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泣きそうな頭が動く、同窓会の日、ホテルに連れ込まれてすぐ、ベットに伊織を押し倒した光敏は、第3、4、のボタンも飛ばすような勢いで破るように開け、「ずっと好きだったでしょ?」と、泣きそうな伊織の首筋に話し掛けたのだ。
「さっき聞いた。俺もそうだったよ伊織」
「…なんでっ、」
「あの頃から変わらないよ、」
「違う、」
そうじゃなかったでしょ。
だけど光敏は伊織の首筋を舐め、「知っていたら、絶対結婚してたのに」と調子の良いことを言う。
ふざけるなと伊織が光敏を見れば、何故だかあともう少しで泣きそうな表情に見え、そして、いままでの暴挙はなんだったのかというほど優しく髪を撫でて、「順番が違ければよかったんだ」と言うのに罪悪感が沸いたのだ。
…そう。
先に言っていれば、もしかして、そうだったかもと、なら、いま結局ここに来たことだってわかってる、流され過ぎてるではないか、こんなもの、自分が悪いに決まっていて。
「…みっくん、そんなこと、」
言わないで。
言う前にブラジャーをずらされ、食まれ、その瞬間に思ったどす黒い、
お前、死ねばいいな。
その自分の声に嗚咽が漏れた、あの日。ホテルの天井は無機質なタイプの場所だった。
沙紀は、きっと。
伊織が桝と話すようになった頃だった。
「あたし、桝くん好きかもなんだよね」
それに一歩引いて「そうなんだ」と言った自分が憎らしい。
それから毎日聞かされていた、「桝くんがね、」は、付き合って変わった。
「桝くん冷たくて」だの、「サッカーの話ばっかりで」だの。
うざったかったけど。
伊織には本当は、どの話も嬉しかった。
伊織に痺れを切らせたようにある日沙紀は「伊織さ、」と言う声。
「桝くんのこと、好きなんじゃないの、マジで」
怒っていた。
だけど、やっぱりそうだったかと、「ううん、」と言う愛想笑いが。
「沙紀ちゃん、仲良しだなって思うよ。大好きなんだなって」
「人の話聞いてる?」
「聞いてるよ。大好きだから、嫌いな話もあるのかなぁ、とか」
そう言ったあとの沙紀は照れ臭そうに「…そうかなぁ?」と言ったけれど。
それから三日後に沙紀と桝が別れたということはすぐに広まった。あんな男、と言う沙紀の声は、大きくて。
「ごめんね、真柴さん。俺の話、聞かされてるでしょ」
桝はある日そう言ったのだ。
「きっと間違えちゃったな、俺」
優しそうに桝はそう言って。
「でもホントは違うんだ」と続くはずだった回想に、「間違えたな」と光敏が言って、景色は車のない、パーキング。
「こっちに来ればよかったね」
「…うん」
光敏の顔はあの時と変わらない。
「思ったより広いし」と光敏が言った端の駐車場。
人目を気にすることは、なかった。
少し見つめ合った光敏はまたシートベルトを外し、大人の顔で近付いては中まで、キスをして来る。
「ホントはよくわからなかったんだ」
と言った純粋そうな高校三年生の桝が口を出す。なんで沙紀は俺と付き合ったのかな、そう言った、桝が。
ボタンを外して下着をずらしながら胸を揉む光敏はもう片手でシートを倒す。
それに「待って、」と伊織は言ったが不思議そうな顔をされてしまった。
「…後ろ。前嫌だ、」
「大丈夫だよ」
そう言って光敏はベルトを外しながら突っ掛かりもなく席を跨ぎ前だけを広げて見せる。
伊織の下着を触りながら「見えないでしょ?」と言っては、抱きつくように身体を預けて息を、掛けてくる。
「すぐが、いいでしょぉっ、伊織も、」
熱くて蒸せそうで。
夏の日の桝の家のベットは、夕方の日差しだった、その景色が近くて遠くて。
「…みっくん、」
呼ぶ声は自分でも分かる、泣きそうなのに。
光敏は子供のようなにやっとした笑顔で「伊織、」と言っては上目使いで胸を食んだ。
「痛くない?大丈夫?」
と聞いた頃とは、それでも遠くて。
初めては好きな人が良いとよく言う、そうしてよかっただなんて、あの瞬間だけは思った放課後。
互いにぎこちなく、学校から離れてから手を繋いで、「…寄ってかない?」と言われてその頃はきっと互いに純粋だったのに。
ホントは違うんだ。
沙紀はずっと話を聞いてくれなかったんだ。
でも、
噂で知ったんだ、俺の話、面白くなかったみたいなんだ。
でも私は。
キラキラしてて、見ているこっちまでなんだか微笑ましいなと、そう前から思ってたんだよと、あの日言えばよかったのに。
「そうだったんだね」
そして、「私は好きだよ、桝くんのお話」と言った、放課後の。
「…みっくん、」
「気持ちい?」
「…あの、ね…」
ストッキングは脱け殻のように足に絡まっていて、その上に下着も、あって。
「私にもいま、同居人がいてね、好きか…まだわからないけど、多分大切な人で」
そう公園で話したその瞬間まではきっと、純粋だったのに。
「俺にもいるんだけどさ、まだわからないんだ」
公園で笑顔で話した、その意味を再確認したのは、光敏がホテルで何事もなく指輪を嵌めた瞬間で。
「一緒だよね、これって」
この人の笑顔は何かを腹に飼っているものだった、どうしてそんなことを高校で気付かなかったのか。
「っくん、…ねぇっ、みっくん、」
「可愛いね、伊織」
引き裂かれるような感触に「…ぁっ、」と声にならない。
「こんなこと、真柴さんしか知らないよ」
あぁ、あぁ…。
何度も何度も感じた痺れは、本当は悲しくて仕方がないだなんて。
はぁはぁ、と息を切らして抱き締めるこの男に、そんなこと、言えるわけがないのに。
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