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 朱鷺貴の一声に「げっ、」と幹斎は言うが、普通に気付いていた翡翠は何事もなく「トキさん、密偵のようですなぁ」とのんびりと言う。

「…起きたかお前」
「えぇ、はぁすんませんでした。探しているウチにこうなったようで」
「まぁ確かに朝からいなかった。もう葬儀法要埋葬とてんてこ舞いなわけだが、なんなんだこの二人は」
「いや、儂も葬儀4件で」
「へぇ、」

 心底気に入らないといった「へぇ、」には、藤嶋直々に「俺が頼んだんだよ」とあっさり白状をする。
 触りのみの朱鷺貴ですら、その様に異様さを感じたのか、「別に良いけど」とだけ言った。

「…へぇ、あんたにも葬儀に出るほどの友人なんて」
「…知り合いの知り合いの知り合いくらいだから厄介なんだよ。香典送ろうか微妙な位置の」
「まぁ、別に良いけど。あんたのせいでこの坊主、謹慎にしてたんだよ」
「…あぁ、そうかいクソガキ坊主が」
「気が立ってんなぁ、」
「お前のように聞き耳を立てる輩がいるとなるとどうしょもない話だな。苦労痛み入るわ幹斎よぅ」
「…儂には甚だ政治など」
「と言って隠居をした坊主が最近死んだのを知ってるか幹斎。まぁ立ち話もなんだ。
 徳を知るには時世も絡む世の中になったもんだ。甚だ関係もないからこそ誤解もある。最早世の中は混沌としているな。坊主も公家も関係がないということで、若者二人はこの話、聞くか?」
「は?」
「まぁ触りでも聞いたなら返せないけどね。早く連れて行け」
「…まぁ確かに仏さんの話なら聞かねばなるまいな。仕方のない。
 朱鷺貴は卒塔婆の準備、翡翠は客人に茶を煎れておくれ。無論、」
「他言厳禁。ぽろっちまうと明日には|三条河原《さんじょうがわら》で首だけだ」

 いけ好かず気に入りもしないがそうも言われては仕方ないと、返事はしないがぞろぞろと幹斎の離まで付いていくしかなくなってしまった。

 そういえばと、翡翠は朱鷺貴に手紙の件を聞かねばなるまいと思ったが、「ちっ、」と舌打ちをした朱鷺貴の不機嫌さに、まぁ後でにしようと話題を引っ込めた。

 …どうやら、藤嶋と幹斎はずっと前から関係があるのかもしれない。確かに歳も、もしかすると変わらないのかもしれないし。
 単純に関わりがあるとすれば、てっきり公家やらヤクザやらと坊主といった、単純なものだろうと朱鷺貴は思っていた。
 どうやら、そんなものでもなさそうだ。

 そしてふいに、思った。

「なぁ、藤嶋さん」
「…あんだよ」
「あんた、公家だと言ったな。末端の|寺社奉行《じしゃぶぎょう》と面識はあるもんなのか?」

 そうは聞いてみたが間があった。
 「考えすぎだ」と言う幹斎と、「そうだな」と答えた藤嶋の更なる返答を待つ自分がいる。

「なんだお前そんな生まれなのか」
「…忘れたけどね」
「ふうん。まぁ、お前ら諸大名より俺は偉かったからね。いずれにしても知らないだろうが、結局昔の話なんだよ。案外、お前ら坊主と俺は変わらねぇよ」
「どこが」
「いまや廃れているもんだし。本来、どんな国も民衆と王様が離れれば政治なんてもんは傾くんだよ。大抵はそんなとき、当たり前に人口は民衆が多いのだから、王様は処刑台に上がっちまうもんで。
 この国の優しいところは、代々そういった暴動がないところかな」

 …確かにいちいち、どこかこの男は一見すれば刺があるような物言いだが、それに自覚はないのかもしれないと朱鷺貴はふと思った。
 翡翠をちらっと見ても、「まぁ、こういう人なんです」と言うのだし。

「…あんたはなんでその“公家”を捨てたんだ藤嶋さん」
「そんなことに興味あんのか」
「いや…」
「単純に興味がなかったからだ。知ってるだろ、公家なんていうのは皆大体親戚のようなもんだ。
 それは寺とはまた違う意味で隔離されている。そんなもん、牢屋みたいなもんだろって、坊主に話したところでわからんもんだろうけど」

 …なるほど。

「ふーん」
「しかし、ならどうしてあんさんはそこから出られたんですか」
「お前までかよ。
 簡単簡単。持っていたものを返納した。いや、まぁ売っ払ったんだよ。その関係でお前の元親父殿とドンパチやった流れ弾で父親が死んだ、と」
「ふっ、」

 前を歩いていた幹斎が吹き出し、「珍しいな藤嶋」と言った。

「余程だな」
「…気まぐれだよ」
「しかしお前はその弾がどこへ行くか読むことが出来る…いや。差し向けることが出来るじゃないか」
「…喧嘩売ってんのか坊主の分際で」
「くわばらくわばら」
「まぁ、間違ってはいないけどなっ、」

 幹斎の離に着いた。

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