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早速、寺の二番手「|壮士《そうし》」も連れ幹斎の部屋に立て籠った朱鷺貴は無言で腕を組みながら胡座で貧乏揺すりをしている。
「なんや一体」と言う壮士にか、気まずそうな幹斎にか、「どーゆー失態だよ全く」と口を開いた。
「…第一にヤクザ第二に浪人第三に男娼第四にヤクザ。おかしいよなぁ、おい」
「ヤクザは二人も」
「俺は知ってるぞ藤宮だか藤嶋だかいやどっちも出入りしてるんだよここはなんだ、黒すぎて笑えねぇけど留守中にどーなってんだよ一体ぃ!」
「いやヤクザは二人もいないんやて」
「知るか変わらねぇよなんでもいーわこの、情けねぇんだよ!」
「…いくらなんでも口が悪いで育ちが知れる」
「黙れ黙れ今俺間違いなく正論だわ見ろよ寺を!みんなビビって歩けねーわ!」
なるほどそんなことを偵察しに居なくなったのねトキさん。
「……来るもの拒まず去るもの追わず。だが平等じゃなけりゃ寺じゃねぇよバカか全く修行して来いよこんな若造に諭されてお前らなんなんっっ!だから威厳のねぇ寺じゃねぇんですか、それともヤクザから金貰えばいーんですか確かにねっっ!」
うわぁ何それぇ、最早ブレすぎてるのに本人全然気付いてなーい。
寺の者は皆冷や冷やと外で聞き入る。「大丈夫なのかあの人に任せて…」とまで聞こえてくるのに何故だか翡翠が「すんません」な気分。いざというときに全く決まらないのが朱鷺貴である。
「先程から心外やで朱鷺貴殿」
「えーそーですね心外なまでに裏社会坊主になってますよお宅ら。なんとか言って下さいませんかー幹斎クソ和尚」
「…いや反論の余地が」
「幹斎和尚!弟子に甘い!特にこの狐狼狸に!」
「あっ、それ壮士」
「ああぁ?なんだってなんだってぇ?いつまで言ってんの俺はこのとーりあり得ないくらい健康ですけど血圧大丈夫ですか壮士兄さーん、次言ったら咳掛ける」
「陰険すぎてよくわからんねん!」
「陰険ん?誰の事言ってるあのヤクザか?それとも己ですか?一回表出て『早読み読経大会』しますかぁ?負けたことねぇけど俺」
なんなんだそれは一体。
確かに朱鷺貴と一年いて、そうだこの人凄くネチネチする瞬間があるんだと翡翠も冷や冷やする。そして達者じゃないくせに口が回るのが凄い。詐欺師並みだ。
「わーかったわーかった、うん儂が悪かったって」
「罰として寺の前で亀甲縛りで晒されてくれ」
「ちょ、そんな重罪じゃ」
「その意識がダメなんじゃねぇのかおい」
「……そんなこと言うてますけど、」
壮士が反撃する、「朱鷺貴殿が連れてる男娼はどないしはりますか、一体」。冷や冷やした。その通りだ。全体的に自分が悪いと思えば、坊主たちの視線まで痛い。
「……は?」
「和尚が言うことに私は我慢してきましたけどこの狐狼狸といい男娼といいヤクザといい、どうなんですかね、」
黙った。
だがそれには「なんだお前は、」と言ったのは幹斎だった。
「儂はお前に昔言ったことがあるな、綺麗事かも知れんがお前は偏っている」
「えぇ、それには「わかっていますでしょう?」と私は諭した」
「……諭されてないが?」
「ならばもう一度言います、わかっていますでしょう、貴方のやっていることは」
「なら儂より偉くなれよ、小僧がっ、」
…それは最早逆切れじゃないのか幹斎和尚。
「だからお前の不遇を看取ったんだろうが壮士、」
「それは、」
「はいはーい!それいまかんけーないでーす!」
一瞬の殺伐が緩和される。
「…不遇だなんだ、不浄だなんだ、そんな利己はどうだっていい。
俺はあんたら反面教師のお陰で中立なのかもな、関係ねぇよ。だからあの田舎集団もヤクザも変わらねぇ、あいつらには拠り所すらあるが偏ってる。だからいらねぇんだよ。
勘違いしてんのかここは死者の居場所だ、しかし等しく誰も特別必要じゃない。わかったら肩入れするな。それだけが言いたい。だがこれもただの理由で俺はヤクザも田舎モンも気に入らない、これには壮士兄さんも、納得か?あぁ?」
…一体この人はどれだけ偏屈で隅にやられてきたのだろうか。翡翠も勝手ながらそう、考える。
「俺は生き人だ死者だ神だなんだなんてどうでもいい。自分で見た物にすがる、そういうもんじゃなかったっけ仏教って。それを捨てて云々があんたの教える逢仏殺仏、逢祖殺祖じゃないん?過去を、いくらでも捨てていいんだと、そう、」
「悪かった落ち着いてくれ朱鷺貴」
そこで空気がやはり張り詰めたようだった。こちらも流石に声を発する者がいない。
「………もういい話しても無駄。
現状寺は困っている。なぁ、親切ってなんだろうな、無差別は行きすぎると人を殺すよ、一番わかってると思ってた俺が悪かったんだよ、」
そうか。
きっと落胆している。
だが、じゃあ自分はなんなんだとも思えてならないが、朱鷺貴の言う「親切」など、されたことはなかったなと翡翠は思い至った。
がらっと戸を開けた朱鷺貴は皆に一言「悪かったな」とだけ告げ、部屋に戻る。
翡翠はそれに着いていくが、いたたまれず「トキさん」と声を掛けた。良くも悪くも、朱鷺貴はただただ純粋で正直なことを知っている。
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