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 その、扉を開けた男子生徒、引っ張り出した俺の頭の片隅にある情報では。

 成績が優秀。多分学年とかで一位で、教室の窓際の三番目に座る、名字の変わっている、男。

 アホ面だったクラスメートは唖然とした表情で長身の、俳優のようなイケメンを見ていたのでした。無論、俺も同じで。

 2秒ほどの間があり、「やべぇ、」と、アホ面のうちスッこけた、多分先ほど俺がすっ飛ばしたやつ、を介抱していた男子生徒が漏らし、唯一立つ高山に問う、「どうする」と。

秋田あきた、閉めろ。
 よう学年トップ」

 秋田、スッこけたアホ面は手を懸命に伸ばし、高山の命に従い裏手にあった教室の扉を閉める。介抱していた男子生徒、吉田は焦りを見せて締めた扉の前に立つ。

 瞬間、黙りこけていた女が金切り声を上げた、「いやぁぁぁあ!た、助けてぇぇ」だと思う。うるさいので思わず口を塞いでしまった。

「金上、お前やめろよ〜なぁ、」

 瞬間に高山の態度は一変した。
 突然の友人のような親近感に俺は一瞬、それで近付いてくる高山にパニックに陥り、思わずぶん殴ろうとしてしまって。

「あ、あぶねぇよっ、金上!
 なぁ一之江いちのえ、ほら、危ねぇんだよこいつ。な?」

 始終、黙って見ていた一之江、学年トップと俺と目が合い、俺に一言言い放った。

「忘れモン取りに来たんだが、退いてくんねぇ?邪魔なんだけど」

 はっとした。
 そうか。
 この女が寝ている机のうちのどれかは多分こいつのものだ。

「…あ、あん、」

 喋れなかった。喘ぎ声のように、漏れ出た俺の声は、あぁそうか、こんなもんかと、思ってしまい。

「何?聞こえないんだけど。
 先生、定時過ぎますよ。いい加減退いてください。
 そのあんたがケツに敷いてる机、俺のなんで、中から科学の教科書を取って頂いてもよろしいですか」
「…えぇ?」

 女もそれには唖然としていた。
 それを見た一之江は、わざとらしく溜め息を吐いてこちらに向かってくる。

「ちょっとまっ、
 か、勘弁、してくれません、か」
「はぁ?」

 歩み止める。
 睨むように見るそれに恐々。なんだこいつは。おかしい。頭のおかしい俺が言う、おかしい。

「あの、はい…。
 お、俺が、と、取るので、そ、その…。
 どの、つ、机、な、なんですか、い、一之江くん」
「…君、大丈夫ぅ?」
「はっ?」
「ねぇ凄く…
 呼吸が荒いけど、君はどうした」
「は?」
「何か持病をお持ちか」
「なっ、なにを、言っているか、さっ、ぱり」
「まぁ、いいけど。
 ねぇその女のケツの下の」

 わからん。

 ぐらついた。何かに頭はぶつけたかもしれない。

 悲鳴やら雑音やら、なにやら。高山の、何か声やらも聞こえてきた気がした。

 誰かは降ってくるように俺に言うんでしょう。そう、高山のような声をした誰かは遥か昔から束になり、包むような世界観に浸すようなそれで。

「高山くん、悪いが水を持ってこい」

 言うはずだったのです。だから俺はそう、

「ぃぁぁぁっ!」

声になんて出来ないものなのですよと開き直るしかないでしょう。

「ぁぁぁ誰がぁぁ!ぶっ、殺せぇぇ!死ねっ、あぁぁぁ!」
「落ち着け金上…嘉実。カナガミ、ヨシミくん。君はいま、」
「うるせぇぇ!あぁぁぁ!」
「うるせぇんだよ、ぶっ殺すぞこらぁぁ!」

 それに閉口してしまい。
 俺はただただ口をつぐもうとしましたがそれはより辛さを増して、増して。

「え、」
「いいから早くしろバカ共ぉ!水持ってこいっつてんだよ使えねぇなこいつを殺す気か!
 俺は医者の息子だ、あぁいいうるせぇ、医者呼ぶぞ、逃げてぇバカは早く逃げ、」

 何かの、衝撃があり。
 見えたのは俺に少し凭れ掛かる一之江と、それに噎せた俺と、イスを振りかざした高山と。

「えっ、」
「死ねっ、の野、」

 しかし。
 痛そうに、しかしガバッと起き上がった一之江に高山は唖然とし。

「…いぃから、じゃぁ帰ればぁ?
 おい金上、大丈夫か、息吸えるか?救急車呼ぶぞ。いいか落ち着け。
 ゆっくり、ゆっくりな。わかるか?母親や父親の名前はわかるか?」

 なんで。

「なん、だ」
「意識はあるな。
 えっとポケベル…より…携帯電話か…」

 片手で、いま椅子で強打したであろう後頭部を押さえながら彼は、鞄の中からゆったりした動作で携帯電話を取り出し、電話を掛ける。

「もしもし…。陽介です。
 高校で生徒を介抱しています。そちらに搬送したいのですが車を要請できませんか?彼はいま過呼吸で…、少し落ち着かせましたが、はい、意識はあります。クラスメートで…。
 はい、あ?
 はい、まだですがいまはまず、緊急事…」

 どうしたのか。
 急に一之江は話やめ、すっと携帯電話を床に置いてから一度それを乱雑に鞄にしまい、

「ちょっと、立つぞ、血圧下がるからな。息整えろ。わかるか?見えるか?」

 驚くほど冷えた感情のように言われたそれは、俺にとって総舐めするような現実で。

「はぁ、あぁ、」

 落ち着ける訳はないが、なんとなくダメだ。これはきっと酸素が、酸素のあの丸い循環器が、止まってしまったのだと感じた俺は、仕方なく、ムリに、

 いや、ムリではない。意識の問題であり、ただこの男は俺に対し今、何かを遮断したに違いがないと、パニックを起こした低酸素の中の答えは異常事態、あぁ、立ち上がろう。それだけの話であり。

 手をついて立ち上がろうとしたそれだけで、「くはあっ、」視界は歪む。

は?

 世界は、日常は、箱の、中だった。
 箱の中のだった。

 俺はいま。
 何故どこにいま、

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