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 朝だと言うのに「おぉお南條さんとお弟子さん」と、出迎えた近藤は早くも暑苦しい男だった。

 「なんだなんだ」と寄ってきた面々も「また来たの」だとか「どうしたんだ」だとか、矢継ぎ早である。

「…一応世話になったので、挨拶くらいはして行こうと」
「ははぁ、久しぶりですな。どうですか千葉道場は」
「あぁ、中目録までは取れました」

 そう伝えれば「はははトシと変わりない」と、なんだかんだで嬉しそうにしてくれる近藤に、世話好きではあるよなぁ、とぼんやり朱鷺貴は遠目に思っているが、

「で、南條さんはどうでした?」

 だなんて切り返してくるのだから「いえ」と即返すに留めるしかない。

 「そうですか…」と近藤は非常に残念そうだった。

「しかしまぁ、錫杖よりかは使えるようになりましたえ、わてが」
「ははぁ、それはよかった」

 すぐ発つのですか?と聞いてくる近藤に朱鷺貴は「はい、」と答えようとしたのだけど、翡翠がふと、一歩後ろにいた土方に「土方さん、」と呼ぶのだから遮られる。

「…なんだい」
「…知れば迷い、知らねば迷わぬ、でした」

 へへへと笑う翡翠に、朱鷺貴も近藤も、いや、その場にいたものは当事者以外が「なんのこっちゃ」という具合なのだが、土方が「…そりゃ結構でっ、」と、何故だか気まずそうに返すのだから事情がわからない。

「…男を上げたっつーことかい」
「いや、下げたかもしれない」
「…まぁいいけど。一本やるか?」

 あぁやはりそうなるのねと苦笑する朱鷺貴は置いていかれそうだが、「いえ、すみません」と、意外にも翡翠が断ったのだから、まわりは見ていることになる。

「まぁだ、見合わないなぁと思いますし、わては錫杖なので失礼かと」
「…よくわかんねぇけどあっそ」

 シバくとか言っていたくせに。
 そもそも錫杖で戦わねぇよと、色々翡翠に突っ込みたかったのだが、「そもそも錫杖って何」と、その場にいる沖田が空気も読まずにそう言ったのだからあぁ、こいつらそう言えばチンピラだったなと改めて朱鷺貴は実感する。

「…墓標ですよ。旅坊主が死んだときに突き立てるものです」
「へぇ!そうなんだ」
「一心同体と考えるなら、武士にとっての刀、といった具合なのですか?」

 だから刀なのですか?と押しが強い近藤に、「あぁ、なるほど…」と、皮肉にも朱鷺貴も納得してしまった。

 考えも、しなかった。

 やらぬと言うなら「では、これにて」と別れを告げたが、それ以上も以下もなく。

 案外、江戸に来て学んだことはたくさんあるものだと、帰りになってやはり感慨深くもなった。

「…墓標だったんですね」
「ん?あぁ。知らなかったのか」
「それは幹斎さんから?」
「そうだけどこれは本当だぞ」
「墓標かぁ。とにかく早く帰りましょうね。
 しかしトキさん、聞こうと思っていたんやけどわては果たして條徳寺に帰るんやろうか」

 元はただ、幹斎に「行ってこい」と言われただけで。小姓と言っても大したこともしていない。

 だが朱鷺貴が「はぁ?」と言うので「なんでもありませんよ」と翡翠は答えるしかなく。

「…帰ったらまずは墓参りでもしたらどうだ」
「あぁ…そうか」
「俺もそうする」
「そうですか…」

 何はともあれ、旅路は長かった。
 これから果たしてどうなるのだろうかと少しだけ考える。結局わからないのだけどまわりはいくらでも変わろうとしているようだった。

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