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 光敏の白いミニバンは、不忍改札のより少しだけ離れた場所にあったがすぐに見つかった。車を置けそうな場所はそこしかない。
 伊織が歩いてきた方面から言えば、逆で。

 車の後ろ側から寄ったのだけど、ミラーで目が合えば、直前までの無表情から一変しにこっと、光敏は笑った。

 「お待たせ、ごめんね」と伊織が助手席に乗れば「いや、俺がね」と、光敏は頭を撫でてくれる。

 タバコの白い靄と、まだ長いそれを光敏が揉み消している。

「…早く着いちゃっただけだから」

 「そう、」と無機質に良い、光敏は車を発進させた。

「…そう言えばなんか食べたの?」
「ううん、何も」
「コンビニにでも寄ろうか。どこにいたの?」
「…ちょっと先のカフェに…」
「そっか」

 そっか、で終わってしまった。
 でも当然か、と、「すぐ側にコンビニあるよ」と言ってみた。
 「うーん、そうかぁ、」と上の空の光敏は、あっさりとコンビニを通りすぎてしまった。

 しかし間もなく現れたコンビニで停車し、光敏はタマゴサンドとペットボトルの紅茶とコンドームを買ってくれた。

 当たり前にタマゴサンドを食べる伊織に、光敏は「旨い?」と聞く。

「うん、まぁ」
「俺あんまりタマゴサンド買わないなぁ」
「…そうなんだ。食べる?」

 ミニバンは信号で停まった。

 光敏は不忍池のトイレあたりをきっと眺めていたけど、伊織の声に振り向いたのだから、伊織はまだ食べてない方のサンドイッチを渡そうとするのだけど、「うん、じゃぁ食べる」と、光敏は伊織が持っていた食べかけの方を口にする。

 …わからない人、昔から。

「たまにはいいね、これ」

 車は青信号で発進する。

 伊織はそのまま、まだ食べてない方も食べ終え、買ってきた袋にゴミを捨て紅茶を飲んだ。

 次の信号で停まると光敏は、見計らったかのようにスカートに手を入れて来た。
 しかしストッキングやらスーツの生地やらで、触りにくそうに一度手を引っ込め、青信号でまた走り出した。

「上野公園って駐車場どこだっけ」
「…あるのかな」
「まぁ一周するけど。もしかするとパーキングとか、ビル地下とかあるかな」
「…わかんないや」
「まぁさっきトイレも見つけたから、いいんだけどね」

 やっぱりそうだったか。
 伊織は「トイレはちょっと嫌だ」と言っておいた。

「まぁそうだよね」

 爽やかに笑うのが非常に。
 後部座席をちらっと見た。

 次の信号までは長かったが、またスカートに手が入れられた。

 光敏が先程のを、悪い、と思ったかは定かじゃないが、伊織をちゃんと見て「ちょっと待っててね」と、爽やかに笑う。

「もうちょっとよく探すから」
「…うん…」

 その笑顔に、同窓会の日の帰りに「ちょっとだけ話しない?」と近くの公園で話したのを思い出した。
 なんの話をしたのかは覚えていない、多分、懐かしくて嫌な話。

 ベンチで伊織の手を取って、首筋に顔を寄せながらパンツのボタンに手を掛けた光敏に「やめて、」と言ったら噛みつくようなキスをされて、ジッパーは開けなかったがシャツのボタンをわざと2つも飛ばした後に光敏はこの顔をして「あぁ、買ってこなくちゃね」と言ったのだった。

「ホテルまで待ってくれる?」

 そう言って光敏は自分のジャケットを着せてきたが、そのジャケットはすぐに返した。
 けれど、「コンビニ寄ろうか」と言って、

「車で待っててよ、側にあるから」
「…いい、自分で、」
「そんなわけにもいかないよね」

 光敏はそれからコンビニに寄ったけれど、当て付けのようにコンドームを買ってきては見せ、でも結局ホテルには連れていかれてしまった。
 それまで、シャツは渡してくれなかった。

 「それは取っておいて」と朝方、ベットの中で言った時だってその笑顔だった。

 今日は、ボタンを飛ばされなかっただけまし、いや車内ではそんなこと、証拠以外の何物でもないからやらないと伊織は知っている。

「なに考えてるの?」

 光敏はそう言って駐車場を見つけた。
 車はたくさん停まっているし、端っこなんてないような場所で。

「…みっくん、ここは流石に捕まると思う」
「え?後部座席だよ?」
「うん、そうだとしても」

 光敏は「じゃぁどこがいいかなあ」と、シートベルトを取るのだから「待って、ホントに」と制した。

 なんならすぐ側にホテルだってあるのに。

 しかし光敏は「大丈夫」と言って乗りだし、キスをしてスカートを捲り上げる。
 見えない、そんな場所に蠢く光敏の手に、でも冷静に「待って、待ってよ、」と言うが、確かにキスとそれ止まりで。

「じゃぁ、後は専用パーキングかなぁ…室内っぽさはあったな」
「警備員とか…」

 身体、唇は離してくれたけど、至って普通の表情で刺激し、「少し待ってくれる?」と光敏は言う。

 おかしい、この人本当におかしい。

「…もぅ、いいよぅ…、」

 帰りたい。
 …帰りたい、筈だけど。

 泣きそうな伊織の声に、光敏はちらっと横目で伊織を見ては、驚いた表情で手を抜いて「ごめん、伊織」と頬に触れてくる。
 より泣きそうになった。

 光敏はそれからまた車を走らせた。
 ここは、1時間400円の駐車場だったようだ。

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