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みよは起きてすぐ、だったようだ。
「わぁ、その…すみません、おはようございます」と慌てて髪を結び始める。
「いや、その、すみません、朝早くに。おはようさんです」
「えぇっと…」
翡翠の姿を見たみよは「発たれるのですか…?」と訪ねた。
翡翠も少し言いにくそうに「…はい」と答える。
「…そうですか」
「…早くに申し訳ないとは思ったんやけど、まぁ…、」
「いえ、わざわざ…有難うございます…」
二人にはなんとも言えない間が生まれる。
だから、どうなんだと翡翠は思うのだけど、「それじゃ、」と言う前にみよが「翡翠さん」と声を掛けてくるのだからそれを、飲み込まずにはいられない。
「…少しの間ですが…楽しかったです」
「…わてもです。会えてよかった」
「…また、」
今度はみよがそれを飲み込むのだけど、どこか察したような、切ない表情なのだから、「そうですね…」と、ついつい返してしまうところが確かに、優柔不断なのかもしれないと翡翠は自覚する。
「お寺にいらっしゃるんですよね?」
「…京の、山の上の寺に…恐らく世話になるかと思います、このまま変わらなければ。特に立派な寺ではありませんけれども」
「なんと言う」
「條徳寺というところです、」
「はい」
「きっと…」
「はい」
「あ、みよさん。
参拝には…二礼二拍手一礼が良いそうで」
「そちらはどのような場所でしょうか」
みよの押しに翡翠は黙ってしまった。
なんだか遠目で見ている朱鷺貴までもが「いけ、みよさん」と言いたくなる程に翡翠は焦れったい。
「みよさん、」
「…その…。京へ行った時に、立ち寄れたらと…」
「それはいけない、」
そうはっきり言う翡翠にみよは言葉をなくすのだが、
「いまはあまり治安が良くないそうですよ」
などと言う優男はいじらしい。
「わてらも帰京命令というもので。みよさん、」
みよは翡翠の言葉を待つようだ。
こんな時に待たせるようだと、翡翠はやはり、振り切った。
「手を」
翡翠の掌にみよが手を出すと、翡翠は先程のおみくじを乗せて「小吉です」と、案外すっきりと笑ったのだった。
「珍しいようです。小さな吉。少しの間でしたが、本当に楽しかった」
それから、
「わてのような男に捕まってはいけませんよ、」
それだけは純粋に思えた。
何か返そう、そうしようとしているみよに翡翠は少し頭を下げ、「お体に気を付けて」と去ろうとするのだから「翡翠さん」と呼び止めてみるようで。
「…鳥の話。声を“たたく”と言う話、翠は、雑じり気のないものだと言う話、」
それはまた違う鳥なんだけど。確かに、一度話したかもしれない。
「いつか、」
少し振り向いた翡翠はみよに、躊躇うように手を何回か振った。
雄鳥は雌鳥の鳴く声を聴く。それはいつでも別れのようで、もの悲しい。やはり、と翡翠は朱鷺貴の元へ帰るのだ。
盗み見しているのは承知で、「お待たせ致しました」と、平然と戻る翡翠に「ん、」と返すしかない。
だが、朱鷺貴は何も言わずと、「そうさなぁ、」と呟いた。
「…博打はどうだった」
「えぇまぁ、そうですねぇ…」
気付いてしまったのならそれが柵なのではないか。教えには無いかもしれないが、お前は“捨てる”という柵を捨てたのかもしれないなと、少しばかり満足したような、気さえする。
結局は人である。
どうやら、案外器用な男ではなかったらしいと、従者を一つ知ったような気がする。いつかと言えるみよが信じて疑わないことを、翡翠はどう捉えたのだろうかと今は少しだけ考える。
何故だか少しも残念に感じない。その予感に何も言葉はいらなかった。
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