3
その、扉を開けた男子生徒、引っ張り出した俺の頭の片隅にある情報では。
成績が優秀。多分学年とかで一位で、教室の窓際の三番目に座る、名字の変わっている、男。
アホ面だったクラスメートは唖然とした表情で長身の、俳優のようなイケメンを見ていたのでした。無論、俺も同じで。
2秒ほどの間があり、「やべぇ、」と、アホ面のうちスッこけた、多分先ほど俺がすっ飛ばしたやつ、を介抱していた男子生徒が漏らし、唯一立つ高山に問う、「どうする」と。
「秋田、閉めろ。
よう学年トップ」
秋田、スッこけたアホ面は手を懸命に伸ばし、高山の命に従い裏手にあった教室の扉を閉める。介抱していた男子生徒、吉田は焦りを見せて締めた扉の前に立つ。
瞬間、黙りこけていた女が金切り声を上げた、「いやぁぁぁあ!た、助けてぇぇ」だと思う。うるさいので思わず口を塞いでしまった。
「金上、お前やめろよ〜なぁ、」
瞬間に高山の態度は一変した。
突然の友人のような親近感に俺は一瞬、それで近付いてくる高山にパニックに陥り、思わずぶん殴ろうとしてしまって。
「あ、あぶねぇよっ、金上!
なぁ一之江、ほら、危ねぇんだよこいつ。な?」
始終、黙って見ていた一之江、学年トップと俺と目が合い、俺に一言言い放った。
「忘れモン取りに来たんだが、退いてくんねぇ?邪魔なんだけど」
はっとした。
そうか。
この女が寝ている机のうちのどれかは多分こいつのものだ。
「…あ、あん、」
喋れなかった。喘ぎ声のように、漏れ出た俺の声は、あぁそうか、こんなもんかと、思ってしまい。
「何?聞こえないんだけど。
先生、定時過ぎますよ。いい加減退いてください。
そのあんたがケツに敷いてる机、俺のなんで、中から科学の教科書を取って頂いてもよろしいですか」
「…えぇ?」
女もそれには唖然としていた。
それを見た一之江は、わざとらしく溜め息を吐いてこちらに向かってくる。
「ちょっとまっ、
か、勘弁、してくれません、か」
「はぁ?」
歩み止める。
睨むように見るそれに恐々。なんだこいつは。おかしい。頭のおかしい俺が言う、おかしい。
「あの、はい…。
お、俺が、と、取るので、そ、その…。
どの、つ、机、な、なんですか、い、一之江くん」
「…君、大丈夫ぅ?」
「はっ?」
「ねぇ凄く…
呼吸が荒いけど、君はどうした」
「は?」
「何か持病をお持ちか」
「なっ、なにを、言っているか、さっ、ぱり」
「まぁ、いいけど。
ねぇその女のケツの下の」
わからん。
ぐらついた。何かに頭はぶつけたかもしれない。
悲鳴やら雑音やら、なにやら。高山の、何か声やらも聞こえてきた気がした。
誰かは降ってくるように俺に言うんでしょう。そう、高山のような声をした誰かは遥か昔から束になり、包むような世界観に浸すようなそれで。
「高山くん、悪いが水を持ってこい」
言うはずだったのです。だから俺はそう、
「ぃぁぁぁっ!」
声になんて出来ないものなのですよと開き直るしかないでしょう。
「ぁぁぁ誰がぁぁ!ぶっ、殺せぇぇ!死ねっ、あぁぁぁ!」
「落ち着け金上…嘉実。カナガミ、ヨシミくん。君はいま、」
「うるせぇぇ!あぁぁぁ!」
「うるせぇんだよ、ぶっ殺すぞこらぁぁ!」
それに閉口してしまい。
俺はただただ口をつぐもうとしましたがそれはより辛さを増して、増して。
「え、」
「いいから早くしろバカ共ぉ!水持ってこいっつてんだよ使えねぇなこいつを殺す気か!
俺は医者の息子だ、あぁいいうるせぇ、医者呼ぶぞ、逃げてぇバカは早く逃げ、」
何かの、衝撃があり。
見えたのは俺に少し凭れ掛かる一之江と、それに噎せた俺と、イスを振りかざした高山と。
「えっ、」
「死ねっ、の野、」
しかし。
痛そうに、しかしガバッと起き上がった一之江に高山は唖然とし。
「…いぃから、じゃぁ帰ればぁ?
おい金上、大丈夫か、息吸えるか?救急車呼ぶぞ。いいか落ち着け。
ゆっくり、ゆっくりな。わかるか?母親や父親の名前はわかるか?」
なんで。
「なん、だ」
「意識はあるな。
えっとポケベル…より…携帯電話か…」
片手で、いま椅子で強打したであろう後頭部を押さえながら彼は、鞄の中からゆったりした動作で携帯電話を取り出し、電話を掛ける。
「もしもし…。陽介です。
高校で生徒を介抱しています。そちらに搬送したいのですが車を要請できませんか?彼はいま過呼吸で…、少し落ち着かせましたが、はい、意識はあります。クラスメートで…。
はい、あ?
はい、まだですがいまはまず、緊急事…」
どうしたのか。
急に一之江は話やめ、すっと携帯電話を床に置いてから一度それを乱雑に鞄にしまい、
「ちょっと、立つぞ、血圧下がるからな。息整えろ。わかるか?見えるか?」
驚くほど冷えた感情のように言われたそれは、俺にとって総舐めするような現実で。
「はぁ、あぁ、」
落ち着ける訳はないが、なんとなくダメだ。これはきっと酸素が、酸素のあの丸い循環器が、止まってしまったのだと感じた俺は、仕方なく、ムリに、
いや、ムリではない。意識の問題であり、ただこの男は俺に対し今、何かを遮断したに違いがないと、パニックを起こした低酸素の中の答えは異常事態、あぁ、立ち上がろう。それだけの話であり。
手をついて立ち上がろうとしたそれだけで、「くはあっ、」視界は歪む。
は?
世界は、日常は、箱の、中だった。
箱の中のだった。
俺はいま。
何故どこにいま、
- 3 -
*前次#
ページ: