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それから残りの1年ほどは。
いや、確か1年もなかったなぁ。まぁ、大差ないのだけど。
入院と休学で3年生を潰した。
いや、考えてみたら僕は高校時代、全てをこうした苛めやら、己の葛藤で潰してしまったのでした。
その日、3階の階段から落ちて頭を強打し、死にかけた金上嘉実を救急車で運んだのは救急隊員だが、怪我をした時の様子まともに伝えたのは通りがかったクラスメートの一之江陽介だったと知るのは、高校を卒業してからになるのです。
詳細は明かされなかった、というか不透明で。金上嘉実がクラスメートの高山の、階段を降りる際に足首を掴んで、高山が反射的だかなんだか、掴んだ手を払うように前へ蹴っ飛ばし、そのまま雪崩れ込むように俺は落ちた。らしい。
そこの微妙な真実は未だ明かさないでいる。理由なんてナンセンス、それを知ればいまの君なら、昔話もまた違った角度に、なってしまうと僕は考えるからです。
しかしまだ生きていた金上嘉実と君、一之江陽介が再会したのは、それから2年後の、大学生になってのことでした。
俺は退院してからすぐにバイトを始め金を貯め、母もあれやこれやと奔放し、親戚連中から同情を得て金を踏んだくり、資金を集めました。
母親の中では、俺とは早々に手を切りたかったようで、一人暮らし用の資金、というか手切れ金のつもりの300だったようですが。
ありがたく拝借し、それで俺は大学に勝手に入学をしました。
無論、そこから母親と連絡は途絶えましたが、運が良いことにその時あてにしたツテ、親戚が目をかけてくれまして。
ある程度の金もあったし、大学卒業まではなんとか、生活に首が繋がりそう。しかしながら俺のなかでは、まだやりたいことがありました。
と言えば聞こえが良いのですが。
語学留学に行くことにしました。先ほどの口語の意味として俺は、まぁ、そう、世界を、水槽から脱出することは良いことだとか、そんな光に満ちた世界観的理論よりも、やはり幽体離脱に近い感覚です。
こんなクソみてぇななんもねぇ不道徳、無くならねえなら低酸素で死んじまえ、外に飛び出して、てめぇら誰も知らねぇ、誰も俺を知らない、そんなところに一度、避難しなければ。
それが頭にキたのです。
気が狂いそう、というより躍起、と言うより気が狂っていたのかもしれません。
Stay away?I don't know why.
不純は一貫して不道徳であるのか。
純情が果たして道徳なのか。堂々巡りに苦しむなら俺はその循環に足を向ける。それほどでなければ自我が、保てない。そう、その頃に気付いたのかもしれません。
いくら洋楽被れで、英語の成績が大学で確かにまぁそこそこだったとはいえ、元来の性分やらいろいろ、日本を経つ前には肩に力が入りましたが。
もう行ってしまえばくだらない。
大丈夫、その辺でピストルが鳴ってても大丈夫。
同じく留学した仲も良くない、よくわからないどこの分野の何科かすらわからない調子こんだ馴れ馴れしい、ほとんどケツやらおっぱい丸出しみたいな似合わない染色金髪の女の子が財布をパクられてもなんのその。
コカイン買おうとして金がなくてぶっ殺されそうになったこともありましたよ。20歳の春でした。
留学に行ったくせにネクラ人生にgood-byeな勢いでカジノやらディスコで遊びまくる半年でした。金がなくなりゃ親戚に言えばいい。正直開き直りました。
俺や母親や、あの人を、追い込んだくせにと、どうせと、金を使いながら、借りながら秘めていたのもありました。
バカげているので処方薬すら飲んだり飲まなかったりセルフ頓服。開き直れば、気が楽になれば、というかコカインと大して変わらねぇよというムダな偏見もありましたし。
こっちとら意味わかんねぇ気分の沈みさえなけりゃ女だって普通に抱けるわアホ。
第一その頃にはよくわからん病名に発展していて気が滅入る。
なので彼とも、本当に廊下で会ったのが最後でした。
あの日ですら病院に運ばれ、医者を変える変えないで母親がよくわからなく喚き散らし、何か決まったようですが、退院してから一日たりとも勝手に通院しなくなりました。あんなクソ病院、何が医者の息子だと。
ある日、俺がサンフランシスコでふとそれを思い出したのは、バーで飲み散らかしていた時でした。大学の、財布をパクられてもヘコたれない鬼のような女と共に、女の金でわりとほろ酔いで。
「ねー、よっちゃん。行こーよぅ」
「うーん、まぁ、そーやねぇ。俺金ないの」
「いいよ財布返ってきたしぃ。この辺の施設マジで凄いんだって」
「うん知っとるー。ヤバイヤバイ」
「はぁ!?誰と来たのよ」
「せんせー。ルーシーっつったかな。美人でヤバイ。バリGet up。
あ知っとー?日本ん人で、俺洋楽ばっかやったけん全然知らんかったばい。日本も狭ぇがよかね。情緒あって感情起伏がのうて拓けとらんで。
君んみたいにこーなんやろ、飲食店で下品なこと言う人、日本にはおらんよね!
ははっ、楽しかー!ばってん好きっちゃんそげん開けっ広げたとこ。けど施設とか言うあたりちゃーんと日本人やね、俺そげなんちゃんと好きやでー!」
「えなに、ちょっとよくわかんない」
「ちょい俺いま気持ちよか飲みよーけん超絶饒舌。これ、上手くない?」
「センスない。あんた信じらんない。
にやにやしやがってなんなの、最っ低。一回ヤったからって調子こいてんじゃねぇしこのにやけ変態野郎。お金はあげる。もー話しかけないでクソ野郎」
「ははっー!ありがとー!
Have a sweet dream,your bitch.
(良い夢みてね、アバスレ)」
お財布女は勢い良く立ち上がり、財布からむしりとるように札を出してバーカウンターへ投げつける。
ヤだなぁ。俺は日本人よ。お金を大切に出来ない女は本当に嫌い。だから君はお財布なんて物、調子こいてジーパンの尻ポケット入れといてパクられるんだ。俺が捨て身で速効犯人を走って追いかけなかったら君は今頃死んでるっての。なんだよ、一回お礼に抱かしてくれたの君じゃない。
交際3日?てゆうか交際?二回戦フラれてしまい、まぁ飲む金手に入れたし、お財布女、手切れ金多めにくれたしもう一件行こうかな。
そう考えて立ち上がった時でした。
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