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「俺あの、髪を耳に掛けるの好きなんだよね」
「うわっ、」
わかる!
絶対同意を口にしたくない。
「超マニアック」と竜二が言えば、吉田は「君に言われたくないよね」と苦笑いして反論してきた。
「…んで、彼女仕事でも若干抜けてるんだよね。あと職場では少し浮いてる」
「…吉田さん、AVはシチュエーションタイプっすね、きっと」
「…うん、まぁ」
「あの無駄な設定、欲しがるタイプ」
「うん…まぁ、」
「ちなみに俺は「人妻が旦那に満足いかず」っていう、それはどこを見たら行き着くんだっていう設定、いらない派ですね。これだって、彼氏彼女か、はたまたナンパして初めましてかなんて正直どっちでもいい、なんせAVだから」
「…つまり?」
「うん、やっぱ面食いに近いんでしょうけどね。
あんた、なんで伊織が他の男とヤってんのとか平気かって俺に聞きましたよね」
「うん」
「…俺じゃなくてもいい。俺がいなければいないでちゃんと変わりもあり循環するっていうの、超そそるんですよね」
「え?」
「俺じゃなきゃダメだとか、そういう押し付けいらない。それを含めて今一緒にいるって、なんというか自分がいない世界、AVのカメラの立ち位置みたいで萌える。でも…、欠片はあるのが事実かってね」
「…驚いた。それで束縛ってどういうことなんだろう…」
「理想と現実の歪みですかね。まぁ、カメラがないと本末転倒じゃんっていう、非現実感というか。
でも、伊織もそゆとこあるっしょ。自分がダメでも相手がちゃんと循環するような状態。俺はそこにいるわけで」
「…はぁ、」
「なにより…男に抱かれた後の伊織、超エロい」
「……長々言ってたけどそれだろ本音!」
まぁ全部本音だけどね、と思いつつ。
「…いや、わかりません?一回終わった後の伊織」
流石に吉田は顔を伏せ「…わかん、なくもなく…」と、しどろもどろになる。
「ほらやっぱり見た目に反してスケベじゃん。
吉田さんって言うなら…やっぱり自分に対して見栄という非現実に置いてくれたから、なんでしょうかね。
でもそれはみんなやるもんだよなぁ。あいつ、もっとセフレいたりして」
「…やっぱ本命なのかな、君が…」
「いや、」
竜二は言い切った。
「伊織の本命は俺じゃないですよ。多分、吉田さんや俺よりも業が深い男です」
「それが桝さん?」
「はい、まぁ」
女の胸がブラジャーから脱皮した状態。
竜二はまだ残るグラスにジャックダニエルを足した。
「…恐らく、高校だか大学だか、同窓会で引っ掛けた男ですよ。昔ちょっとだけ好きだったって言ってたやつだろうなと。
同窓会で飲んだら物凄く気が合ったらしいが、伊織は桝くんの日が一番疲れて帰ってくる。日を跨がないうちに」
淡々と語りながら酒を煽る竜二ははよく喋る。しかし、舌触りの良い喋り方だった。
「…恐らくは、バレてはならない相手。
半年以上は経ったか、それくらいの男で、同窓会で1発かと思えば、いつの間にか週一くらいの頻度で連絡があるみたいですが、外れも多そう。多分最初はそんなに頻度はなかったんすけどね。
たまにする芳香剤の臭い、それがない日はまぁ、シャワーでも浴びてきたのかなという安いシャンプーの臭いが分かりやすい」
なるほど。
都合よく手近に済ませる、月曜日に。なんとなく見えてきた。
「…もしかして既婚者、とか?」
「俺もそうだろうと思ってますよ。まぁ、あれだけ露骨だとわかりそうな気もしますけどね。
ちなみに救いでもないんですが多分2回くらい買ったばかりだろうなってシャツで帰って来たことがあります。前のシャツは一体どこに行ったのか」
「えっ、」
「なのにいまだに続く理由は限られてくる。もう少し早く再会してれば君と結婚してたのにだとか、煽られたんすかね」
竜二は吉田に「いりますか?」と瓶を翳した。
「大丈夫ビールがあれば」と吉田が断ると、竜二はジャックをらっぱ飲みした。
「それは…」
「吉田さん、今日仕事行ったんでしょ。珍しくスカートだったっしょあいつ」
「怖いな君は!」
「一緒に暮らしてるもんで」
「あぁ…そうか」
音のないAVをぼんやりと見ながら竜二は「まぁ、戻しますと」と続ける。
「最初は背中辺りに痕、残ってたんすけどね。最近はないなぁ。そう、床擦れみたいなやつ」
「うわぁ…なんかあんま嫌になってきた…」
「まぁまぁつまみだと思って」
「…君はなんで平気なの?」
「だから、別にそこも平気でしょ。1セフレは俺もあんたもそいつも変わらない。
その床擦れなんですが少し前からなくなって、そのあたりから桝と会う頻度が増した。その度に伊織はナーバスになっているというか疲れている。
予想でしかないですが相手の男には奥さんがいて…子供でも出来た。まぁ、丁度後部座席の?子供寝かせる用シートみたいなやつを?買ってみた、てことはセダンとかミニバンとかかなぁ、とか」
無音のAVは女がバックで手を掴まれている。
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