイライラしたようにタバコを消した。
「焦れったいな」
「まぁまぁ。
秋津艦隊は関東屈指の軍隊でした。これはそう、全国的に有名でした。東西南北に於いてね。そしてその秋津艦隊が置かれたここは、関東軍です。言いたいこと、わかりますか?」
「なるほどな。良い線いってる気がする。
じゃぁ俺からのヒントだ。
お宅らを潰した空軍の鳴島隊《なりしまたい》、つまり鳴島彰《なりしまあきら》という男の隊、実は本拠地は関西にあった。しかしながらあれから、解散し、鳴島彰は暗殺された」
面白そうに樹実が語る。そして、公安にあるまじき所謂“白い粉”、の、まだあまり潰されていない形が残ったものが入ったチャックの小さなポリ袋を、ジャケットの内ポケットから取り出し、見せてきた。
「鳴島隊の敵対組織が関東軍らしいんだが、どうも潜り込んでみたら、若手がわりとシャブ中でな。疑問を提示しに来たわけだよ。
秋津艦隊と関東空軍とその他自衛隊関連の、まぁ鳴島隊の敵対組織の関連はどうかと。そして秋津冬次は、果たして何故殺されたのか」
うわぁ。
一応羽田さんもいるのにかなりヘビーじゃないかこの話。
「なかなかヘビーっすね」
あ、羽田さん。
「あ、そうだ」
てか忘れてたのかよ。
樹実はもの凄く気不味そうな顔で僕を見た。知らん顔をしてそっぽ向いてタバコを吸った。
「雨」
「はい」
「思ったよりもお宅のボスは、単純な理由かもな」
何が。
それは聞かない。
「その先に偉く黒い何かがあったとしても。多分、」
「…何が言いたいんですか」
「だからさ、この船には、乗らなくても」
「バカ言わないでくださいよ」
二本目のタバコに火をつける。
「僕は乗っていません。地に足ついてるんで」
「…君のそーゆーとこ、やっぱいいね」
漸く樹実のぴりぴりした空気が、子供のようなその笑顔で消し飛んだ。
「さぁてじゃぁ、洗ってやろうか」
「俺もその話、乗っていいですか」
「え?」
羽田さんが、ふと言った。
「てか聞いちゃったし。俺一応その人の直属の部下ですし」
なんてことを。
「羽田さん…」
「なんだかわからんが、まぁ面白いでしょ、多分それ」
「いいんですか」
「まぁ、はい」
「仕方ねぇな。
やるか!うん!」
また樹実は、楽しそうに笑った。
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