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 想いはただただ、止めどなく溢れてしまいそうな気がして。

 しかしどうしてだろうか、こんな時こそ、筆は言うことを聞くように止まらない。そして語彙センスが研ぎ澄まされ、削られ、シンプルに、しかし読まなくともわかる。これは正直に、満点に近い。

 冴え渡る文章、想いはどんどん、指先へ、道を創って体現されて構成されていく。

 ただただ走っている。
 ただただ楽しくて。
 ただただ、どうしてこんなに的確で。

 はっと出来上がって、一度すべてを読み返し、読み返しながら文章を書き加えたり、文を変えたりしていくうちに、また想いは溢れていく。
 だってそうだ、この小説は。

 泣きそうになった。

 自分の胸に刺さったのは自分の言葉で。
 なにより自分は偏屈だが、とても、とても素直になって物を、創ってきている。
 これを集大成だと言うのならば。
 そうだとしたらこれはまだまだ。
 75点とつけておきたい。
 だってまだまだどうやら自分は。
 打ちのめされても、どうしたって、
 腐ってはいない、生々しく。

 あぁ、そう。
 単純に素直に、シンプルに。
 俺はいま、呼吸をしているんだと感じた。

 どうしたって切なかった。
 どうしたって苦しかった。
 けど、どうしたって楽しくて。

 この想いはそう、霽月のように澄み渡った、この文章力、自分でしかない、味だから。

 ふと過る、景色は蜉蝣《ふゆう》のようにぼんやりと。
 着物姿のあの人を思った。

 あぁそうか。
 辿り着けなかったのかと。

 蛍は万年筆を静かに置いて、空太を見た。

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