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「長々と失礼いたしました、お詫びを申し上げます」と寺を去っていく桂の背を見て「はばかりさんやね…」と翡翠は呟く。
部屋へ戻る際も朱鷺貴は考え詰めていた。
「…興味を持ったのですか、トキさん」
「そうだな」
「まぁそうやねぇ。乗ると思いますよ藤嶋は」
「そうか、」
「何分奇妙ですが意外とああいう独創性は好きな質なんで。巧妙に使うところまで込みで」
「…なぁ、翡翠」
「はい?」
1月の話を思い出す。
部屋についてぼんやりと一息吐こうが考えが巡る。仏壇が目につく。いっそそのまま巡らせようと考えた。
「藤嶋は恐らく、自分は槍玉に上がると言っていた。俺たちはそれを見ていろと、」
「…まぁ、らしいですわ」
「…少し、佐久間象山の書をまた読んでみようと思えた。俗世の話かもしれないが、そう、」
「…トキさんのお父様、きっとご立派な方やったんやて翡翠は思いましたよ。少々羨ましい」
そんなことを言う翡翠に、当たり前に「立派だったよ」と朱鷺貴は答えた。
だから、過ってしまうのだけども。
「特に何かをしようというのは、俺には役違いだと思う。だがそれで怠けている部分だって俺にはある」
「…志士になりたいですか?」
「いや、俺には役不足だ。だが考え方は普通の人の、当たり前に必要なところではないかと思う。人に寄るのが寺ならそもそもそうだろうよ」
「…やはりトキさんはええ男ですな。彼らはきっとええところより、悪いところが沢山見えてらっしゃいますよ。そんでも、ああや。武士というものを見た気がします。わてでも役不足やね」
むしろ近いものがあるような気さえする。本人にはきっと無自覚だろうけれども、と互いに感じる。
「トキさんが前に言うていた「勉強が下手だ」という感性、少しだけわかった気がします。幹斎さんに送るん?この録は」
「…もしや必要ないのかもしれないとも思えてきた」
それには「そうですか」としか翡翠は言わなかった。
「わても、アレのお陰で生きていこうなどこれっぽっちも思いたくありませんな。しかし全てを見渡してやってもええと…、それくらいには感じます」
悪いことばかりじゃなかった、それは事実だ。そうでなければこうして自分は生きていない。時が経てばそうなるが、これは全て何かからの余韻、名残なのだ。
それは、確かに皆そうで。
さて、と薬箱を眺めた朱鷺貴を察して翡翠は敢えて違う、幹斎が残した「爆薬書」を渡す。
一瞬眉を寄せたが「まずはわてです」と自分で佐久間象山の書をめくりはじめたのだった。
「あんさんは確か一度読んでるやないですか。わてはそっち読みましたんで交換です」
「…あぁ、そう、」
「夕方まで少しやけどね」
渋々と朱鷺貴は幹斎の書を開き、確かにと眺めてみることにした。
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