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 珍しく朱鷺貴は肩を落とし「悪かったな」と謝った。
 …正直「なんだよ」だとか、そんな言葉が返ってくると思っていたのに。

「…不愉快だな」
「いえ、それは」
「不愉快なんだよ俺は」

 返せなかった。何に不愉快か、処理しようとしているのか。だが、自分に謝るのは違うだろうと「わては不愉快でもないですよ」と告げた。

 振り返るのも、睨むわけではなく、少し悲しそうな朱鷺貴に却って罪悪感が湧きそうなのに、その方が悪い気がしてしまった。

「…正直やねぇ、トキさんは誰よりも」
「…なにが、」
「わかりませんが、言葉ではないです」

 …この自分のなかにも生まれた少しの罪悪感も、悲しみも、憎しみも、知った気になっているのかもしれない。朱鷺貴にいま、それがあるのかもしれないと思えば言葉は通用しないと思える。

「…ごめんなさいと、言わなくてええですか」
「何言ってんだよお前、機嫌悪いんだよ」
「えぇ、見ればわかりますよ。わてはどこへ行こうかなぁと思ってたとか、言わなくてええですか」
「だから、」
「親を殺しましたよと、言わなくてええですか」

 途端に朱鷺貴は黙った。
 「当て付けかよ」を待っていたのだが、「あぁ…そう」と言われることに、これは占めたのかもしれないと「すみません」と言っておいた。

「…纏まらなくて、気持ちが」
「…俺も丁度そんなところ」
「ですよね、きっと」
「当て付けかよ」
「そうです。わては思ったより……だから感じるのかもしれませんね。くだらないですか?」
「……あぁ、もう。バカみたいだな全く…」
「せやけど悪くないですよ。あんさん思ったより格好ええよ、人臭くて」
「…はぁ、」
「取り敢えず部屋に戻りましょ。ゆっくりしたい。役所にも行かないと」
「……忘れてた。ジジイに罰を与えてる場合じゃねぇ、」

 切り換えた朱鷺貴は笑って「教えてくれておおきに」と、やはり似合わず言うのだから、「肩に力入ってますよ」と伝えておいた。
 「お前もだよ」と減らず口に「はは、」と笑えたのだから、暫く考えなくていいやと思うことにした。

「親っつーけどさ」
「えぇ、先代を。まぁ直接ではなく」
「それ最早違うんじゃねえの?」
「ですかね。まぁですね。よく覚えてないということで」
「……それ、いいな」

 またしんみり言ってしまう朱鷺貴に「はい終了」と促す。
 いつか、知ることがあるのか、多分ないかもしれないのなら今は意味などない。

 ひとつ墓標を立てたらいいんだ、それが怠惰だとしても。やはり自分は坊主に向いているなと翡翠は勝手に結論付けた。 

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